7.泣

 初めて決闘を申し込まれた時から、もう三週間ほどが経過しようとしていた。あの日から毎日のように、教室で突っ伏している僕の下にやってきては、色々話をする。その度に、一勝、一敗、とつぶやいて帰っていく。

 僕は改めて話をするために、彼女を連れだしていた。


「ねえねえ、今日も決闘するでしょ?」


「分かった。分かったから、とりあえず一回話をしよう」


「いいよ。でも、何でわざわざ屋上まで?」


「教室だったら、他の人の邪魔になるから。ほら、赤井さん声大きいでしょ。もうテスト前だって言うのに教室で大声で騒がれると、僕が冷ややかな目で見られる」


「…………ごめん」


 まくしたてるように、普段の思いを伝えると、彼女はうつむき、そしてそのまま背を壁に預けてしゃがみ込んでしまった。


「ま、まあ他に人がいたのは想定外だったけど、ちょっと話す程度なら全然」


「迷惑、だったよね……」


「……え?」


 僕の言葉に被せるように、彼女はつぶやく。


「こんな変な人間が、君の所まで毎日急に押しかけてさ、大声で決闘なんてはしゃいでさ。私、聞いちゃったんだ。君が私のことでからかいを受けているのを」


「そのくらい、別に男子の内輪ノリだから別に気にしなくても」


「でもね、私は君に迷惑をかけたくて、こうやって会ってるわけじゃないんだよ。君を前にして、大声になっちゃって、それで迷惑をかけているのは、私が百悪い」


「赤井さん……」


「それに、君はきっと優しいから、私に構ってくれてるだけなんだよね。私がこんなに変な人間でさ、迷惑な人間なのに、君はこうやって場所を変えてでも話をしてくれる」


 顔を膝で隠した彼女は、泣いているようだった。時折嗚咽を漏らしながら、彼女は話を続ける。


「三週間も経ったのに、愛想をつかさないでいてくれる。それが本当に、私はうれしいんだ。君と初めて会えたあの日から、ずっと色々考えて、やっとこうやって話せるように慣れて、さ……」


 僕はしゃがみ込んで、彼女の頭を撫でる。


「迷惑とは、思ってない。大丈夫。もちろん色々守ってほしいことはあるけど、それでも別に迷惑とは思ってないから。僕もここまで自分に働きかけてくれる人、これまでいなかったと思うから…………ん?」


 撫でる手を止める。明らかに伝わってくる熱が違う。


「赤井さん?」


「……なあに?」


 挙げられた顔は赤く、目は潤んでいた。でもそれは泣いているだけではなく……。


「熱っ! ほ、保健室ー!」


 額から伝わる熱は、明らかにただならぬものだった。

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