08 これで、一緒に戦えるんだよ!


 からあげと聞いて心が踊った。大好物である。

 だが、食卓を囲むということは……こういうことになると思ってた。


探索者シーカーは稼げた〜? 2年前に億万長者になってくるって言ってたもんね」


「あはは〜……いや、まぁ……稼げれたというか、稼げれる予定だったというか」

 

「じゃあ、稼ぎ0ってことね? 明日は朝から職業斡旋所に行くのよ。もう探索者シーカーは諦めなさい」


 唐揚げを食べながら母は淡々と語る。

 ボクは親を説得するために『大金を稼ぐ』と言って半ば強引に飛び出した。

 母親側からすると「強引に出稼ぎをしにいった息子が帰ってきた」状態。だが、御存知の通り釣果は0なのだ。

 気まずすぎる。さっさと食べて部屋に引きこもろう。

 

『水無瀬の母さん美人さんだぁ。母親を泣かせるなよぉ?』


「分かってるっての」

 

「わっ! じゃあ、探索者シーカーはやめるってことね!」


「わっ、分かってない! 違う!」


「もう……」


『ぷぷぷぷぷ』


 シャルロットが普通に母さんの横でニヤニヤしてるのに気づかれてない。そんな鎧姿でキッチンをウロウロするもんじゃないぞ、まったく。


「ごちそうさま! 美味しかったです!」


「あ、せかい! もう……」


 ご飯を食べてダッシュで階段を上がって、扉を閉めた。


「ごめんなさい、母さん。でも、これから楽しくなってきたところなんだ」


『──じゃあ! やっとこさ戦うってことね!』


「ぴっ!」


 顔を覗き込んだシャルロットにビビり散らかして隅っこに移動。


「とっ! 突然に出てこないでよっ! 母さんが来たかと思ったじゃん。びっくりしたなぁもう……」


『驚きすぎよ。で、どうすんの? これから。戦うんでしょ?』


 くるくると周りながら、ベッドに腰掛けて首を傾げてきた。


『この前みたいな戦法はもう使えないもんね。言い訳はさせないぞ〜?』


 シャルロットのいう戦法は、犬っころに対してやった【一般人陰キャならモンスターに気づかれない作戦】のことだ。ちょっと名前が違うかもしらんが、まぁ名前はどうだっていい。

 あと、なんだよ言い訳って。なんの話だ。


「その話ならダンジョンから帰り道に相談したけど」


『あの時はまだ私は回復中だったもの。だから、どうするのって今聞いてるワケ』

 

「ランクEになっちゃったから、とりあえずはDランクになる所を目指すかなぁって感じ」


『言ったな! よぉし! じゃあ一緒にダンジョン探索だ〜!』


「え? シャルロットって戦えるの?」


『……はあ? いよいよ、おかしくなったかぁ! ちゃんと、ここに。ほら、みろみろ。ここにいるじゃあないか!』


 地団駄を踏む子どものように胸元に親指をさしているシャルロット。

 何が言いたいのかが分からない。今までもシャルロットはずっと会話をしてきたし……。


『ワタシ! ようやく一緒に戦える! 分かる!?』


「たたかえる…………?」


『くーそーか!』


「くそ……くそ? うんこ……あ、空想家のこと?」


『やーーーっと追いついたかこのナメクジめ。普通に接してくるからもしやと思ってたけど』


 シャルロットはベッドに投げていた剣を抜き、こちらに向けてきた。

 ぶわっと風が髪の毛を持ち上げる。


『一緒に戦ったでしょ? 私達』


「あ……あ、ああああ! そうだ! そうじゃん!」


 今まで普通に会話できてたからなんかその、アレだ。特別なアレがなかった! 

 そうじゃん! 今は、シャルロットがここにいるんだ!

 一緒の空間にいるだけじゃなく、戦うことができるんだ!


「明日! ダンジョンに行こう! 2人で!」


 立ち上がって手を握って上下にブンブンと振った。


『さっきからそう言ってるじゃない! でも、今日は早く寝なさいな。疲れてるでしょうし』


「いやっ……もっとこのスキルの検証をしないとだ。あと、とりあえずはシャルロットのことを詳しく知らないといけない!」


『くっ、詳しくって……ちょっ、一体、私になにを──』


 がさごそと携帯端末を取り出した。

 

「ボクが昔に書いてた小説ッ! 読み返そう!」


『……』


「なにその顔」


『なーんにも。早く寝るのよ〜』

 

「何いってんの。夜通し付き合ってもらうよ」


『えーーーー』

 

「いいじゃん。夜更かし」


『んーーー』


「あ、エレの好きな人とかも教えるからさ」

 

 腕を組んでいたシャルロットの耳が動いた。


『…………』


「そのほかにも聞きたいことがあったら教えるよ」


『……わかった。夜更かしする』


「よっしゃ。じゃあ、決まりな。ほら、ここ座って」


 シャルロットにしてみれば、ボクの小説は『自分の暮らしていた世界の秘密が分かる』ということ。そんなの面白いに決まってる。

 楽しいか。楽しいだろう。

 だけど、それと同じくらいボクの方も楽しいのだ。


 

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