43/僕がジークを○す理由 エンドールside...

 正直に白状しよう。

 僕、エンドールはアーサー城の主ジークに物心がついた時から憧れを抱いていた。

 いや、おそらくエンドールだけではなく、多くの人間がジークのような生き様を夢を見て、自らの欲望を重ねていたと思われていた。


 綺麗で美しい女性を侍らせて、常に自信たっぷりで愛されて、傲慢で我儘な彼に羨望が集まっていた。


『大事なハニー達の為なら、俺の命なんてよろこんで差し出してやる』


 容姿端麗で全てを手に入れた勝者。そんな彼になりたいと、幼心に憧れの姿を思い描いたものだ。

 だから彼のように穢れの知らない少女達を集めて崇めさせた。ジークのように愛されたいと信者を集めて、彼よりも力をつけた。


 なのに、どうして彼を越えられないのだろう?


 どんなに多くの少女を集めても、どれだけたくさん躾けても、彼のような羨望の眼差しを手にすることができなかった。


 あまりにも腹が立って、ジークの従者も奪ってやったのに、無駄に抵抗して僕を拒むから、ムカついて火炙りの刑にしてやった。


 そしてやっと気付いたんだ。

 憧れの人ジークがいるから、イライラが止まらないんだ。


 だからあのダークエルフを倒してしまえば、僕が全部を手に入れることができる。僕がジークに成り変わることができるんだと確信を得た。


 だが、無敵にも近いジークを討つのは並大抵のことではなかった。だから魔王ですら滅することができると言われていた聖剣を手に入れようと企んだ。

 数年掛けて依頼していた願いが、やっと果たされたというのに、事もあろうが偽物を提出して欺こうとした輩が現れた。

 幸い聖教会団の人間だったセツナのおかげで動向が探れたもの、あの時は本当に腹が立ったのを覚えている。


 しかも忠実な犬だと思っていたセツナの裏切り。


 ———あの時は怒り狂って、しばらくイライラが止まらなかったなぁ。たくさんの人間に八つ当たりをしちゃったよ。


 だけど悪いことばかりではなかった。ジーク以外にも存在していたダークエルフ。キウイっていう女。


 罪深い種族の癖に、妙に唆られる色気を纏った女性。

 彼女に会って僕に新しい目標ができた。ジークを滅して、キウイを僕の忠実な犬にしよう! 他はどうでもいい。それで僕の理想が完成する。ついでに聖剣を全て集めて、人類全員僕の下僕にしてやろう。


「ね、完璧だと思わないか? だからあなたには死んで欲しいんだ」


 エントランスを昇って、重たいドアを開けた時に見えた憧れの存在とオマケ。ジークは心底不機嫌な表情を浮かべて、仕切りに舌打ちを繰り返していた。


「クソの考えることは微塵も理解しようとも思ってなかったけど、想像以上にクソ過ぎて吐き気がしてきたわ! 聞いてやってた時間を返しやがれ!」

「あはは、面白いなァ。こんなにあなたに憧れていたというのに。冷たい、冷たい」

「いや、尊敬してたならちゃんと見習え? 女性に愛されたいなら丁重に扱え。足先から髪の一本まで愛でてやれ。テメェみたいな無慈悲なクソ野郎を愛そうって物好きは、この先ずっと現れないね。断言してやるよ」


 僕は思わず真顔になる。

 だがそれは一瞬で、すぐに深い笑みを浮かべた。


「大丈夫、聖剣を全て手にすれば……いやでも皆、僕を崇めざる得なくなるから」

「救いようもないクズだな。けどお前の野望もここまでだ。この先は死んでも通させねぇ」


 一歩下がったジークを見て、僕は首を傾げる。

 え、まさか、そこのオマケのゾンビが戦うのか?


 あり得ない、あり得ない。そんなの終焉の美に相応しくないじゃないか、こんな雑魚!


「前に傍観するだけで何も出来なかった雑魚ゾンビに何ができるって言うんだ? お前が戦えよ、ジーク!」

「侮っていると、足元掬われるぞ? コイツは俺のだからな」

「は……?」


 その雑魚が? 嘘だろう? そんなどこにでもいそうな平凡な男が? どうして? あんなに僕が羨望していたのに。そんな憧れの存在に何故認められているんだ? 僕がその立場になりたかったのに、僕だけが相応しかったはずなのに。どうして、どうして、どうしてどうしてどうして———……?


 あまりの憤りに存在を許せなくなった。

 今すぐにでも消してやりたい。


「殺してやる。完膚なきまで、肉片一つ残さずに滅ぼしてやる」



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