6.晴

「というか、さっきので合格なの?」


「合格。もう、大合格」


「何その言葉」


「百二十点あげます」


「それはどうも。で、本題なんだけど」


「ちょっと待って。すみません。このパンケーキのAセットください。君は?」


「え、えーと……じゃあ、同じのを」


 店員が去っていく。


「で、本題いい?」


「いいよ」


「決闘って?」


「けっとう……?」


「ほら、昨日の朝、急に教室に来て申し込んできたじゃん」


「あ、あー。あれねー……」


 はぐらかすような態度を再び見せる。


「そろそろ教えて欲しいんだけど。大体の見当はついてるから」


「へー。その見当って?」


「勉強関連だと思う。次の中間試験で対決、とか?」


「残念。不正解」


「えー?」


「ねぇ、何だと思う?」


「教えてよ」


「なんでよ。こっちが今聞いてるんですけど」


「運動系?」


「……もしかして誘導尋問しようとしてる?」


「その反応、運動系っぽい」


「違うけどっ…………あ」


「誘導尋問成功。文化系か。それで勉強以外ってなったらあと僕に残っているのは……」


 考えながら向かいの彼女の顔を見ると、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


「芸術系?」


「……答えたら、何してくれる?」


「今度はそう来たか。決闘する、ってのは?」


「まあ、いいけどね」


「おお、案外すんなり」


「あっ、パンケーキ来た!」


 彼女はぱあっと花が咲くような笑顔を見せて、自分の前に置かれたパンケーキを見る。


「めっちゃふわふわしてそう……」


「でしょ? いただきまーす」


 慣れた手つきでパンケーキを切り、写真を撮る彼女の画角に入らないように、少しソファーの奥の方に詰める。


「え、なんで避けるの?」


「だって今写真撮ってるんでしょ?」


「そうだけど」


「僕写ったら邪魔でしょ?」


「そんなことないよ。ほら」


「えっ、ちょっと。なんでこっちにカメラ向けるの」


「写真を撮るために決まってるじゃん」


 表情を一切変えずに何度もシャッターを切る彼女を前に、僕は何とかしてそのアングルから外れようとする。しかし健闘空しく、結局顔が隠れた写真を大量に撮られてしまった。


「よし。ごめんね。冷めないうちに食べちゃお」


「全く……」


「ちなみに、今私一勝目ね」


「……え?」


「やっと一勝できたー!」


 満足気に彼女はパンケーキをほおばる。


「いやいやちょっと待って。もう決闘始まってたの?」


「そりゃ、昨日からかな」


 彼女は急いで口の中を空にして、答える。


「こっちは受けるって言ってないのに?」


「うん。宣言したから文句ないよね」


「もうめちゃくちゃだ……」


「ちなみに私、今のところ大きく負け越してるから、これからもっと猛攻をかけるからね」


 不利だとは思いつつも、目の前でおいしそうに食べる彼女の顔を見ていると、まあいいか、とも思ってしまう。

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