52話 雷顎焔嘴


ヒヅチでは武器に格付けがされている。


量産品の域を出ない数打ち、優れたものであれば名刀、魔力が宿れば妖刀、魂が宿ると謳われるほど力を有するものになれば業物。


そして大業物とは武器が変質するほど強大な魂が宿ったものを指す。セツラの錆不離は鬼と化すほどの戦士達の魂が宿り……。


雷顎焔嘴は天の火たる雷龍と地の火たる不死鳥の魂が宿りしものなり……。








―――――


嵐が消えるとシオンの姿が変わっていた。


体の各部に鱗が浮かび、髪や鱗がない箇所には橙に輝く羽毛が炎の様に揺らめいている。額には一対の角が生えており両目は龍と同じ縦長の眼孔となっていた。


龍と鳳が融合したかの如き姿に変化したシオンから熱風と共に凄まじい力が放たれていた。


「それがアンタの転身てんしんか」


「そうだ、この姿で戦うと周りへの影響が大きすぎる……だがお前が相手とあってはそうも言ってられん」


カオスクルセイダーの魂達を励起させ闇を纏う、“エクリプス”を発動させて野太刀を握った。


一気に踏み込んで上段から野太刀を振り下ろす、シオンも双刀を交差させる様に振るって互いの刃が衝突すると衝撃と熱波が拡散した。


熱波は両軍まで伝わり示し合わせたかの如く下がる、オヅマ軍の術師達が結界を貼り、ゴモン軍はセレナとヒノワ達が結界を貼った。


それを意に介する暇もなく俺は二振りの小剣を手にして打ち合う、闇と雷火が幾重もの軌跡を描き、その度に熱波と衝撃が生じて大気を叫ばせる。


双刀を受け止める寸前に小剣を剣砕きソードブレイカーに変えて受ける、刃を動かして動きを押さえると胸甲の闇から数本の槍を放った。


シオンは脚から炎を放出して下がる事で槍を避ける、すかさずマントを翻して数十の矢をシオンに射出した。


シオンが炎刀を振り下ろすと炎の竜巻が巻き起こる、射出した矢は吸い込まれる様に巻き上げられていった。


続け様に振るわれた雷刀から扇状に雷が放たれる、足下から搭型大盾タワーシールドを出して防ぐと同時に蹴り飛ばす。


シオンは搭型大盾を跳躍して避けると同時に雷刀を俺に振り下ろす、刀で受けるがすかさず炎刀が叩きつけられ衝撃で地面が割れた。


シオンの踵から炎が噴き出して脚が振り子の様に振るわれる、鋭い爪が生えた爪先が俺の胴体に叩きつけられてふき飛ばされた。


(あの体勢から蹴り……炎で制御しているのか)


翼を展開して矢を放つ、シオンは雷火を纏いながら迫る矢の雨を潜り抜けてきた。


二振りの小剣を逆手に持って双刀を受け止める、同時に膝蹴りをシオンの腹に叩きつけると同時に膝から剣を出して貫いた。


「っ!?」


だがシオンは貫かれたにも関わらず口角を上げて短く息を吸うと火と雷が混ざったブレスを放つ、零距離で放たれたブレスを受けて強い衝撃と共に再びふき飛ばされた。


地面を削りながら着地する、顔を上げるとシオンの貫かれた腹は炎が燃え上がると徐々に塞がっていった。


「治癒……いや、再生といったところか」


「そうだ、破壊もたらす天の火と恵みもたらす地の火……炎の正と負を宿すのがこの双刀だ」


シオンの言葉に納得する、絶大な破壊力に圧倒的な再生力に加え、シオンはその力に驕る事のない歴戦の戦士だ。


これほどの強者はヒヅチどころか世界でもそうはいないだろう、そう思えるだけの強さだ。


「はは」


だからこそ、笑いが込み上げてくる。


「まだ、いたんだな」


これほどの強者と戦える機会が来た事に。


「……決めようか」


思考が冴え渡る、五感が更に鋭くなっていく、鼓動と共に闘争心が高まっていく。


「どっちが強いか、な!」


闇の尾を引きながら俺はシオンに黒嵐の剣を振り下ろした。

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