42話 更なる存在(鬼side)


(鬼side)


戦場に破壊音が響き渡る、白い竜になった男の腕から放たれる一撃を錆不離で受けた鬼は衝撃を殺し切れずに後ろに吹き飛ばされる。


(何……これ)


錆不離を手にしてから傷を負っても治るし大抵の一撃は受けきってそのまま反撃できた。


だけど目の前の存在が放った一撃は違う、まともに受ければ即死だったし受け切る事も出来ずに吹き飛ばされた。


一瞬で距離を詰められて剣が振り下ろされる、受け止めるも片腕で押し込まれるという状況になって困惑した。


「あ、れぇ?」


力負けするなど今まで経験した事がなかった……。


腹に強い衝撃が入る、吹き飛ばされて地面を転がると同時に襲い掛かる痛みで自分が蹴り飛ばされたのだと分かった。


ズキズキする腹の痛みは治まっていく、だけど治るのがいつもより遅い気がした。


「おかしい……なぁ!」


錆不離を両手で握り直し一息に距離を詰めて真一文字に振るう、余波で周囲に土煙が上がって振り抜くと衝撃波が巻き起こった。


だけど目の前にいる男は斬れなかった、左手を振り上げた体勢でいる男と腕に伝わった感覚から錆不離の腹を殴られて軌道を逸らされたと頭では理解するが動きを止めてしまう。


常人を超える身の丈と重量を有する錆不離が力が乗った状態で殴り上げられるなど考えた事もなかった。


腕を掴まれる、無造作に持ち上げられて投げ飛ばされると木々に叩きつけられ何本も折りながらもたれ掛かる様に倒れる。


(負ける……僕が?)


頭の中が今の状況と全身の痛みでぐちゃぐちゃになる、錆不離から濁流の様に何かが伝わってきた。


(僕が私が俺が我が負け勝て死ぬな生きれ痛い立て振れ倒せ戦え闘えやれ治せ動け壊せ破れ滅せ叩け潰せ貫け斬れ殺せ)


「あ、あ、ああああああああっ!!?」


立ち上がって錆不離を掲げる、溢れ出す力を刃に集中させると怨嗟にも似た慟哭が響き渡り周囲の空気を重く沈めていく。


「負けてなるものかああああああ!!」


自分のものとは思えない声が……いや、実際これは僕の声じゃない。僕の体を通して錆不離が叫んでいるのだろう。


男の持つ剣に光と同時に凄まじい力が宿っていき辺りを照らす、振り下ろされた錆不離は唸りを上げて迫っているにも構わず男は踏み込んで剣を振り上げた。


圧倒的な力がぶつかり合う。ふたつの刃は拮抗していたが錆不離が徐々に押されていき、光の刃が振り抜かれたと同時に力が霧散した。


男の空いた手に漆黒の剣が握られる、白い光に染まった中で唯一染まらない黒い刃が打ち上げられた錆不離に触れた。


その瞬間に僕の意識が消えていく、意識が消える直前に何かが抜け落ちる感覚があった……。

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