51話 全力


(アリアside)


目の前の起きる攻防に敵味方問わず息を呑む気配が伝わる。ヒノワやアメリは勿論ライゴウやイルマ達も固唾を呑んで闘いを見ていた。


私達と違いベルクと知り合って日が浅い彼等からすればこの闘いの行く末に己の未来が掛かっているのだから仕方ない。


私やセレナ達は勿論ラクルもベルクの勝利を疑ってない、相手が誰であろうとベルクは勝つと信じてる。


(それは相手も同じみたいね)


向こうの将と兵達もベルクの強さに驚いてこそいるが揺らぐ気配はない。こちらと同様にシオンが勝つ事を信じて疑ってないのだ。


(……ベルクが勝った時や横槍を入れようとしてくるものには私達が警戒していないと、ね)


セレナやシュリンに目配せして頷き合いながら闘いの続きを見る事にした。








―――――


(ベルクside)


雷刀から放出される雷の矢を避ける、雷が如何に疾いと言っても刀の向ける先から軌道を推測して事前に動けば避ける事は可能だ。


手斧を投擲しながら距離を詰める、シオンは雷刀で手斧を弾き炎刀を俺に振り下ろす。


全身に纏った風に指向性を持たせて真横に飛ぶ、急激な方向転換によって炎刀は空を斬るが跳ね返る様に切り返されて再び襲い掛かる。


地面を蹴って炎刀を避ける、空中で身を翻しながら刀を手にして回転しながら斬り掛かるが雷刀に阻まれた。


宙を蹴って背後に回る、シオンは動きを止める事なく背後に回った俺の攻撃を防ぐがその度に纏った風を操ってあらゆる方向から攻撃する。


(より……疾く!)


炎刀を潜り抜け、雷刀を弾いて再び宙を蹴る、弾かれた腕が上がった事で生まれた隙を突こうと剣を手にして……。


炎刀が一層燃え上がった。


(っ!?……引っ張られる!)


炎が急激に燃焼された事で纏った風ごと吸い寄せられる、踏ん張って動きを止めた瞬間に雷刀が向けられ雷が襲い掛かった。


放射状に放たれた雷によって土煙が周囲に立ち込める、オヅマ軍から一瞬歓喜の声が上がるが土煙が晴れると同時に止んだ。


「やはりこの程度は通じんか」


シオンは双刀を振るって搭型大盾タワーシールドを手にした俺を見据える、一瞬でも判断が遅れれば上級に匹敵する雷をまともに受けていた。


搭型大盾を刀に変えて再び相対する。少しの間だけ沈黙が続くがシオンが破った。


「なぜあの鎧を使わない? 俺相手には必要ないとでも言う気か?」


その言葉に俺は策があるのか考えたが眼や口調からして純粋な疑問なんだろう。そう判断して答える。


「あれは奥の手だ、第一使ってないのはアンタもだろ」


「む……」


「転身だったか? 大業物は俺の鎧みたいな更に上の段階がある……アンタはそれで俺を確実に殺せるタイミングで使おうとしてたから牽制の為にも使わなかっただけだ」


俺の言葉にシオンはフッと笑い、ひとしきり笑うと言葉を紡いだ。


「考える事は同じか、お前を見ているとかつての俺を思い出す……将ではなくただ一人の漢として我武者羅に強さを求めていた時をな」


シオンが双刀を頭上に掲げながら力を高めていく、俺も刀を掲げて構えた。


「似ているな……俺達は」


「ああ……だからこそ全力で闘おう」


気付けばお互いに笑みを浮かべ、その直後に力ある言葉を口にした。


「軍装展開“黒纏う聖軍カオスクルセイダー”!」


「転身“雷顎焔嘴らいがくえんし”!」


漆黒と雷火、ふたつの嵐がぶつかる光景に両軍は神話の世界へと踏み込んだのかと錯覚した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る