第6話 指名依頼


「指名依頼?」


いつもの様に冒険者ギルドに向かうと受付嬢にギルドマスターが呼んでいると言われ奥に案内されると挨拶もそこそこにそう切り出された。


「うむ、中規模ダンジョン“黄昏の剣墓”は知っているかね?」


「…確か隣街にある地下洞型のダンジョンでしたね、出るのはスケルトンやゾンビ系統の」


「うむ、流石だね」


皺が刻まれた顔に温厚な笑みを浮かべたギルドマスターが頷く、これでも昔は白銀級の高位冒険者として活躍していた歴戦の猛者である。


「そのダンジョンなんだが…先日から魔物の出現量が格段に増えているんだ、今は冒険者達に依頼を出して対処できているが原因究明の為にはやはり最下層を調べる必要があると思う」


「…魔物災害スタンピードの前兆ですか、それは分かりましたがそれなら白銀級の方のが適任なのでは?」


「タイミングが悪い事に他の白銀級のパーティは出払っていてね、幸い居てくれた白銀級“白壁”のガランと青銅級達の臨時パーティが向かってくれてるが君は彼等を追う形で調査をしてほしい」


ギルドマスターは少しだけ困った様な微笑みを浮かべると俺を向かわせる訳を話した。


「ガランは主に商隊の護衛等をメインにしてる冒険者でね、無論実力は本物だし臨時パーティの面々も優秀なのを揃えてはいるが戦闘職に傾いてしまっていてね、そこで様々なダンジョン調査をしてきた君に依頼しようと決まったんだ」


そういう事かと納得する、まあ実を言うと残り物のダンジョン調査の依頼を受けてたのは誰にも邪魔されずに戦えるのと周りの目を気にしなくて良いという個人的な理由からだったのだが言う必要はないだろう。


「分かりました、剣墓にはすぐに向かった方が良いですか?」


「そうしてくれると助かる、その報酬の前払いという訳ではないが今回の依頼を達成した暁には君を白銀級へ推薦しようと思ってる」


「白銀級に?」


冒険者の等級は下から木級、鋼鉄級、青銅級、白銀級、黄金級、白金級となっており、今の階級である青銅級は中堅と言える級だろう。


そして青銅級から白銀級への昇級は簡単な事ではない、白銀級以上の冒険者は個人の強さや能力だけでなく冒険者全体のイメージを背負う存在とされ、人格も秘密裏に審査されるからだ。


力だけの乱暴者に世間を左右する依頼は任せられない、白銀級とはそれだけの責任がある故に昇級はかなり厳しいと聞いていた。


「君の仕事ぶりは若年ながら素晴らしいものだからね、冒険者に必要なのは出自でも血筋でもない、その者自身の実力と人格だ。


そして私は君が白銀級に相応しいと思っているよ」


ギルドマスターからの称賛に思わず顔を逸らす、こうして真っ正面から賛辞を贈られた経験は兄貴くらいにしかなかったから気恥ずかしくなった。


「…期待に応えられる様にはします」


頭を下げて部屋を後にする、歩きながらも胸の奥には自分のやってきた事が見てもらえていたという事を遅れながら実感して思わず笑みが浮かんでいた。












ベルクが部屋を出た後、ギルドマスターは机の引き出しから一枚の紙を取り出す。


それは探し人の人相書きだった、紙には失踪した人物の名前と日付、そして似顔絵が書かれている。


「冒険者には出自も血筋も関係ない、この言葉に嘘偽りはない」


ギルドマスターはそう呟きながら思い浮かべる、今さっき部屋を出た雰囲気こそ違うが似顔絵と似た青年の事を。


「だから君が冒険者でいる限りは一人の冒険者として扱わせてもらうよ、セルク=グラントス…いや、ベルク君」

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