第2話 多忙な兄(バドルside)
「これで終わりと……」
確認した書類に印を押す、任された仕事が全て終わるとタイミング良く執事がお茶を持って来てくれた。
「ありがとう、丁度休むところだったんだ」
「いえいえ、若様こそお疲れ様です」
執事が淀みない動作でお茶を淹れる、一口含んでふと窓から王都の方角へと目を向けた。
「……父上とセルクはちゃんと話せたかな?」
「セルク様、ですか?」
執事の言葉に頷いてお茶を飲みながらかいつまんで説明する、セルクが魔物が出る森に向かって戦っているのを父上はやめる様に注意しに王都に行っており、自分は領主代行として残っていた。
「それは旦那様が正しいかと……下級といえど魔物は魔物、たった一人で向かうのは危険過ぎます」
「セルクなら大丈夫だと思うんだけどね、ただ父上の言い分も分かるしさ」
ここ数年は忙しかったが今は極めて平和と言える時代だ、目立つ様な国同士の軋轢や問題もなく魔王などといった突然変異した魔物等による天災の兆候はない。
だがそれでも魔物による被害はなくなった訳ではない、現に侯爵家の領地でも魔物による被害が多少の増減はあれどなくなりはしないのだ。
(それでもセルクなら大丈夫だと思うんだけどね……それよりも)
「やっぱり僕もついていけば良かったかなぁ……」
父上とセルクの関係はお世辞にも良いと言える関係ではない、自身がその原因の一端になって
しまっているのも理解している。
だからこそ二人の仲を取り持つ為にも同行したかったのだが今は次期領主として大切な時期であるとして父上から止められた。
それに期末考査が終われば長期休暇に入る、去年までは領地の視察や挨拶回りに自身の婚姻の事などで会う事すら出来なかったが少し落ち着いてきた今ならばと里帰りさせる事を提案した。
父上が王都に行ったのは里帰りの為にセルクを迎えに行く事で森で戦っていた事の注意はそのついでなのだが……何故か嫌な予感がする。
「ん?」
コンコン、と何かが窓を小突く音がして見れば窓の縁に紋様が刻まれた鳩がいた。
窓を開けると鳩は手の内に納まって淡く光り輝く、光が収まると鳩は一通の便箋へと姿を変えていた。
「やっぱり“伝書”の魔術か、差出人は……」
“伝書”の魔術は手紙等を相手に届ける魔術だ、色々とあるがある程度の魔術を修めた者ならばこうした鳥の使い魔を用いたのが一般的だ。
「セルクから……?」
便箋には“兄貴へ”と弟の文字で書かれていた、封を破いて中の手紙を取り出す、その手紙には嫌な予感が考え得る限り最悪な形で現れていた。
“兄貴へ
何から書くべきか迷ったけどまずはこれまでとこれから掛けるだろう迷惑を謝っておきたい。
俺なりに努力も鍛練もしてきたけどやっぱり俺には兄貴以外の誰かに認めてもらえるほどの結果は出せなかった。
どんなに頑張っても兄貴と比較されてこの程度かって言われるのも、俺自身を見てもらえない事にも俺は耐えれそうにない。
そんな俺が侯爵家に居続ければ兄貴に迷惑を掛け続ける事になるだろう、だからそうなる前に俺はこの国を出る事にした。
兄貴はきっと心配するだろうし迷惑なんかじゃないって言ってくれるのは分かってる、だけど俺が唯一心を許せた兄貴の重荷になって生きる事を俺自身が許せないんだ。
俺の事は死んだ事にするなりいなかった事にするなり好きに処理してくれて良い、手間だろうけど俺が最後に掛ける迷惑とわがままだと思って許してくれ。
才能のない弟でごめん、自分勝手な弟でごめん、認めてもらえない程度で、こんな事で逃げ出す様な弱い弟で本当にごめん。
今までありがとう、さようなら。
セルク”
手紙を読み終えた頃には手が震えていた、その様子に執事が心配して声を掛けてくれたお陰で気を取り直せた。
「すぐに王都に向かうから至急馬車を用意して、何かあれば“伝書”で通達する様に、急いで!」
「承知しました」
執事に命じて自室に戻ると急いで着替えて支度する、支度しながらも頭の中ではセルクの事で思考が駆け回っていた。
(ここまで思い詰めていたなんて……)
分かっていなかった、自分の評価が弟に対してどれだけの重荷になっていたかを。
理解していなかった、セルクの周りに心を許せる人がいない事を、親にすら心を許せていなかった事を。
「何が神童だ……自分の弟の事すら分かってないじゃないか」
王都に向かう馬車の中で後悔に駆られながらもセルクを見つける方法を考える、だが王都の屋敷で待っていたのは慌ただしく動く家臣達と手紙を握り締めたまま頭を抱える父上だった。
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