「げっ、久しぶりに学校にきたよ……?」


「あれ…なんか…雰囲気、変わったわね…?」



 魔王と別れた次の日、私は自分の意思で数日振りに学校に行った。

 ボサボサだと他人に与える印象は暗くなるから、髪の毛も切りにいった。

 腰まで伸びた雑な髪の毛はもうない。肩より少し下のショートにしたし、ちょっとお高めのリンスもつけるようにしてアイロンをかけた為、艶々のサラサラである。

 猫背ではなくちゃんと胸を張って、前を向いて私は歩いていた。


 そんな変わった私の姿に、いじめっ子たちは驚いたように目を瞬いていて少し引き気味だった。

 挙動不審に私から目を逸らす彼らに近づいては、私は今までにないくらい大きな声で、教室中に響き渡る声で訴える。



「私を虐めるのやめてくれない?こんな行為になんの意味があるの?殴られて痛かったんだけど!」


「あ?な、なんだよ急に……3年間何も言わなかったくせに」


「何も言わなかったら、人を殴っていいんだ??無抵抗な人間いたぶって楽しい?私、全然楽しくない!ずっと苦しかった!」



 自分の意見を伝える、昔は怖かったけど今は全然怖くない。

 だってこの人たちより怖い人のことを知っている、彼と比べても足元にも及ばない強さの人間。一体何を怖がる必要があるのだろうか。


 弱いままだったら、行動しなかったら何も変えることができない。


 大切なことを教えてくれた、名前も知らない心優しい元勇者な元魔王様。



「そうだよ!!藍ちゃんが可哀想でしょ!!もうやめようよ、私たちだって3年生なんだしさ」


「え……?お、おまえ今まで何も言わなかったくせに!!見て見ぬ振りしてた奴らも同罪だからな!!」


「そうだね、ごめんね藍ちゃん。だけど、浦山くんには言われたくないなぁ……だって庇おうとしたら私たちまで殴ろうとしてきたじゃん!」



 恐怖を感じるのは悪いことではない、誰だって感じるし私だって何も言えなかった。

 だけど大事なのはそこからどう反省し行動するか、その過程だ。


 私は一つ決めたことがある。


 どこかの女神様が言ったように、この世界を見届けたい。


 辛いこともいっぱいあるけど、楽しいこともたくさんあるこの世界を愛したいのだ。


 それは、あなたが教えてくれた「あい」だから。



 だから私は今日も前を向く。もう過去を振り返らず、立ち止まることはしない。



「これからは仲良くしてくれると、嬉しいです。痛いのは嫌だけど」


「いや今までいじめてたやつにそれいうお前、やっぱ変わってんな!?!?」



 激しく動揺する浦山くんやクラスメイトの視線は、いつもと違い冷たいものではない。

 異様なものを見る目ではあるけど、前とは何かが違う。


 確かなものを、私は感じ取ることができていた。






 あれから数ヶ月が経過した、私は少しずつだが友達が増えたし浦山くんとも和解することができたと思ってる。

 無事就職先だって決めることができたし、もう少しで卒業だ。



「藍ちゃんって変わったよね〜、本当。不登校の間、何をしてたの?」


「ん、とね……哀は愛によって融けるよってことを、好きな人に教えてもらったの」


「えっ!?藍ちゃん好きな人いたの!?」



 もう二度と私の前に姿を現すことがないであろうお人好しな魔王さま。


 きっと今もどこかで見守ってくれてるはずだから、彼の教えに恥じないような生き方を私はすると決めたのだ。


 だって、元々は人を救う存在だった勇者さんが何回も私を手にかけたのだって苦しかったはずだ。

 何回も殺した人間を、平然と接するのだって辛かったはずだ。


 それでも、彼はその茨の道を歩んで私に教えてくれたのだ。



「藍の花言葉は“あなた次第”だからね。自分次第で、どうとでも生きることができるんだよ」



 あの日花公園で見た、藍の花のように私も堂々と美しい人間として生きる。

 もう二度と、過去を振り返ってウジウジと後ろ向きな発言はしない。怖くたって私は一人じゃないのだから。


「おー、かっこいいね!」


「ってことを、元勇者な元魔王さんに教えてもらったの」



 何それ、とおかしそうに笑う新しくできた友人に、つられるように私も自然と満面の笑みを溢す。




「フッ……」



 どこかで、誰かが笑ったような気がした。







Fin







あとがき


https://kakuyomu.jp/users/Tsubaki3/news/16817330663566630855



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あい 椿 @Tsubaki3

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