第2話 影にて助演の姉

 そんな彼女には大学二年生になる姉がいた。名前をなつみという。

 なつみはみゆきと違い、平均的に何でもこなせる女の子だった。子供の頃から大人びて見え、小学五年生の頃には、母親と街を歩いていて、スカウトされたことがあったくらいだ。

 もちろん、断ったが、本人はまんざらでもなかった。彼女の場合は興味がないことでも、何かをきっかけに勉強してみようという感覚があった。妹には欠如している好奇心であった。

 だが、妹は好奇心があまりなかったが、それを補って余りある想像力があった。一つの小さなことからどんどん大きく広がっていく想像力は、みゆきのもっとも得意とすることである。

なつみには、その想像力はなかったが、好奇心はあった。さすがに芸能界への興味は、勉強しても持つことができなかった。却って、知れば知るほど、深入りしたくないと思える世界に見えたのだ。

 なつみとみゆき、どちらが冷静かと言われると、意見が分かれるところだった。

「なつみちゃんじゃない?」

 という人には、大人が多かった。

 学校の先生であったり、ご近所さんであったり、何よりも彼女の両親が見ても、明らかになつみだと思っていた。

 みゆきを推す人には、同年代が多かった。

 同学年であったり、先輩でも一年上くらいであろうか、敵も多いが味方もちゃんといる彼女には、味方にはなれなくても、彼女の冷静さを評価している人はたくさんいたのだ。

 大人の人であっても、別にみゆきが冷静ではないと思っているわけではない。あくまでも、

「姉のなつみに比べれば」

 という程度のことであった。

 なつみにとってみゆきは、自分の妹でありながら、反面教師のようなイメージで、小学生の頃を過ごしてきた。なつみは自分が妹とはまったく違う性格であることを最初から看破していて、その違いがどこにあるのかをずっと考えていた。

 しかし、その答えは一向に見つからない。似ていないと思っているはずなのに、その根拠を見つけることができないという思いは苛立ちを覚えさせた。その苛立ちが次第に妹との距離を一定に置いてしまうことになり、中学時代には、妹を無視する時期があった。

 みゆきはみゆきで、姉がどうして自分を無視するのか分からなかったが、

――まあいいわ、お姉ちゃんにはお姉ちゃんの考えがあるんだわ――

 と考えることで、姉の視線を感じないようにしていた。

 無視はしていたが、姉からの視線は相変わらずだった。

 二人はお互いに意識しあっていないようだったが、実際には意識していて、その期間があったから、お互いがお互いを補っているのだということに気付くことができたのだろう。

 クラスで万引きがあった時、みゆきが真犯人に辿り着けたのは、その時の姉のアドバイスがあったからだと思っている。

「みゆきちゃんは直感が鋭い」

 という一言を聞いて、半分それを信用して直感を思い出してみたが、そこからいろいろ想像して、結局どこにも隙がなかったことから、犯人を指摘することができた。

 あくまでもきっかけでしかなかったことだが、そのきっかけが二人を結び付けたことは間違いない。姉の一言がどれほど重要なことだったのかということを感じたみゆきは、次第に姉の話に傾倒するようになっていった。

 なつみは高校時代、法律に興味を持っていた、。それだけに、

「大学に入るなら、受験は法学部に一択だわ」

 と決めていた。

 いや、実はもう一つ考えることがあったのだが、そちらは早々に切り上げた。そちらも好きな学問であり、今でも本などを読んで自分なりに勉強している。これも法律とは切っても切り離せない関係ということで、独学でも全然よかったのだ。いずれどの学問が好きなのかは後述することになるだろうが、今は法学部一択ということにしておこう。

 地元の私立大学の法学部に現役で入学できたのはよかったのだろう。実際に同じ高校から一緒に受けた人たちのほとんどは合格できなかったからだ。

 本当は地元の国立大学が本命だったのだが、合格できなかった人の手前、あからさまに悔しがることもできず、気まずい思いながらも、入学できたことを喜ぶできだと思うようになっていた。

 この入学を一番喜んでくれたのが、中学三年生のみゆきだった。みゆきも第一志望の県立高校に入学できたので、

「ダブルでのお祝い」

 となった。

 入試に関しては、妹のみゆきの方が心配だっただけに、二人とも無事に合格出来て、両親ともホッとしている。特にみゆきに関しては、中学校の担任からも、

「五分五分かも知れない」

 と言われていただけに、よかったと感じた。

 だが、問題は入学してからだった。無理に一ランク上の学校を志望したのと同じなので、入学してからついていけなくて挫折してしまうようでは、本末転倒というものだ。

 それでも何とかついていくことができているのは、みゆきの天性の天真爛漫さと細かいことを気にしない性格が幸いしていたからなのかも知れない。

 むしろ、余裕で入学できた中学時代のトップクラスの生徒の方が、中学時代まわりに敵がいなかったはずが、今はまわりにはたくさんいるどころか、上を見ればたくさん人がいる。同じレベルの人たちが受験して、さらにその中から選ばれた人間の集まりなのだから、今までの自分がどれほどのレベルだったのかということを思い知らされるだけであった。

 勉強をしてもしても、成績のいい連中には追い付けない。彼らには天性から持って生まれたものを持っていることで、最初から勝負にならなかったに違いない。それを認めたくないという思いから勉強に身が入らず、気が付けば成績はあっという間に最下位に近いところまで落ち込んでいる。完全に競争に負けていたのだ。

 さすがにみゆきはそんな連中とは違って、最初から自分のレベルを分かっていた。まわりが見えていたとも言えるだろうが、別に成績が上位にいなくてもいいという気持ちがあったのは大きかった。

 挫折した連中は、今まで挫折ということを知らずに、競争の輪の中にいたのだ。だから一度挫折を味わうと、立ち直るには時間が掛かるのだろうが、立ち直るより以前にグレてしまうのだから、思春期というのは、恐ろしいものだ。

 時間の感覚がこれまでとは明らかに違う。そしてその時には分からないが、それ以降の自分にとってもまったく違うものになってしまうものであった。それを自覚しろというのは無理なことで、自覚ができないから、何をどうしていいのか分からずに、時間に流されてしまう。理屈は分からないままに、みゆきはそんな同級生を何人も見てきた。自分なりに想像もしてみた。その想像が実はまんざらでもなく的を得ていたのだが、それを教えてくれる人などいるはずもなかった。

 そんな人たちを見ていて、

「反面教師」

 のつもりでいたが、ただ、それは彼らと違って自分が優れているなどという比較論ではなかった。

「自分はあんな風にはならない」

 という、意識でもなかった。

 彼らの様子を直視して、みゆきは想像を膨らませる。どのように膨らませるかはその時によって違うのだが、あくまでも自尊心を高めようなどという思いからではなかったことは確かだろう。

 ただ、何かを想像しているだけなのだが、その総総力がいつの間にか研ぎ澄まされていき、いずれそのことが彼女の特徴になり、身を助けることになるのを、その時のみゆきは知る由もなかった。

 元々、

「私は頭が足りないんだわ」

 という意識を持っていた。

 たくさん想像するのも、自分で考えることができないから、想像するしかないという考えだったが、間違ってはいないだろう。

 しかし、頭が足りないからの想像力ではなく、巡らせた想像にまわりがついてこれないことで、まわりと自分が違うということから、みゆきは自分の頭が足りないと子供の頃から思っていた。

 みゆきがそう感じていたのは、まわりがそういう暗示を掛けていたからだった。一番悪いのは、父親で、

「あの子は少し足りないんじゃないか?」

 と、仕事で遅くなった時、娘が寝ていると思って。母親に笑いながら話す。

 それを聞いて母親も、

「そうなのよね。ちょっと心配」

 と、どこまで心配なのか分かってもいないくせに、そんな言い方をする。

 実はみゆきは聴いていた。聞いていないというのをいいことに、笑いながら娘のことをそんな風にいう父親の方が、本当は十分に足りていないのだ。そういう意味ではもしみゆきの頭が足りていないということであるなら、自分の遺伝であるということを分からない父親の方がよほどバカだということであろう、

 母親にしてもそうだ。

 父親に同調することで、家庭の平和を保てるなどという妄想に駆られているから、娘を犠牲にすることであっても平気位でいられる。実に狂った両親と言ってもいいだろう。

 そんな両親からこんな天才姉妹が生まれたのだから、神様も捨てたものでもない。やはり神様は本当にどこかにいらっしゃるのではないかと思えてくるくらいである。

 みゆきは、当時、まだ十歳にもなっていなかった。十歳未満の子供にそんな悪口をほざくのだから、親の罪たるやひどいものだが、子供もそれを聞くと、信じ込んでしまう。

 もっとも、その頃は、

「頭が足りない」

 という言葉の本当の意味が分かっていなかった。

「私は頭が足りないんだ」

 と思い込んだとしても無理もない。

 しかも、姉のなつみも聴いていた。なつみくらいになれば、言葉の意味は分かっている。両親に対して怒りとやるせなさがこみあげてきて、

「あれが私の両親だなんて、あまりにもみゆきが可哀そうだ」

 と考えるようになった。

 その頃から無意識にいつもみゆきのことを考えていて。

「私がみゆきを守ってあげる」

 という思いが強くなり、それが次第になつみの性格を形成していった。

 なつみは、性格的に自分が正面に出ていくタイプではないと、ウスウス気付いていた。誰かをサポートすることにかけてはある程度の自信があったのだが、中学に入ってからの副クラス委員をやったことで、自分が表に出なくても、自分の実力を発揮できることに気付いた。

「私が、みゆきのサポートをすればいいんだわ」

 と思うようになったのは、自分が高校生、なつみが中学に上がった頃だった。

 みゆきの天才的な側面が見え隠れし始めたのは、中学に入った頃からだった。

 ちょうど、街でひき逃げ事件があり、たまたまそれを目撃していたみゆきが、犯人の車を的確に言い当てた。さらに、

「これは私の意見なんだけどね」

 と言って、警察の人に言ったこととして、

「車は信号無視をしたんじゃないかと思うの。それに隣に女の人を乗せていたように見えたので、きっと誰かに追われていて、信号無視をしてしまったのかも知れない。犯人は有名人か、偉い先生か何かなんじゃないかしら?」

 と言っていた。

 警察も、目撃者の、しかも中学校に上がったばかりの女の子の意見を、鵜呑みになどしたわけではなかった。むしろ、

「変な先入観を与えないでほしい」

 と思ったことだろう。

 だが、実際に犯人を捕まえてみれば、大学教授が犯人で、奥さんが探偵を雇って、不倫の証拠を掴もうと追いかけていたところの唐突に起こってしまった事故だった。ひき逃げをしてしまったのはまずかったが、追いかけた方にも罪がある。

 みゆきの助言通りであったことで、その時の刑事もビックリしていたが、その時から、

「目撃者の証言を頭から思い込みによる証言と決めつけるのもいけない」

 と感じるようになったようだ。

 みゆきは、警察から感謝状を贈られたが、両親は別に喜んでくれたわけではない。表では、

「うちの娘に感謝状を頂いたのよ」

 と言っていたが、心の中では、別に何とも思っていない。

 そんなひどい両親だったのだ。

 よその家では、娘が感謝状を貰ったと言って近所に自慢して回るなどという話を聞いたこともあったが、

「そんな軽薄な母親は恥ずかしくて嫌だ」

 と言ってみたいものだと、みゆきは思っていた。

 しかし、みゆき以上に母親の冷たい態度に対して苛立ちを覚えていたのは、姉であるなつみの方だった。

 なつみは、みゆきの性格も分かっている。母親の性格も分かっている。さすがにみゆきの性格が母親のこの冷淡さから来ているとまでは思わないが、少なくとも何か悪いものが遺伝しているのではないかとは感じていた。

「親の因果が子に報い」

 と言われることがあるが、何の因果だというのだろう。

「生まれてくる子供は、親を選べないんだ」

 と声を大にして言いたかった。

 そこまでなつみが悔しがるのは、みゆきの素質のようなものを理解しているからだろう。そんな親の因果のためにせっかくの妹の長所が壊されてしまったりするのは、実に虚しいことである。なつみは、妹のみゆきを自分のことのように、いや、それ以上に思っていたのだ。みゆきも自分も大嫌いな母親が自分に因果を与えているなど、妹には知られたくないという思いが強かった。

 そういう意味では、天真爛漫なところがあるみゆきを見ていて、ホッとさせられる。母親の因果が影響しているなどと思えないほどの天真爛漫さは、心配している自分さえを慰めてくれるほどだ。元々、慰める方の自分が慰められるなど本末転倒もいいところだが、みゆきを見ているだけでも心地よい気分にさせてもらえるのは、姉冥利に尽きるというところであろうか。

 なつみは、みゆきが警察に事故の証言をしている時、そばにいた。最初は刑事さんに対しての言い方が、思い切りm

「ため口」

 だったことで、気を揉んだが、刑事の方も子供の扱いは心得ているようで、まったく気にしていないようだった。それどころか、刑事の方もため口になり、まるで友達同士の会話に変わっていた。

 だが、そのおかげか、みゆきは饒舌になり、どんどん発想が湧いて出てきているようだった。

 本当なら刑事の方も、

「余計なことはいいから、見た儘を話しておくれ」

 というのが普通ではないかと思っていたが。みゆきの想像を聞きながら、刑事の方もワクワクしていたようだ。

 なつみが考えるに、警察内で掴んでいた情報が、みゆきの証言によって裏付けられていき、みゆきの想像力が、ジグソーパズルのパーツを次第に組み立てて行っているように思えたことで、真相に近づいていると感じた刑事の方も、ワクワクしたのではないだろうか。なつみはみゆきを止める気にもならなかった。何しろ、自分までもがワクワクし、次第に積み重なってきた証言に対して、なつみも一言二言言いたくなってくるくらいだった。

 これがまたしっかりと的を得て、刑事を感心させる。事件が解決し、犯人が逮捕され、みゆきに感謝状が贈られるとなった時、担当刑事がわざわざなつみの学校までやってきてから、

「今回の感謝状はみゆきちゃんだけに与えられることになったんだけど、刑事さんたちは皆なつみちゃんの助言もありがたかったと思っているんだ。だから、申し訳ないけど、珪砂さんたち皆が感謝しているということで、勘弁してくれないかな?」

 と言ってくれた。

 それを聞いて、なつみは感動した。それまで警察というと胡散臭いというイメージしかなかったが、こんなにも市民のためを思ってくれているんだと感じて、本当に感動したものだった。

「いいえ、大丈夫ですよ。これからも刑事さんたちで街の治安を守ってくださいね」

 という、

「大人の返事」

 をしたことが、また刑事に感動を与えた。

 きっと、

――よくできた姉妹だ――

 と思ってくれたことだろう。

 その時のことがきっかけで、わざわざ話に来てくれた刑事、名前を清水さんと言ったが、その清水刑事となつみは仲良くなった。

 清水刑事が忙しい時はなかなか話もできないが、清水刑事はなつみのことをまるで娘のように思っているようだった。

 その頃の清水刑事はまだ三十歳になって少しくらいだったので、結婚もしていなかったのに、いきなり中学生の娘ができようなど、考えただけでもおかしかった。

 だが、清水刑事は、子供が好きだった。特に女の子は可愛いと思っていて、子供ができたら、ぜひ女の子をと思っていたくらいだ。

 たまに清水刑事がなつみを食事に誘うこともあったが、一応、親には了解済みだった。

 親としては、子供を構ってくれる信頼できる大人がいることは自分にとってよかった。それは自分が遊ぶ時間ができるからだった。

 なつみにとって、

「どっちが本当のお父さんなんだか」

 と思えてならなかった。

 父親も母親も正直嫌いだった。特に思春期の娘に対しえtのデリカシーのなさはひどいものだったからだ。

 清水刑事は、時々後輩である辰巳刑事も一緒に連れてきてくれた。辰巳刑事は最近刑事になりたてだということで、何にでも興味を示す人で、自分の両親とは正反対な性格だと思ったことで、

――清水さんが私のために、連れてきてくれたんだわ――

 と感謝していた。

 清水刑事の方としても、確かに半分はなつみのためであったが、もう一つは辰巳刑事のためでもあった。まだ新人刑事としての辰巳刑事には、なつみのような冷静にモノを見る女の子を自分で感じてくれるのを望んでいた。特に妹の面倒見のいい姉という印象から、辰巳刑事には、なつみのような女の子の存在を知ってもらうことがいいと、感じたのだった。

 なつみの方も辰巳刑事を見て、

――この人を見ていると、みゆきを見ているようだわ――

 と感じた。

 どこか落ち着きがないくせに、好奇心は旺盛で、まるで子供のようなことろがあり、純粋に見えた。

 何よりも警察官として一番必要な感情である。

「勧善懲悪」

 を持っていることに、深い関心を抱いた。

「なつみちゃんと言ったっけ? この間は大活躍だったそうだね?」

 と辰巳刑事に言われて、

「あ、ええ、でもあれは妹のおかげであって、私は何も」

 と言いかけると、

「そんなことはないよ。なつみちゃんがしっかり妹をフォローできたから、事件は解決できたんだよ。きっと、あの場にお姉ちゃんがいてくれたことが、どれほどみゆきちゃんの力になったことか。そこがなつみちゃんの本当のいいところなんじゃないかと僕は思うんだよ。でも、なつみちゃんはなつみちゃん。しっかりと自分をアピールする時はしてもいいんだよ」

 と清水刑事は言った。

 なつみが妹に対して遠慮がちなのはよく分かっていた。両親に対してのわだかまりがあるのも分かっている。だからこそ、清水刑事はなつみに執着している。別に放っておけないというわけではない。なつみと一緒にいることで自分も何かを得られる気がしていた。

「なつみちゃんは、刑事さんたちの仕事をどう思ってくれているのかな?」

 と辰巳刑事が聞いた。

「立派なお仕事だと思います。みゆきに言わせると『悪い人たちを捕まえる仕事だ』というかも知れないけど、私はそれだけだとは思わない。みゆきのように何でもかんでも、いい悪いという線引きができればもっと気が楽だろうにと思うこともあるんですよ。刑事さんたちは、そのいいこと悪いことの線引きを、自分たちでしなければいけない。もちろん刑事さんたちだけで求めるものではないんでしょうけど、何かの事件が起きれば、まず最初に第一線で捜査して、真相を突き止めるという仕事をされている。危険も伴うでしょうし、理不尽なことも多いかも知れない。そんな状況を全部ひっくるめて、真相に辿り着く努力をする。大変で立派なお仕事だと思います」

 という話を聞いて、二人の刑事は唖然として、二人は顔を合わせていた。

 まさか、中学生の女の子がここまで考えているなんて、さすがの清水刑事もビックリした。

――これでは慰めているつもりが、慰められているようなものだな――

 と、感じたほどだった。

 辰巳刑事も気持ちは同じなのかも知れない。

「なつみちゃんを見ていると、本当に妹思いの素晴らしいお姉ちゃんなんだなって思うよ。そこは、後輩思いの清水刑事と重なるところがあるね」

 と、うまく二人をおだてた辰巳刑事だったが、

「よせよ。俺に対してのお世辞はいいから」

 と言って、照れている清水刑事を見て、

――本当にいいコンビなんだな――

 となつみは感じた。

 自分たちも以前、お互いに感じたことを言っただけなのに、それが事件解決に一役買ったことは実に嬉しいことだった。

 それにしても、まだまだ新人という雰囲気が抜けきらない辰巳刑事であるが、なつみは清水刑事よりも、この新人の辰巳刑事の方が気になっていた。

 恋愛感情というわけではなく、

「まるでみゆきを見ているようだ」

 という感覚で自分が見ていることを自覚していた。

 あれから、もう六年近くは経っているだろうか。気が付けば、なつみは大学生、みゆきは高校生になっていた。二人の節目の時にはいつも辰巳刑事か清水刑事が必ずお祝いをしてくれた。どうしても事件で忙しい時は、どちらかということもあったが、それでも二人は嬉しかった。幸いなことは、二人が同じ学年だということだ。卒業、入学祝の時期がずれることはなかった。しかも、二人とも何とか一発合格だったことも、さすがと思わせた.。なつみはともかく、みゆきが一発で合格したことは、よかったと思っている。ギリギリのラインだっただけに、辰巳も清水も心配していた。しかし、実際に合格してみれば、それはまるで当然のことだったかのように振る舞っているみゆきを見ていると、

――この子は振る舞いで誤解されがちなんだろうけど、本当は天才肌なのかも知れない――

 と、なつみですらそう思うくらいだった。

 何と言っても、目の付け所がよく、想像力も豊か、そして信じたことは疑わない決断力も備わっていることから、彼女が天才肌であることを疑う余地は、どこにもないではないか。要するに見る方の目がおかしいだけなのだ。


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