67話 岩戸


 ガンザの言葉を頼りに里を散策してみると崩れた鳥居と注連縄がある社と思わしき残骸を見つけた。


 社の奥には白い岩があった。以前は草木が絡みついていたのか枯れた蔦の残骸らしきものが残っており、岩に触れながら調べていると滑らかな表面だったものに凹凸を感じた。


「これは……」


 見てみると岩には剣に太陽と勾玉の紋章が刻まれていた。枯れた蔦を取り払って周りを調べてみると紋章が刻まれた楕円形の岩戸だと分かった。


「動かせますか?」


「やってみる」


 身体強化を発動して力を込めて動かそうとする。すると放出した魔力が岩戸を伝って紋章に流れると岩戸がひとりでに動いて一人が通れるくらいの洞窟が現れた。


「……今、勝手に開かなかったか?」


「勝手にというよりはベルクの魔力に反応したように見えましたが……」


「……ひとまず入ってみるか」


 種火を洞窟の中に投げ入れる。突然燃え上がったり消えたりしない事からガスはないのを確認してから魔石を灯りにして中に入っていく。


 岩をくり貫いて作られたのだろう洞窟は下に続く階段となっており壁に手をつきながら降りている途中でふと気付いた。


「この洞窟、魔術じゃなく人の手で作られているのか……」


「え?」


「壁や階段に魔術の痕跡がない。もしもあればフィフスにこの洞窟が気付かれたかも知れないがそのお蔭で見つからなかったみたいだな」


 入口の岩戸もおそらく特定の魔力じゃないと普通の岩と同じく何の反応もしなかっただろう。それにフィフスが襲撃した時は蔦が巻きついていたとすれば岩戸に気付けなかったのも不思議ではない。


 しばらく下りていくと部屋についた。全員に灯りを持たせて照らしてみると石壁には壁画や文字だけでなく石の台に文字が掘られた粘土板や箱が置かれており、奥へと進むに連れて部屋は扇状に広がっている様だった。


 壁に彫られた文字を見る。今のヒヅチで使われているものよりも更に古い文字で書かれているのはおそらく壁画と合わせて考えると古代のヒヅチの様子や儀式の図の様に見えた。


「これはまさか……」


 ヒノワが台に置かれた粘土板を見て表情を強張らせる。只事ではない様子に近くに行くと顔を上げてきた。


「ベルクさん、この箱を開けてもらえませんか?」


「……? 分かった」


 石の蓋を持ち上げて箱を開ける。中には古代に作られたのだろう祭具が入っておりヒノワはそれを手に取るとまじまじとそれを見て驚愕の表情を浮かべた。


「この紋章、それにこの文字はやっぱり……」


「何か知っているのか?」


 俺がそう問うとヒノワはこくりと頷きながら答えた。


「此処にあるのはカミシロの一族……私達ゴモンの祖先であり黄泉の門を封じた者達が遺した物です」

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