第3話 根暗な私は一人じゃない

前回までのあらすじ!

 根暗な友達いない私は、黒歴史を作り…………同じ過ちを繰り返してしまった。



“友達”————————あなたにとって友達とは、どのようなものですか?

『え? 私ですか? ……えっと………………今まで一人もいなかったのでわからないです!』

————————…………では、友達は必要だと思いますか?

『必要だと思います! とても!』

————————…………では、なぜ友達を作らないのですか?

『“作らない”のではなく、“作れない”んです!』

————————…………じゃあ、どうすれば友達ができると思われますか?

『全然わかりません!』


「赤瀬さん! 私と友達にならない?」

「……………………。」

「え、お、おーい。赤瀬さん?」

「……………………。」

「あれ? 聞こえてる? 聞こえてるぅ?」

「……………………。」

 これ今どうゆう状況なのおおおおおおおお! なんで私声かけられてるの? しかも友達になりたいって…………。私何かしたのかな? まさか!

『ヘイヘイお嬢ちゃん。俺と一緒に遊ぼうぜ〜』

『いやー。助けてー』

『そこのお兄さん。この子は私のクラスメイトなの。手出さないでもらえます?』

『な、なんだよお前さんわよ!』

『私かい? 私は“赤い太陽(レッドサン)”とお呼びなさい』

『“赤い太陽(レッドサン)”だと? うッ、うわあああああ』

『あなた……お名前は?』

『赤瀬日和よ。あなた、可愛いんだから、気をつけなよ?』

『赤瀬さん、ありがとうございました!』

 ……………………なんてことないか。昨日読んでたバトル小説の読み過ぎだね。そもそも私がこんな喋れる訳ないし。

 チャイムが鳴り、教室にいる生徒たちが自分の席に座り始めると。

「ん〜。もう! また声かけるからね! 赤瀬さん!」

 そう言って私に話しかけてきた女子生徒は自分の席のある方へ走っていった。

 もう声かけないでえええええ! 話せないから! 




「あれ? 聞こえてる? 聞こえてるぅ?」

「……………………。」

 なんでこの子喋ってくれないの? 私、この子に何かしたかな? 昨日は大きい声出してたのに。

「ん〜。もう! また声かけるからね! 赤瀬さん!」

 授業が始まるので私は仕方なく自分の席に戻った。

 私は佐山由紀。高校2年生。私は昨日、面白そうな場面に遭遇した。それはクラスのイケメン転校生・基山俊介くんと、私のクラスメイトの…………クラスメイトの…………あ、思い出した。赤瀬日和さんが、教室で二人っきりで話していた。それもなぜか赤瀬さんの一方的な離脱で終わってしまった。普段は静かで何を考えているのかわからない彼女だけど、昨日の出来事を見てからというもの、なぜだか彼女に興味が湧いてきた。そんな私が今日、彼女に「友達になろう」って話しかけたんだけれど…………。なぜか無視された。いくら静かな人でも私から話しかければ会話をしてくれていた。でも赤瀬さんは少し違う。というかだいぶ違う。無視するのはいいが、まるで死んだ魚を見るような顔でこちらを睨んでいる。本当に何かしたのかな私。昨日のこと、まさかバレてたとか? でも、昨日は基山くんと話してたし…………やっぱり二人、何かあるのかな?




え、何あれ?

 私は目の前の光景を目の当たりにした。

「基山くん。ちょっといいかな?」

「ん? 佐山さん? どうかした?」

 何ちょっとあれ、なんで二人が喋ってんの? 俊介くんと話してるの、さっき私に話しかけてた人じゃんか! 何? 私が無視したから、今度は男子にってか! 結局、あの人もクラスの陽キャ女子と同じ種類の人間だったか………………。でも、私…………いつまでこんなこと続けるんだろう…………。私もあの人みたいに、クラスメイトと気軽に話せるようになりたいな………………。私はあの人に嫉妬心よりも憧れを少しだが抱いていた。


「はあ〜。今日も一人か…………」

 昼休み、私はいつものように屋上に来て、一人で昼食を取ろうとしていた。

そりゃそうだよね。今日だってせっかく話しかけてきてくれて、友達になれるチャンスだったのに、自分から拒んで。拒んだというより無視してしまったし。ほんと私はどうしようもない人間だよ。

「はぁ……はぁ……ここにいたんだね…………」

 私がぶつぶつと独り言を喋っていると、下の階から屋上に繋がる扉から一人の女子生徒が現れた。

「昼休みになった途端、教室からいなくなるから、どこ行ったのかなって思ってたら。屋上でお弁当食べてたんだね」

「……………………。」

 なんでここにいるってわかったの? 私の跡を付けてた? でも、なぜか息切れしてるし…………。私を探してた? 何の為に?

「赤瀬さん…………」

 私が色々な憶測を考えていると、彼女が再び話しかけてきた。

「私と友達にならない?」

 今朝言っていた言葉を彼女はまた私に言った。こここここれはどっちなんだろう…………。もしかしたら。

『私と友達にならない?』

『い……いいですよ……』

『っぷ! ウソウソ!』

『え?』

『あなたとなんか友達になる訳ないじゃない』

 なんてことになったらどうしよおおおお! 一生誰とも話せないいいい! こうなる未来なら、いっそのこと私から断ろう。うん! そうしよう。

「ハ…………ハイ……」

 ちょっと? 私何言ってんの? 断るんじゃなかったの? どうせこの後は笑われて終わり…………。

「ほんとに? やった!」

「エ……?」

 え……? どゆこと? 友達になるのは嘘じゃないの?

「やっと喋ってくれたね。赤瀬さん!」

「ア……エ…………」

 何がどうなってるのかがわからない。私は友達になったの?

「ア……エット……ワタシナンカデ……ソノ…………イインデスカ……?」

「ん? 友達に良いも悪いもないでしょ?」

 彼女の言葉に私の心の奥にあった不安が少し晴れたような気がした。なんて良い人だったの! 私はこんな良い人を疑ってしまっていたなんて! でも一つ、気になっていることがあるんだけど…………。

「エット……オナマエ……キイテモ……?」

「え! 私の名前分かってなかったの?!」

「ハ……ハイ……スミマセン……」

「えっと、じゃあ……自己紹介するね! 私、佐山由紀! よろしくね!」

 クラスの人の名前を覚えていなかった私に彼女は優しい声で自己紹介をしてくれた。

「ヨ……ヨロ……シク……オネガイ……シマス……」

 あ……私今、喋れてる? クラスの女子と喋ってるよお………!

「赤瀬さんも自己紹介!」

「エ……ア……アカセ……ヒヨリ……デス……」

 自己紹介なんか中学校以来だからなんか恥ずかしいいい!

「日和って言うんだね……じゃあ……ヒヨリンだ!」

 ヒ…………ヒヨリン……! 初対面でいきなりあだ名呼び!? さすがは陽キャ女子…………凄まじい…………。

「ヒヨリン。私もお昼、ご一緒してもいい?」

 え……そんないきなり……? 彼女はお弁当が入っているであろう小さな鞄を手に持っていた。

「ア……イイデスヨ……」

 あ…………何でこんな時でも断れないんだ私は! でも………………。

「ヒヨリンのお弁当、可愛いじゃん! 自分で作ったの?」

「ア……イエ……オカアサンガ…………」

「そうなんだ。美味しそう!」

「ア……ヒトツ……イリマス……?」

「え! いいの? ありがとう!」

 あぁ…………私のお弁当を佐山さんが食べてる…………正確には私のじゃなく、お母さんの何だけど…………。

「美味しい! 美味しいよこれ! ヒヨリンも食べてみて!」

 そう言われ、私は自分のおかずを口にした。お……おいしい…………。いつもと変わらないはずなのに、何でこんなに美味しく感じるのだろうか。お母さんの腕が上がった? いや……友達と食べてるからなのかな…………。

「お……おいしい…………です……」

「でしょ! ヒヨリンのお母さん、料理上手いね!」

「あ……ありがとう……ございます……」

 こんなにも友達と話すのが楽しかったなんて思いもしていなかった。ああ…………こんな幸せなことがあっていいのだろうか…………これは帰ったらお母さんに報告だ。

「ところでさ、ヒヨリン」

 人生初の友達ができて幸せに浸っていた私に彼女が話しかけてきた。

「俊介くんのこと、好きなの?」

 なななな何で知ってるのおおおおおッ? しかも名前呼び! もしかして狙ってるのかな? それは十分あり得る。さっきも俊介くんと二人で話してたから…………。私を蹴落とすためにわざと私に近づいた?

『俊介くんに近づかないでくれる?』

『え……何で』

『何でって、あなた……根暗だもん』

『ガーン!』

『行こ! 俊介くん!』

『そうだね。ゆきぽん』

 ゆきぽん! ああ…………もう嫌だあ……俊介くんがゆきぽんに取られてしまう…………。

「ヒヨ……! ……リン! ヒヨリン!」

 私の変な妄想に項垂れていると、彼女は再び私に声をかけた。

「もう! さっきからおかしいよ?」

「え……あ……ごめんなさい……」

 もう。ほんと、私何してんだ…………。せっかく友達になろうとしてくれてた人をまた疑っちゃうなんて…………。

「さっきの話なんだけど」

「え……あ……はい……」

「ヒヨリンは俊介くんのこと、好きなの?」

 正直、その話はしたくない…………でも…………。

「ね? どうなの?」

 佐山さんの目が…………キラキラしてる! これは、言わないといけないよね…………。違うって言ってしまえばいいのかな……?

『俊介くんのこと、好きなの?』

『いえ……』

『そっか。よかった。私、俊介くんのこと好きだからさ』

 なんて言われたら、もう「そうです」なんて言えないじゃん! いっそのこと「そうです」って言っちゃおう!

「は……はい……」

「え?」

「え?」

「え?」

 え? 何この空気、やっぱり「はい」なんて言わなきゃよかった?

「そうだったんだね!」

「え……?」

 私の前で彼女は目を輝かせながら顔を近づけていった。

「私ね、ヒヨリンのこと、応援したいと思ってるの!」

「え……?」

 そおおおおおだったんですか! なんていい人! 疑ってしまった私を今すぐ殴ってしまいたくなるううう。

「ごめんなさい」

「え? 何が? って! やめてよヒヨリン、土下座なんて!」

 本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 私みたいな根暗女子が佐山さんみたいないい人を勝手に疑ってしまって!

「もう……土下座なんていいから。お昼食べちゃおうよ」

「は……はい……すみません……」

「もう! そうやってすぐに謝らないの!」

「あ……ごめんなさい……」

「だからそれだって!」

 私たちは残りのお弁当を笑顔で話しながら食べていた。今日は曇りのはずなのに、私の心は快晴だった——————————。




「お……おいしい…………です……」

「でしょ! ヒヨリンのお母さん、料理上手いね!」

「あ……ありがとう……ございます……」

 屋上で二人の女子高生の声が聞こえた。

「あ、あれは……赤瀬さんと、佐山さん?」

 屋上に繋がる扉の影で俺は一人、座り込んでいた。

「あの二人…………仲良かったっけ?」

 楽しそうに話している二人を見て、俺の顔は少し微笑んだ。

「良かったね…………日和…………」

 屋上の扉を背にして、俺は階段を降りた。




「あ! そうだ!」

 昼食を終え、階段を降りていると、彼女が何か思い付いたかのように喋り出した。

「な……なんですか……急に…………」

「あ、ごめんね。ヒヨリンと友達になった記念に、一つ思い付いたことがあるんだけど…………」

 そう言って私の耳に自分の口元を近づけて何かを言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る