41話 姉妹の会話(帝国side)


「それで、研究は進んでいるのか?」


ミルドレア帝城の一室、皇帝の執務室にてヴィクトリアが書類を確認して判を押しながら通信水晶に話し掛けていた。


「まあなんとかねー、やりたい事が多すぎて時間が足らないよー」


通信水晶の相手、フィリアの間延びした声が返ってくる。映された顔が比較的健康に見えるのはテレジアの甲斐甲斐しい世話のお陰だろう。


「……ベルクはどうしているだろうな」


「あははー、まあベルク君なら心配しなくてもなんとかするでしょー」


書類の確認が一段落したところで休憩を挟みながら呟く、フィリアはそう言うが心配してるのは別の事だ。


「ベルクがやられるという心配などしておらん、問題はあやつがまたぞろ女を増やしてないか憂慮しているのだ」


「あー……まあ仕方ないんじゃない? 最近だとアリアちゃん達も負け続けみたいだし」


フィリアはそう言って赤い液体の入った小瓶を弄る、眼には好奇心の輝きが宿った。


「本当に面白い体質だよねー、魔力強化体質はベルク君以外にもいるけど基本的には宿る魔力も少ない傾向にあるのにベルク君は並外れた魔力量をしてるしさー」


フィリア曰く魔力強化体質は一種の生存本能により起きるものではないかという事だ。


魔力量はこの世界で生きる上で重要な要素だ、それが少ないとなると生まれた時から不利な状況となる。


だからこそ厳しい環境に置いても生きれる様に少ない魔力で最大の恩恵を得れる体質に変化するのではというのがフィリアの推論だ。


だがベルクは魔力強化体質にも関わらず魔術を問題なく使えるほどの魔力量を有している。これに関してフィリアはベルクから話を聞いた結果、ベルクの母親は何かしらの祝福を与える力があり、それがベルクを魔術が使える魔力強化体質という唯一無二の存在へと変えたのではないかと言う。


「いやー、愛って偉大だねー」


「お前が言うと白々しく聞こえるな」


「あははー、姉さん手厳しいよー」


「……フィリア様!」


通信水晶の向こうからドアを開ける音とフィリアを呼ぶ声が聞こえる。すぐに水晶にテレジアの姿が映った。


「ひゃっ!? どうしたのテレジアちゃん」


「どうしたではありません! 今日は開発された魔道具の試運転に立ち会うと言ってたじゃないですか!」


「え? もうそんな時間?」


「既に三十分過ぎてます! 手伝いますから急いでください!」


「ひゃい! そ、そういう訳で姉さんまたね!」


フィリアの言葉にようやく通信相手が私という事に気づいたテレジアはすぐさま礼を取って頭を下げた。


「こ、皇帝陛下!? み、見苦しいところをお見せして申し訳ありません!」


「構わぬ、手間は掛かるだろうがこれからもフィリアの世話を任せたぞ」


「姉さん、言い方が引っ掛かるよー?」


フィリアを無視して通信を終わらせる。静かになった執務室で一息つきながらかつてジャスティレオンが伝えてきた事を思い出していた。


……かの者が従えしは数多の英傑達、世界を救い滅ぼす最強足り得る万の軍。

かの者が救世主となるか魔王となるか、それは我等次第だろう。


「そしてベルクは救世主となった」


更に言えばカオスクルセイダーだけでなくハイエンドまで従え文字通りの最強となった、だがベルクが魔王となる事はないだろう。


この世界にベルクが愛し、ベルクを愛する者達がいる限りは……。


「かと言って増えるのもそれはそれで問題だが……まあ仕方ないか」


自分の腹を撫でながらベルクとの一時を思い出す、ベルクによって女としての自分を理解させられた時の事を。


惚れた弱みというものは実に厄介なものだ……。

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