第4話 根暗な根暗な私はお出掛ける

前回までのあらすじ!

 根暗な私に初めて、友達ができました。


「ねぇヒヨリン! どっちの服がオシャレかな?」

「ひ…………左……ですかね……」

「やっぱりそーだよね!」

「は……はい……」

 いや、何これええええ! なんでこんなことになってるの? どうして私は佐山さんと服を買いに来てるの? さっきの質問、当たってて良かったぁ…………じゃなくて! なんでショッピングセンターなんかにいるの?


「ヒヨリン! 今週の休みにショッピングしない?」

 昼食を食べ終え、教室に戻ろうとしていた私に彼女がそう提案してきた。

「ショッピングって…………なんですか?」

「え、ショッピング知らないの?」

「知らないといいますか…………したことないといいますか……」

 友達とも家族とも行ったことないなんて言えないよおおおおお。言えるわけないよおおおお。

「え! じゃあなおさら行こう!」

「え……ちょっと……待ってくだ……」


 で、今に至る。

「ヒヨリンは普段どんな服着てるの?」

 試着室の中にいる彼女が私に質問した。

「えっと……普段は…………あまり目立たない服を……」

「そうなの? 今日来てきた服めっちゃ可愛いよ?」

「あ、これは……お母さんが選んだので…………」

 私が選んだ服を着た彼女が試着室から出てきた。

「そっかー。じゃあ私のが終わったら次ヒヨリンの服選ぼう!」

「えッ、そ……そんな……悪いですよ……」

「いいんだよ! ほら行こ!」

 す、すごすぎる。さすがは陽キャ女子、こんなのついていけないよおおお。

「ヒヨリン、どんな服が良い?」

 いきなり難しい質問ッ! 服なんてお母さんが選んでたからわかるわけないし…………。

「え……地味目な…………服で……」

 うん! これでいい。私みたいな根暗は地味な服がお似合いなんです。

「却下! ヒヨリンはオシャレな服にするよ!」

 人権無し! ならなんで聞いたんだろう…………。

「ヒヨリンには…………これとかどう!」

 そう言われ、試着室に入り、渡された服を着てみたが…………これは無理だよおおおおお!

「ヒヨリーン! どう?」

 無理無理無理無理! こんな短いスカートなんて履けないよ!

「着替えたなら出てきて見せてよぉ」

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 外に出たくないよ…………。でも佐山さんが呼んでるし…………仕方ない……。

 彼女の選んだ短いスカートを履き、少し大きめのパーカーを試着した私はカーテンを開けた。

「おおー。これは…………」

 やっぱり見せるんじゃなかった! 服は良いけどスカートが短すぎるよおお。やっぱり私には似合わないんだよ、佐山さんも下向いちゃったし…………。

「か……か……可愛いいいいいッ!」

「え?」

 え? 可愛い? 誰が?

「やっぱりヒヨリンには地味系より可愛い系の方がいいよ! めっちゃ似合ってる!」

 そ……そうなの……? 私……可愛い……? うへッうへへへへへへへッ——————。

「な、なんか、ヒヨリン…………気持ち悪いよ?」

 え? 気持ち悪い? 私が? そんなのずっと前からわかってますけど?

 そう思いながらも私は試着室の鏡で自分の顔を見た。鏡には推しのアイドルを陰から見守るキモオタのような顔になっていた。

 うわ! 何これ、気持ちわるッ! 私こんな顔してたの?

「もう! 笑わせないでよ。ヒヨリン面白すぎ」

「そ……そうです……か……?」

「だって、そんな可愛い服着て変な顔してるから」

「た……確かに……そうですね……」

 友達というか家族以外の人とこんなに一緒にいることなんてなかったから、どうしたらいいかわかんないよおおお。

「それはそうとその服どうする? 買っちゃう?」

 我に帰った彼女は私の試着している服を見て言った。

「か……買います……」

「おおッ! 買っちゃお!」

 そうだ。初めての友達と買いに来たんだから、せっかくなら買って帰ろう…………。

「二点で6340円になります」

 いや高ッ! 服ってこんなにするの? 服買いにきたことないからわからなかったけど、まさかこんなにもするとは…………。それを佐山さんみたいな人たちは何着も…………。私の今月のお小遣い、ギリギリだよ…………買いたい新刊いくつかあったのに…………。新刊と服、どっちを取るか………………私にとって本は命だからさすがに本を………………。

「お買い上げありがとうございます!」

 結局買っちゃったああああああ! ああ…………新刊……バイバイ…………。

「買えて良かったね!」

 服を買って絶望していた私の横で彼女がそう言った。

「そ……そうですね…………」

 友達と買いに来たんだ。今月は我慢しよ…………。それはそうと、次はどこに行くんだろう……………。

 どこに向かっているのかわからなかったが、彼女について行った。


「こ……ここは……」

「スタボだよ。スタボ」

 ス!・タ!・ボ! 聞いたことある名前…………確か……『スターボックス』? そんな名前だったはず…………何、星の箱? マ○オのスターでも入ってるのかな?

「お昼にしよう!」

 お……お昼にスタボ……? 女子高生なら普通なのかな?

「パラレルベリー・マキシマムオレンジ・ポロロマスカットハーフのラージで!」

 はい? パラ……マキ……ポロロ……? ハーフのラージって何? 半分の大きいサイズってどゆこと? 半分に大きいも小さいもあるんだ…………。しかもスターの要素どこにもないじゃん! 佐山さんいきなり何言ってるの? こんな変な呪文で伝わるわけが…………。

「はい! かしこまりました! パラレルベリー・マキシマムオレンジ・ポロロマスカットハーフのラージですね!」

 つ、伝わってる! 何でこんな変な呪文が伝わるの? 佐山さん、もしかして異世界人?それに店員さんも復唱してたし…………や、やめてええええ。頭がおかしくなるうううう!

「はい、ヒヨリン。何頼むの?」

「え…………あ……はい……」

 私も佐山さんが頼んだような名前を言わなきゃ!

「じゃ、じゃあ……ギガントポリス・ヴィクトリーメロン・ペペロンソーダハーフのラージで…………」

「申し訳ございませんが、うちにそう言った商品は取り扱っていません…………」

 で、ですよね…………。それっぽく言ってみたけどやっぱりないか…………。

「じゃあ…………同じので…………」

「はい! かしこまりました! パラレルベリー・マキシマムオレンジ・ポロロマスカットハーフのラージですね!」

 もう…………この店員怖い…………。


 注文を終え、飲み物を受け取った私たちは二人掛けのテーブルに座った。

「よーしヒヨリン! 写真とろ!」

 しゃ、写真? 写真なんてずっと撮って来なかったからどうやって撮るの?

「ハイ、チーズ!」

 彼女は私が反応する間もなく、スマホのカメラアプリを起動させた。

 いきなりすぎてよくわからないよ…………と、とりあえず……ピース?

「もう、ちょっと! なんでピース? これ持ってだよ!」

 え? あ、ピースじゃない……? パラレルなんちゃらを持って写真撮るの? なんで? こんなの持って何になるの? もうわけわかんないよ…………。

「もう一回撮るよぉ〜。ハイ、チーズ!」

「え……あ、ちーずッ!」

「ふふ、ちょっとヒヨリン、なんて顔してるの?」

「え、あ、これは……」

 いや恥ずかしいいいいい! せっかく取り直してくれたのに、なんて顔してるんだろう…………。これは笑顔なの? まるで般若にも見えなくはない…………。

「でもこれはこれで良いかもね!」

「そ……そうですか……?」

 この顔が……いいの……? 般若なのに? 高校生とはほど遠い顔してるけど? でも…………佐山さんがそう言うならいっか!

「これね、すごく美味しいんだよ!」

「そ、そうなんですか……?」

 彼女は写真を撮り終えるとすぐさま話を切り替えた。

「うん! これね、名前にオレンジとマスカットが付いてるでしょ? でもね、飲んで見てよ! 不思議な味がするから! なんの味か当ててみて!」

「え、あ、じゃあ……いただきます……」

 名前にオレンジとマスカットが入ってるのに味は違う? それって詐欺じゃ…………でもまあいいや、とりあえず飲んでみよう。

 私は恐る恐る謎の飲み物のストローに口を運んだ。

「え……これって……」

 バナナ……? いや、でも…………ぶどうの味もする…………。確かに不思議な味…………でも…………。

「お、おいしい……」

「でしょ!」

 私がそういうと彼女は笑顔で反応した。

この味は、メインはバナナだが、ほんのりぶどうの香りがする。それに僅かだがオレンジの酸味がこの飲み物の味を引き立たせている……………………って何の話してるの? これって料理系の話だっけ? 読者はこんなどうでも良い話なんかせずに早く先進めろって思ってるよ…………え? この話もいらない? もお〜。そんなのわかってますよぉ〜。

「今度ここも行ってみようよ!」

「え……ここですか……?」

「ここもすごく美味しいんだよ〜」

「そ……そうなんですか…………」

 あぁ……なんか……楽しいな……。いつもなら本屋さんかお母さんに頼まれてスーパーに行くだけで、お出掛けというお出掛けをしていなかった…………。でもこうして友達とお出掛けできるなんて…………私は幸せ者だな…………。


 帰りの電車にて————————。

「はぁ〜。楽しかった!」

 はぁ〜ッ! 疲れたッ! お昼の後、結局また服屋さんによって私の服を追加で買うことになったし、その後またドーナツ食べたい佐山さんの提案でミスボに行くことになったし…………。

「私も欲しかった物買えたし」

 正直、今日だけで今月分のお小遣いと体力が消えた気がする。

「美味しいものも食べれたし!」

 スタボもミスボも美味しかったけど…………。もう、しばらくは出掛ける気力がない…………。

「ヒヨリン。今日、もしかして楽しくなかった?」

 え……? 何でそんなこと聞いてきたの? 全然楽しかったのに…………。

 私はふと、反対側の窓に映った自分の顔に目をやった。

 あ……そういうことか…………私が疲れた顔してたから、佐山さんは私が楽しくなかったのかなって思ったのか…………。

「あ、いや……楽しかったですよ……?」

 私は残り少ない気力を使って、精一杯の笑顔を彼女に向けた。

「そっか! ならよかったよ!」

 私の笑顔を見た彼女は笑顔で返してくれた。

「でもよかった! ヒヨリンが楽しいって言ってくれて」

「え? 何でですか……?」

「私ね、思い立ったことはすぐに実行しちゃうタイプなんだ…………。中学生の時だったかな…………その頃に友達に迷惑かけちゃって、それ以来高校ではあまり友達作らないようにしてたの…………」

 そ、そうなんだ…………。あんなに明るい佐山さんでも、そんな過去があったとは…………って、私の悩みより全然良いじゃん! 私なんて、自分から話すことも、話しかけられることもないのに…………。

「で……でも……!」

「?」

 あわわわわわ! 私何言い出してるの? 今は佐山さんが喋ってる途中でしょうが!

「さ……佐山さんは……そのままで良いと思います……!」

「え?」

「クラスで一人浮いてる私なんかの為に……友達になってくれて……私……嬉しかったんです……それに今日だって……私が見たことなかったものを佐山さんが見せてくれた…………」

「ヒヨリン……」

「だ……だから……佐山さんは……そのままで良いですッ!」

 電車内で私の声が響き渡り、周囲の乗客が私を見た。

 あ……声のボリューム…………間違えた…………。

「ありがとね。ヒヨリン」

 私の言葉…………嬉しかったのかな? 佐山さん……今まで見たことないくらいの笑顔だ…………。

「よーしッ! じゃあ、今度はピズニー行こう!」

「え?」

 え? そ…………それは……ちょっと……早いと言いますか…………。私にピズニー(夢の島)なんて似合わないです…………。

「いいよね! ヒヨリン!」

「は……はひ…………」

 こういう時に断れない私を恨みたい! でも、佐山さんといると楽しいし…………いっか!

 茜色の空で私は友達と次の約束をした………………………………あれ? 今回…………何しに来たんだっけ……? ……………………まぁ、いっか! 明日からの学校、頑張ろう………………。

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根暗な私に恋してください うっちー @sho_hama

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