第17話 日替わり豚汁または鶏汁


 頭痛持ちで怠け者の私は、陽が傾いてくるとようやく少し人間らしくなります。


 腰を据えて文章を書き始めるのもお日様の力が衰えてから。

 文章を書くのが好きで、それを仕事にしたいと思っているくせに、矛盾している。


 多分、私は猫に生まれるべきだったのだろう。

 いや、野良猫に生まれたら、早いうちに母猫に『こいつは駄目だ』と見放されて終わること間違いないけれど。



 話を食べ物に戻しましょう。


 そんなヘタレな私が晩御飯として頻繁に作るのが『日替わり豚汁または鶏汁』。



 私たち夫婦は野菜をある程度食べないと落ち着かない病にかかって長い。


 かと言って、動物性たんぱくを摂らないのは若くない身体によろしくないとも思っています。


 極端な例だが、長寿で活躍されていた作家の瀬戸内寂聴さんと現役ピアニストのフジコ・ヘミングさんは健啖家でステーキを食している姿を度々テレビで目にしたことがあり、そこから導き出された結論は、『ある程度の肉は必要』。


 長生きをしたいというわけではなく、これ以上不調を抱えたくないというインドアポンコツカップルの根拠のない後ろ向きな論なので、どうかこの点はさらっと流して欲しい。



 そのようなわけで、『ある程度の野菜』と『ある程度の肉』と『さくっと時短で作れる』の三点を満たしているのが、具だくさんの汁物になりました。


 作り方は簡単かつ雑で、これを私の母が知ったら『こんな娘に育てたつもりはない』と嘆く姿が容易に想像できるが、私が文章を書いていることを知られていない以上、ばれないと信じている。たぶん。


 よくよく考えたらこのざっくりな肉汁は、ここ数年の体調不良で極力外出せずに最低限の材料で作っているうちに我が家に定着したのだと思う。

 畳と同化するくらいの頭痛の時でも、この料理だけはなんとか食べられることが多いので。



 さて、作り方を紹介します。



 所要時間は肉と野菜が煮上がりによって変わりますが、二十分もあれば十分だと思います。


 材料は、水、料理酒、みりん、煮干し、生姜、干し椎茸、昆布、豚か鶏の小間切れ、お好みの野菜、味噌。


 手順その他は以下の通り。

 全ての量は人数分や食べたいだけで調整してください。



 私はいつも同じ鍋を使っていて、肉は二人で150g~230gくらいと決めていますが、野菜はかなりいい加減で思ったかさになるまでどんどん投入します。


 出来れば、取り掛かる三十分くらい前に鍋を用意し、料理酒大さじ三杯、みりん大さじ一杯、刻んだ生姜、手で適当にできれば細かく砕いた干し椎茸(軸は折り捨てる)、ハサミで適当に細かく切り刻み、煮干しも加え、肉を入れた時に十分被る程度の水を入れてしばらく置く。


 ここで重要なのは、肉は水から煮ることのみ。


 沸騰している状態の鍋に投入するよりも、このほうが断然美味しいと思う。

 福岡の名物料理の一つ、水炊きと同じです。


 そのようなわけで鍋の中が沸騰してきたら、灰汁と煮干しを取り除きます。


 そして、野菜の投入。


 とにかく時短を狙う私は全ての野菜を細かく刻みまくります。


 だいたい登場するのは以下の具材です。


 葱、大根、ニンジン、ゴボウはもちろんのこと、かぼちゃは厚さ一ミリ程度のそぎ落とし切りにしたのち(カボチャはこれが一番楽に切れます)千切りに近い状態にして、ジャガイモ・サツマイモ・里芋の芋類も厚さ一ミリ程度のいちょう切り。


 葉物なら、キャベツ・小松菜、レタスも大丈夫で、かさ増しにしめじなど刻んで入れても良いし、夏なら茄子が大活躍。


 オクラを入れるなら仕上げの直前に千切りの冥加と共に投入して火が通ったなら味噌を溶く。


 ちなみに夫は今、ワカメがブームなので(彼の食材ブームはいつも突然始まり突然終わる)、大さじ一杯の乾燥ワカメを隙あらば加えようとします。



 とりあえず三種類以上の野菜が入った鶏か豚の味噌汁をどんぶりにたっぷり装い、白米と何か小鉢、そして納豆か梅干しで晩御飯の献立になります。


 この小鉢ですが、おおむね、モズク酢か、金山寺味噌(こちらではもろみと言う)を添えた胡瓜とトマトか、サイコロ上に刻んだ豆腐と細かく刻んだトマトなど、ほんとうにささやかな一品です。

 何しろものぐさが加速しているので…。


 そして、これまた夫のマイブーム的な決め事で、食後にコップ一杯の牛乳と、コップ一杯程度の器にキウイ、レーズン、かぼちゃの種、ヨーグルトを盛り、その上に大さじ一杯の黄な粉と適量のジャムをトッピングしたデザートがつきます。

 なので、これを食べることを前提とした食事量となるのが我が家の晩御飯。


 …この、ラスト二品については我が家特有のものです。

 昔は私の実家の習慣で朝ごはんをたくさん (牛乳、トースト、野菜の具入りスープ、前述の具入りヨーグルト、紅茶) 食べていましたが、早朝に仕事場へ行く夫がある日『朝からこんなにたくさん食べられるか!』とブチ切れ、やがてヨーグルトと牛乳を夜に摂ることで落着したという…、非常に個人的な事情…。

 生まれ育った環境が違うとまあ、その。色々あります。

 現在、朝食は豆乳一杯とスライスチーズを載せて焼いたパンのみとなったので、夕飯の野菜の量はそれを補う形になります。



 最後に、私は干し椎茸の戻し汁と昆布(粉末でも大いに可)と肉は非常に相性が良いと思っているので、味噌汁に飽きそうだなと思う時は、煮干しを除外してコンソメ少々足し、水分の一部をトマトジュースにしています。


 そうすると具沢山ミネストローネの出来上がりです。

 こちらの利点は冷蔵庫で萎びた胡瓜やトマトの救済が可能な点でしょうか。

 ちょっと鮮度の落ちた夏野菜を刻み入れ、茹でて刻み冷凍しておいた蓮根や豆類などを足すといい感じのミネストローネスープに。

 これとパンとサラダで晩御飯の献立は成立。


 さらに、カレールーやビーフシチューのルーで煮るという方法もあります。



 とにかく具材をどんどん鍋に放り込んで煮ている間にそのほかの準備をしておよそ二十分でばんごはん。


 ずぼらだけど、ある程度身体に良いかもしれないご飯を食べたいときにお勧めです。

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