「……私の人生で、辛いことが起きるのは私が世界を恨むように呪われているから…?」



 魔王はその言葉に首を縦に振る。

 つまり、両親が死んだのは運命の強制力が働いた私のせいだったということか。


 それを理解した瞬間、目頭が熱くなりポロポロと大粒の涙が頬を伝う。

 自分が女神だったとかそんなことはどうでもいい、だけど自分が生きていたばっかりに苦しむ人を出してしまったのがどうしようもなく悔しい。

 そんな私を見て、魔王は憐れむように私の額を撫でて言葉を続ける。



「……だけど、その役目も今回で終わりのようだな」


「…な、んで?」


「瞳の色が赤くない、藍色に戻ってる。もうこの世界のことは、憎んでないだろ?」



 部屋にある大きな姿見に視線を向ける、そこには情けない自分自身の泣きっ面が映ってはいるが確かに目は赤くない。

 小さな頃の、母さんが死んでしまう前の綺麗な藍色に戻っていた。



「呪いを解く条件は、憎く辛い環境にあっても全てを受け入れ赦せるか


 お前は受け入れた、この世界の理不尽を。だから呪いが発芽しなかった」



 ここ数日で、自分自身の思考の変化には気づいていた。

 人生は生きていると辛いこともたくさんある、だけどそれと同時に楽しいことだってたくさんある。

 全て自分の捉え方の問題。自分が変わろうとすれば、世界を変えることだって可能だ。



「そんなお前を、殺す必要はもうない。俺の役目も終わりだ」



 それを私に教えてくれるために、ずっと傍にいてくれたのだろうか。いろいろな場所に連れ回したのだろうか。

 痛みで歪みつつも、それでも愉しそうに弧を描くような笑みを浮かべる。



「なぁ、藍」



 今までずっとお前呼びだった魔王が、私の名前を呼ぶ。



「俺はこの先、お前に干渉する必要はない。それはわかるな?もうまじないが解ける、この呪縛から俺は解放されるからな」



 うん、と私は小さく首を縦に振る。


 何が言いたいか、きっとこれがお別れなんだろうとそう直感していた。



「ここから先、どうするかはお前次第だ。」



 今日が自分の人生の大きな岐路に立っていることを、なんとなく私は理解していた。

 ここから先は、きちんと自分の足で立って、自分のことは自分で決めなければならない。

 面倒だからと全てを投げやりにするのではなく、自分自身と向き合わないといけない。



「お前の名前に、込められた花言葉は“あなた次第”


 その言葉を送った両親の気持ち、ちゃんと考えてやれよ


 全てがお前のせいじゃない、母親が死んだのもお前を助けると自分で“選択“したからだ。


 俺からお前に教えられることはもうない。あとは、自分で学べ、そして選べ」



 魔王の発した言葉は私の中で深く根付き、気づきを与えてくれた。

 私は黙って、大きく頷いた。

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