4.怒

「あれ、こんなところで会うなんて奇遇だね」


「あ、赤井さん!?」


「よかったー、人違いじゃなくって」


 駅を出てすぐのところで、休日の私服の赤井さんと鉢合わせた。


「どこか買い物?」


「ちょっと文具を買いに。赤井さんは?」


「私もそんなところ。ねぇねぇ、一緒に行こうよ」


「いいけど」


「やった!」


 僕らは並んで歩き出した。


「足は大丈夫そう?」


「うん。ちょっと捻挫してたみたいなんだけど、もうすっかり」


 歩き方を見ている限りでは、本当にその心配はなさそうだ。


「よかった」


「君の方こそ、大丈夫なの?」


「僕のはすぐ治ったよ。起きたらもう元気に」


「よかったー!」


 よし、運がいい。いっそのことここで終わらせてしまおう。


「でさ、ちょっと本題に入りたいんだけど」


「本題?」


「うん。本題。えーっと……」


 どのように言ったらいいだろうか。昨日のこととはいえ、どうやって切り出せばいいか……。


「待って。まさか別の話に行こうとしてる?」


「え? まあ、そうなるけど」


「今、足元の話したのに?」


「足元って、怪我のことでしょ?」


「はーあ。何もわかってない」


「え?」


「女の子とデートする時は、何に気を付けたらいいんだっけ?」


「したことないからわかんないよ」


「でも、大体わかるでしょ?」


「てか、そもそもこれってデートなの?」


「えっ、そ、そそそそりゃデートでしょ。ほら、こんな風に男女が一緒にお出かけしてるんだから」


 彼女は顔をそらす。


「まじか。じゃあ初めてじゃないかも」


「……は?」


 こちらに向けられた顔に血の色はなく、眉間にはしわが寄っていた。


「いや、これまでも何回かそういうことがあったから……あ、そうか。その時のことを思い出せばいいのか」


「……」


 彼女は歩くスピードを上げて、スタスタ先に行ってしまう。


「え、ちょっと。一緒に行くんじゃないの?」


 僕も追いつこうと小走りで隣に追いつく。


「ご、ごめん」


「……なんで怒ってるか、分かってないでしょ」


「……ごめん」


「はぁ。もういい。今日はその本題とやら、無しだから。それと、今日は一日付き合ってもらうから」


「え、えぇ……」


「何、文句あるの」


「な、ないです……」


「よし、じゃあもういいや。行こっか」


 そう言って彼女は服屋に入っていった。


「……何してるの? 行こうかって言ってるんだけど」


「え? 僕も入るの?」


「当り前じゃん。何言ってるの?」


 彼女に腕を引っ張られるように、僕は店の中に引き込まれていった。


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