40話 鬼の喜び


(鬼side)


「あーあー……」


さっきまで戦ってた場所で寝転がりながらぼやく、周囲には命の気配はなく既に嗅ぎ慣れてしまった血の臭いを吸いながら錆不離が呼び掛けてくるのを待った。


錆不離を手にしてから戦う以外の事はどうでも良くなった、お腹も減らないし喉も乾かない。


ただこうして戦える強い奴がいたり大勢が戦ってると錆不離がその場所を教えてくれる、だからそれまではこうして寝転がったりふらふらしていた。


「ん?」


錆不離がそれを伝えてくるのと蹄の音が聞こえてきたのは同時だった、そっちの方に顔を向けるとさっき壊れなかったのが黒い馬に乗ってやってきた。








―――――


(ベルクside)


「わあ! 戻ってきたんだ!」


鬼は喜色満面とでも言う様に飛び起きて大剣を手にする、いつでも飛び掛かれる様な体勢を取って聞いてきた。


「ねえ、戻ってきたって事は戦ってくれるんだよね!? さっきの黒いのまた使ってくれるんだよね!? いいよやろうやろう!」


「その前に聞きたい事がある、それに答えてくれたら戦ってやる」


「聞きたい事? ……んー、まあ戦ってくれるならいいよ、何?」


有無を言わせず戦い始める可能性を考慮していたが鬼は思ったよりも話す姿勢を取る。


「その剣はどこで手に入れた?」


「んー……覚えてない、なんかザワザワってした日があって気付いたら持ってた」


「家族はいないのか?」


「分かんない、ととはいた気がするけど」


「何故それほどまでに戦いを求める?」


「楽しいから」


鬼はそう言って手にした大剣を撫でる、そして恍惚とした笑みを浮かべながら饒舌に語った。


「戦うとさ、気分がすっきりするんだ。

自分がなんだったんだろうかとか胸がぎゅーって苦しくなるのがなくなるんだ。ならずっと戦い続ければいいって錆不離が教えてくれたんだ」


大剣……錆不離から凄まじい力と宿った思念が放たれる。


(やはりか)


錆不離にはカオスクルセイダーと同じく無数の魂が宿っている、だがカオスクルセイダーと違い錆不離に宿る魂は闘争心……破壊衝動とでも言うべきもので染まっている。


それは使い手の肉体と精神に変質をもたらすほどの力となっているのだろう。


「もう良い? 僕そろそろ待ちきれないよ」


「ああ、最後にひとつ……というか約束をしよう」


首を傾げる鬼に俺は単純な約束を告げた。


「負けたら勝った方の言う事を聞く、これが約束できるなら戦ってやる」


「あはは、何それ? 僕に勝つどころか殺さずに済ませるって事?」


鬼はこらえられないとでも言う様に笑う、そして笑いながら構えた。


「良いよ、出来るならやってみなよ!」


鬼は地面を蹴って飛び上がる、俺は鬼の動きを捉えながら剣を手にして力ある言葉を口にした。



白亜の剣が輝き、全身を光が包み込んだ。

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