42/例えこの身が滅びようとも
元々アザークの戦闘スタイルは瞬足を生かしたスピード重視タイプだった。しかしこのワイズという女はそれを上回る神足を備えた戦闘狂で、剣を交えた当初から旗色が悪かった。
それにエクスカリバーは大きめの剣で、どちらかというと小回りが利かず、アザークとの相性が良いとは言い切れない。潜在能力が上がったところで、格上相手には往生際悪く足掻くしかなかった。
一方的な攻撃を防ぐことしかできない。このままでは状況は悪くなる一方だ。次第に躱し切れなかった傷が増えていく。苛立ちだけが募っていく。
「つまらないね。ねぇ、ワイズ。エクスカリバーの回収は君に任せたよ。僕はお姫様が待っているお城に行ってくるよ」
くそっ、余裕をかましやがって!
情けか怠慢か分からないが、悠々と構えたエンドールが気に食わなかった。しかしアザークにはどうしようもなかったのも事実。
「エンドール! 待て、お前は俺が!」
だがアザークの声は届くことなく、混沌とした戦場の轟々たる騒音にかき消された。
自分に力がないばかりに、キウイが危険な目に晒されてしまう。想像しただけで怒りが湧くのに、どうしようもない現状が許せなかった。
「私と一戦を交わしているというのに、随分と余裕があるんだな。それならそろそろ終演としようか?」
押されながらも、かろうじて保っていた均衡が崩れ出した。ダメだ、こんなところで躓いている場合じゃないのに!
トドメを刺そうと高く刀を構えたワイズだったが、その背後に迫る影が視界に映り込んだ。小さく息を飲んだ瞬間、一気に距離を詰めた蹴りが強烈な旋風となって彼女の顔面に襲いかかった。
「クソが! アザーク、テメェ、何してんだコラァ!」
「師匠!」
息を切らして肩を大きく揺らしたジークが、横たわったワイズを踏んで身動きを抑止した。キョロキョロと周りを見渡すが、肝心の奴の姿が見当たらない。
「おい、エンドールはどこだ⁉︎」
「すいません! 逃しました!」
「あァン⁉︎ はァ? お前……ふざけてるのか⁉︎」
やっとの思いで辿り着いたというのに、コイツは……!
そんな説教垂れている二人を横目に、意識を取り戻したワイズは隙を見て反撃しようと試みていたが、あっさりとジークに止められた。高く上げられた足に力強く踏みつけられ、あっという間に手足が粉砕された。
「ヒギィぃっ! い、痛い痛い痛いッ!」
「おっとぉー……? お前らにもちゃんと痛覚があったんだな? 容赦なく他人を痛ぶるから、てっきり鈍ってるかと思ったぜ?」
そしてワイズの首根っこを掴んだかと思うと、そのまま胴体を真っ二つに切り裂いた。
あっという間の出来事に、アザークは言葉を失っていた。
「エンドールの犬が……! テメェは自分が奪ってきた命の数だけ、地獄で罪を償え」
浴びた返り血を拭って、ジークは大きく舌打ちをした。ワイズのような伏兵の存在は予測できたのに、アザークにぶつけるハメになったのは想定外だった。自分が思ったよりも手こずったのが敗因だ。
しかし、ここでエンドールの護衛であるワイズを討てたのは朗報だ。疲労気味のアザークに手を差し出し、活を入れた。
「いくぞ、アザーク! 残る脅威はエンドールだけだ。それなら城内で迎え撃ってやろう」
互いの手を取ったと同時に|瞬間移動【テレポート】を詠唱し、以前と同じように城に戻ってきた。幸いまだエンドールは辿り着いていなかったようで、大きく変わった様子は見受けられなかった。
だが油断は出来ない。先を走るジークを追いかけるようにアザークも後を追った。
「アザーク、エンドールのことはお前に任せる。申し訳ないが、聖剣を手にした人間に対抗できるのはお前しかいない」
宿命のライバルとの決着を自分に委ねた言葉にアザークは息を詰まらせた。エンドールの手下であるワイズにすら手こずっていた自分が、太刀打ちできるのだろうか?
「………さぁな。その点に関しては断言は出来ないが、エクスカリバーが馴染みだしているのは確かだ。俺よりも可能性を秘めているのは間違いなくお前だ」
「けど、俺は———……」
自信を喪失した弟子に、ジークは足を止めて正面に向かい合った。全くコイツは……せっかく柄にもなく肯定してやってるというのに。
「安心しろ、アザーク。いざとなったら俺が活路を開いてやる。お前は俺の屍を越えてでもエンドールを討て。いけるよな……?」
揺るぎない強い言葉に、不覚にも目の奥が熱くなった。例え自分の身が滅びようとも、愛する
滲む涙を堪えるように、目元を押さえながら大きく頷いた。
そしてそんなアザークに想いを託し、二人は再び走り出した。
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