47/さて、宴といたしましょう!
しばらく休息をとって寝息を立てていたアザークだったが、目を覚ました瞬間に鼻先の距離で見つめる獣狼の顔に驚いて目を覚ました。
「あはは、アザーク! やっと目を覚ましたね! 大丈夫?」
「じゅ、獣狼⁉︎」
え、あれ? 俺は……あれからどうしたんだろう?
処置された傷。でも何処までが現実で、夢だったのか思い出せない。
「えっとね、あれから丸一日眠ってたんだよ? アザークすごかったんだね! エンドールにトドメを刺したのアザークなんでしょ?」
「いや、俺は……」
正直、いざっていう時に何の役にも立てなかった。エンドールとの交戦の際もキウイの能力がなければ負けていただろう。
「ノンノン。アザーク、いいんだよ。過程がどうであれ私達が勝ったのだ! そしてその勝利にはアザークの活躍と、この獣狼の力が大いに役立ったのだー!」
無邪気に喜ぶ獣狼を見て、無駄に落ち込んでいた自分が恥ずかしく思えた。
そうか、こんな自分でも役に立てたんだから、それで良かったと思っておこう。
柄にもなく一緒に拳を突き上げて「おぉー!」と歓喜の声を上げて盛り上がった。
「おぉ、アザーク。目を覚ましていたのか」
「キウイさん……!」
所々に処置された跡があり痛々しく見えたが、普段通りに歩いている彼女を見て一安心した。そしてその後ろを歩くジークとプルー。揃って並んだ守護者を見て貫禄を感じた。
「ったく、これだからガキ共は。無駄に体力だけは有り余ってんなァ」
「アザーク、お疲れ様ー! 大変だったって聞いたよ? 五体満足で戻ってこれて良かったね!」
結局、疲れ果てて倒れたのはアザークだけで、フェンとリルンに関しては早速特訓を始めるほど回復しているそうだ。
「皆、お前が目覚めるのを待っていたんだぞ? ほら、行くぞ?」
行くってどこへ?
差し伸べられたキウイの手を取って行くと、そこには大量のケーキ、アイス、クッキー、パフェ。甘ったるい香りだけで胃がもたれそうだ。
「宴だ、宴! 今日は無礼講だ、たくさん食べるんだー!」
ひゃっほーいと歓喜の声を上げながら、皆は頬張って味わっていた。キウイも、プルーも。そして従者達に紛れて、楽しそうに笑うボウグの姿も見えて安心した。
しかし、それにしても楽しそうだこと。
「おいおい、俺を待っていたって言うけど、嘘だろう? 俺いなくても全然変わんねぇし」
「女の子っていうのは、そういうもんだ。可愛いじゃねぇか……。ハルも皆と一緒に楽しんで、無邪気に可愛い……しっかり目に焼き付けなければ」
———ジークもハルが絡むと、すっかりポンコツだよな。腑抜けと言った方が正しいか?
「師匠、俺、すいませんでした……。結局、何の役にも立てなくて」
「ん? そうか? お前はよくやったと思うぞ」
あの結果でよくやったと言われても、慰めにしか聞こえない。いっそのこと罵倒された方がマシだ。
「バーカ、クソか? そもそも俺はお前なんてすぐに叩きのめされて、くたばると思っていたんだ。それなのにエンドールと対等に戦って、最終的には勝利を収めたんだ。十分だろう?」
「けどあれは俺の力じゃなくて」
「お前の力だ。お前がちゃんと鍛錬を続けて、修行についてきた結果、キウイがアザークを活かすことが出来たんだ。これからもちゃんと鍛錬を続けろよ?」
ポンポンと頭を叩かれ、またしても目の奥が熱くなってきた。ダメだ、涙脆くてかなわない。
「……いやな、それよりアザーク。俺達はお前に謝らないといけないことがあってな」
珍しく歯切れ悪く口篭ったジークに首を傾げた。謝らないといけないこと? なんだろう?
「元々聖剣はグラストンベリー、世界樹ユグドラシル、そしてアーサー城に封印されていた。ってことは、俺達はまた其々の場所に封印して守護しなければならない」
それは最初に説明してもらったので理解しているつもりだ。
「ってことは、キウイはグラストンベリーに戻らなければならない。そこで問題なのがお前、アザークだ。従者は主人から離れたら身体が滅びることは教えてもらったか?」
———あ、なんとなく……教えてもらったような気がする。
「ちなみに俺の従者も一緒だ。俺から引き離されたハニー達も灰になって消え失せてしまった」
「えっと、それは……二人の従者になった俺は、どうなるんですか?」
血の気が引いた。どうすればいいんだ?
「そうなんだよなー。二人の主人を持つ従者なんてアザークが初めてだ。そもそも聖剣を奪われるって失態が初めてだったしな」
「ん、なんじゃ? なんじゃ? なんの話だ?」
頬にクリームをつけたキウイが会話に入ってきたが、この人は事態の深刻さを理解しているのだろうか?
「アザークのこれからについてだよ。俺からも離れられないし、キウイからも離れられないし……どうしたもんだろうって思ってな」
「あぁー……そのことか。そのことなんだが、ジーク。お前の従者は
ん? なんだ、いきなり下ネタぶっ込んできた?
「えぇー、そんなデリケートなことを聞くのか、お前は。たしか力の
打開策を察したジークは黙り込んだ。
怖い、急に黙らないでくれ。
「そういうことだ。アザーク、お前は今晩、私とまぐわえ! 情交するぞ?」
「ジョウコウ?」
「セックスだ。私と至福の時を過ごせるのだぞ?」
———えぇー……?
何その、ロマンチックの欠片もない口説き文句。その後ろで相変わらず悪態をつく師匠の表情が恐ろしくて直視できなかった。
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