07 空想家ってそういうことか!?


 

「あれ……?」


 なんだ今の……えーと……。

 確認するためにもう一度開いてみた。

 

『おかえり! 水無──』


「……」

 

 ゆっくりと扉を閉めて、扉にもたれかかった。

 

「そ、そうか……えっと……あっ。2年ぶりだからアレか。えーと、異次元? に繋がったとかって……だって、そうだよな。部屋に赤髪の美少女なんているわけ」


 そうだよ。そんな事あるわけがない。開ける速度が早すぎたんだ。 

 だから、今度はそっと……そっとだ。ゆっくり開けたらいつもの……。


『なんで、開け締めしてるの──』


「いるっ!!!!」


 これは、何が起こってる。

 何が、一体、どうして?


「妹! 妹! ちょっと!」


 隣の部屋でぐーたらしてた妹を連れてきた。


「扉開けてみて……」


「なにぃ? なんでぇ?」


「いーから、僕の妹がもう一人いるんだ!」


「妹は私だけでしょ」


「じゃあ姉だ。姉か、妹か。お母さんかもしれない」


「なに言ってんだか……」


 妹が扉に手をかけてふつーに扉を開けた。その背中からボクも覗いてみる。


『あ、妹さんだぁ。やっほ〜』


「いるっ!!」


 やはりいた。こちらに手を振ってきている。


「ほら、ほら! あの人なんでいるの!?」


「……? お兄ちゃん、いよいよやばくなったんじゃない? 誰もいないじゃん」


「そうだよね!? そうだよ──じゃないよ! いるじゃん! あそこ! 赤髪! 胸デカい女の人が!」


「……こわ。こじらせるとこうなるんだ……」


 なにっ、見えてない……だと?

 だってほら、いまも手を振ってきてるじゃん。薄暗い空間に明らかにコントラストがおかしな人がいるじゃん……。


「じゃあ、わたし部屋戻るから」


 素っ気ない態度で部屋に戻った妹の背中を見つめ、自分の部屋に視線を戻した。


『妹さんには見えてないんだぁ』


「妹さんには見えてないんだ……ね。うん」


 ぴしゃりと扉を閉めた。今度はボクは内側にいる。

 これ、なにが起こってるんだ?

 だって、部屋に……シャルロットがいるなんて。

 


      ◇◇◇

 


 部屋の中には鎧姿のシャルロットがいた。

 薄暗い勉強部屋兼寝室の部屋に赤髪を揺らして、椅子の上で足を畳んで座っている。

 剣なんかもどかっとベッドの上に投げられている……って、そんなことはどうでもいいんだよ。


「どういうことなのか説明をお願いします」


『水無瀬が呼んだんだろぉ』


 ぷくぅと頬を膨らませて彼女はそう言った。

 ってことはあの犬っころの時の記憶は現実だったってことか……?


「で、でも、なんでボクの部屋に」


『? だってぇ、風呂場で呼んでたじゃん』


 呼んだ? ボクが? 呼んだ……呼んだか?

 

 ──「な! シャルロット!」

 ──「反応なしと」


「呼んだな、たしかに」


『でもさすがに浴槽に出るのはアレだから、部屋に上がってゆっくりとさせてもらってたのさ』


 回る椅子に座ってくるくると回る彼女は目を瞑りながら人さし指を立てた。

 たしかに、それもそうか。全裸を見られるのは恥ずかしいし、見る側も気まずいだろう。

 

「というか……そもそもなんでいるんだ?」


『スキル。見てみ』


「スキル……?」


『あの部屋で手に入れたでしょ? 空想家だよ、空想家』


「空想家……」


『うん。空想家!』


「空想家?」


『そー! 一緒に脳内お花畑ゲート内で喜んだ本の奴!』


 シャルロットの言う通りにウィンドウを開いて、説明書きに目を走らせる。


 スキル名:【空想家】

 スキル紹介:あなたは空想家です。脳内には幻想的な世界が広がってることでしょう。安心してください。それは脳内だけに留まる時代はもう終わりです! あなたは空想家。強く空想したモノを手にすることができます!


 空想武器/3:でっかい盾

 空想友達/3:シャルロット


「これって……まさか……」


『そうなのだよ、水無瀬っ。私は何故かこうしてここにいる。水無瀬のスキルによって!!』


「すっ、すげええええぇ!」


 空想家ってそういう……ええ! すごっ……!


「じ、じゃあさ。もっと他の皆も出せたらすごくない! えっ、誰呼ぶ!? 誰呼ぶ!?」


『そうだなぁ。とりあえずはお兄ちゃんと』


「モードレッドだな! あとは三英雄は全員と会ってみたいし、主人公エレとも会いたい! えーーーーー、みんなと会いたい。これ、何人まで会えるん……」


「お兄ちゃん!! うるさい!!」


「イッ……」


 バンッと引き戸が軋むような速度で扉が開かれ、堂々たる出で立ちで妹が登場。


「ご、ごめん」


「怒ってはない。これは注意。一人で喋ってたら頭おかしくなっちゃうよ」


「はい……」


 二年間も会ってない間に、母さんに似てきた。妹怖い。

 っていうかやっぱりシャルロットは見えてないのか。


「あと、ご飯」


「ごはん……?」


「お兄ちゃんが帰ってきたから母さんが唐揚げ作ったって。腹減ってるでしょ」


「あ、うん……」ぎゅるるると鳴ったお腹を抑えた。「減ってる……」


 ダンジョン生活はずっとパンと栄養満載の保存食みたいなものばかりだったからなぁ……。


「すぐ降りてきてよ!」


 ぴしゃりと扉を閉められ、とりあえず作戦会議はご飯の後にすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る