間
謎の男と出会って数時間、今は私の家にいた。
数日を寄越せ、寿命か何かと私はてっきり思っていたのだが、違ったらしくこの男は暫く私に付き纏う気でいるらしい。
何故それがわかるのか??先程図々しく家に上がり込み、お風呂に入った後夕飯の催促をされたからである。
何故寝巻きのままここにいるのだろう、そして何かのアニメが描かれたその寝巻きははっきり言ってちょっと……というのが、個人的な感想だ。
やや白い目で見ながら、距離を取ろうとすると赤い目を細め男は言う。
「おい、何を引いてる。ラミアたんは可愛いだろうが!」
「らみ…なに??」
「はぁ!?!?貴様、マジで言ってるのか!?『オサラブ』のヒロインラミアたんを知らないと!?」
知らないです、と言ってしまえばひたすらに早口で何かのアニメの情報を語られる。
オサラブとは、正確には幼馴染♡ラブというタイトルで幼馴染の二人が社会人になった後に、就職先がたまたま同じで再会し__といった、マカイとやらで流行ってる恋愛アニメらしい。
いや知らないよ…マカイがどこか知らないんだから、私が知ってるわけないでしょ。
なんて言う気にもなれず、ただただ無言で話を聞き流す。
「という話だ。どうだ、素晴らしいだろ…っと、ほら、巻き終わったぞ。我に感謝せよ」
「…ありがと、」
「嗚呼」
話している間、この男がやってくれたのは怪我した部位に包帯を巻く作業。いわゆる手当をされていた。
話の内容は半分くらい理解できなかったが、正直手当は助かった。
礼を言いながら、ちゃんと動かせるかどうか手に力を入れたり抜いたりを数回繰り返す。うん、動かす分には痛みはあるけど問題ない。
疲れたし、さっさと寝ようと思ってその場から立ちあがろうとするが、その瞬間に腕を掴まれ隣に座らされる。
「どこへ行く??今から、オサラブを全話履修してもらうぞ?」
「えっと…ん、なんて?」
「安心しろ!!一話から、ちゃーんと俺も付き合ってやる」
勝手にテレビをつけられて、映像を流し出す。
その日は言葉通り、アニメの1クールが終わるまで全部見せられたし、2クールとやらに入りそうなところで流石に眠気を理由に止めた。
まだ見たりないらしく、非常に残念そうにこちらを見ていたが流石に6時間ぶっ通しで映像を見るのは、初めてアニメを見る私からすれば難易度が高かった。
そしてその次の日、大した睡眠時間が取れず苦しんでいる私を早朝に起こしたかと思えば、あれよあれよという間に着替えさせられ朝食を食わされ、気がついたらどこかの会場にいた。
「みんなのために!!今日はめーいっぱい歌いまーす♡」
「うおおおおおぉぉぉ!!!!!!」
「……何これ」
「地下アイドルの【
いや、なんでアイドルのライブにいるか聞きたいんだけど。
そんなことを言っても、隣の男は目の前の闇花把とやらの歌って踊る姿に夢中なようで、私の言葉は耳に入らない。
彼と出会ってまだ2日目、だけどなんとなくわかってきたことがある。
いわゆる、彼はオタクって奴らしい。
アイドル、アニメ、ミリタリー、私にはよくわからないがさまざまなジャンルに詳しく、一度聞いたら耳にタコができるほど話してくる。
今日平日だから、学校あったんだけどなぁ。
そんな想いを胸に、目の前でぴょんぴょん飛び跳ねながら踊る姿を致し方なしに視線を送る。
応援する人もあまりおらず、盛り上がってるとは正直言い難い。
それでも、それでも頑張って踊る彼女たちの姿は、何も持っていない私からしたら輝いているように見えた。
それと同時に、アイドルのライブを全力で楽しむ彼の姿は魔王とはとても思えず、自由を楽しむただの一男性に過ぎなかった。
___
「よっしゃストライク!!どうだ!!俺の腕前は凄いだろう!?」
「……そーだね」
結局、ライブが終わった後握手会とやらまで参加させられて、現在私と魔王はなぜがボウリング場にいた。
彼曰く、ここでは彼の好きなアニメとボウリングがコラボしていて、アニメのワンシーンが流れたり飲み物や食べ物のコラボ商品を注文することでグッズが貰えるらしい。
私もグッズとやらの収集のために付き合わされており、さっきからガターという記録しか出してない。
ここまで酷いと足を引っ張るだけなのでしなくてもいい気がするのだが、それはダメだと何故か念押しされてしまった。
はぁ、とため息をこぼしながらもなんかよくわからない転がした玉が出てくる装置からボールを回収し、重い足取りで椅子に座る。
本当に、この人が何をしたいのか__
「理解できない、とでも言いたげな顔だな」
「!!」
「はっ、図星だな。」
どうだとでも言いたげに偉そうに鼻で笑う姿が癇に障り、何かを言い返したい気分になるが言葉にはしない。
きっと目の前の男に逆らったら、自分なんか簡単に殺されてしまう。
小さく傷だらけで華奢な手、細くて筋肉もなく一体何回痛めたり折れたりしたことか。数えてはないけど、散々傷つけられたことだけは覚えている。
勝てるわけがない。そういう風格が彼にはあった。
最初から諦めてどうにかなるわけない、というのは理解しているけど本能的に察してしまってるんだから仕方ない。
玉を拭いてる手が止まり、思わず俯いて言葉を発する気にならなくなった。
そんな私を見て、彼は一つ面倒臭そうにため息をこぼす。面倒くさがるくらいなら、なんで私を連れてきたのだ。
やっぱりいらなかった、不必要だった。
ぐるぐるとネガティブな発想が脳裏を埋め尽くし、布を握る力に自然と力が入るが彼の言葉に思わず顔を上げる。
「俺は、お前にこの世界を見てもらいたいのだ」
「世界を?」
「ああ、大袈裟と取られるかもしれないがそれでも構わん。学舎だけだとどうしても限られた世界となってしまうからだ。お前一人だと、絶対に遊びに行くなんて行動を取らないだろ?だから、俺が連れ回してやってるんだ」
相変わらず上から目線な言葉、一体何様だと言いたくなるがそういえば魔王様だった。
自信満々に口角をあげこちらを一瞥することは一切なく、当たり前のようにストライクという記録を叩き出す。
なぜ私にここまで構うのかの理由にはなっていない、世界を見てもらうとか余計にだ。
私と彼は住むところが違うし、会ったことだってないはずだ。
普通赤の他人に対して、ここまで面倒を見ようとは思わないはず。私なら絶対に思わない。世話を焼いたところでなんの役にも立たない、面倒なだけ。
それなのに、なぜこの男は私のそばにいるのだろう。得られるものもないはずなのに。
(……やっぱり、理解できない)
ブルーベリの酸味が利いた甘酸っぱいジュースを喉の奥に流しながら改めて再認識した。
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