39/ズルい。

 無事に従者契約を終えたアザークは、精魂尽きた様子でキウイの部屋へと戻ってきた。男としての自信も、甲斐性も全てにおいて負けた気がする。


「生きてるのがツラい……死にたい」

「あ、アザーク! 大丈夫か⁉︎」


 分かりやすく落ち込んで廃人となったアザークを引っ張り、よしよしと頭を撫で出した。余程嫌な目に遭ったんだ、可哀想にと必死に慰めた。


「彼奴は毒舌が過ぎるからな。特に男には容赦ない。明日、私がガツンと言ってやるから、安心して眠るがいい!」

「………いや、違うんです。ジーク師匠は本当に紳士で、優しくて。男としての格の違いを思い知らされたというか。それに比べて俺はミジンコクラスの、ちっぽけな能無しで。生きてるのが恥ずかしい……!」


 ………?

 思っていた理由と違いすぎて、キウイの思考回路は止まってしまった。優しくて落ち込んでるのか? 優しいの何がいけないんだ? アザークはどこかおかしいんじゃないか?


「———お前は罵倒される方が好きなのか?」

「え、待って? 何でそうなる?」


 食い違ったまま会話を続けていた二人に終着点はなく、結局うやむやにしたまま強制終了した。


 それよりも確認することがある。ジークとの契約をした今、キウイとの従者契約はどうなったのか。キウイはテレパスが通じるか、そしてアザークの身体を支配が出来るか試みた。


「———うむ、問題なさそうだな。同時に契約を結んだのは初めてだったので、色々危惧したが一安心だな」

「そういや俺とキウイさんが契約した時はどんな感じだったんだ? 全然記憶がなくて」


 もしかしてジーク師匠のように色々したのだろうか? 今まで気にしてなかったが、経験を終えた今は俄然興味が湧いてきた。


「私の場合は、まず粉々になった身体を蘇生魔法をして、縫合するところから始めるんだ」

「———やっぱり聞かなかったことにします」


 血生臭い光景しか思い浮かばない。ロマンの欠片もない契約方法に、アザークはあからさまに落胆した。


「大事なんだぞ? 私の黄泉がえり蘇生は一人につき一度きりだからな。こら、アザーク! お前から聞いておきながら何だ!」


 だが、やっぱりこのやり取りがキウイさんだ。どこか偉そうで、締まりのない会話。ホッとするなと笑みを溢した。

 そんなアザークに何かを訴えるように高鳴る心臓。邪竜も何か思うところがあるのだろうか?

———きっとここに邪竜がいたら『キウイ様の話をちゃんと聞け!』と叱られるんだろうな。


 まだ彼女がいなくなってから、そんなに月日が経っていないのに懐かしさを感じる。邪竜の為にも、絶対に負けられない。

 エンドールだけは、必ず倒してみせる。


「そうだ、アザーク。これをお前に渡さないといけないな」


 そう言ってキウイが取り出したのは、聖剣エクスカリバーだった。神々しい光を放った剣の柄をゆっくりを握った。


 触れるだけで力が漲る。まるで剣と繋がっているような、不思議な感覚が腕から流れ感じる。流石は皆がこぞって求める伝説の剣なのだと実感した。


「その様子だと気に入られたようだな。アザーク……エンドールは強い。正直、私では太刀打ちできずに、この前の二の舞になるのが目に見えておる。だがお前なら、勝てる見込みがある」

「俺に出来るか不安だけど」

「大丈夫だ。お前なら出来る、安心しろ」


 またしても頭を撫でて、今度は頬を両手で包んで、そのままキスを落とした。

 啄むようなキスを重ね、優しく微笑む。


「自信を持て、生きるんだろう?」

「———はい、あなたを守りたい」


 そうだ。この契を刻んだ心臓に誓い、愛しい人を守ると決意したことを改めて思い出した。穏やかな心音に手を添えながら、アザークは部屋を出て、其々の部屋で就寝をして朝を迎えた。


 ▲ ▽ ▲ ▽


「え、嘘、アザーク……、ジークとも契約したの?」


 事実を知って呆然としたのはプルーだった。

 三人の守護者の中で、自分だけが契約を結んでいない……!

 待ってよ、そんなのズルくないかと、プルーは憤りを露わにした。


「ダメ、絶対に認めない! あり得ない、あり得ない!」

「認めないも何も、それしか方法がなかったんだから仕方ねぇだろう?」


 少し遅れて食卓に現れたジークとハルが、眠たそうに歩いてきた。だが認めないと言わんばかりに敵意剥き出しのプルーが食いかかっていった。


「ジーク、ズルいよ! 男はクソクソ言っておきながら、ちゃっかり契約するなんて!」

「あァ? 出来ることならしたくなかったけど、やむ得ないだろう。少しでも戦力を確保したい状況なんだ、背に腹は変えられねぇよ」


 ぷくぅーっと頬を膨らませて、何がズルいのか理解できない。


「私だけ仲間外れ……何かヤな感じ」


 だが魔物しか契約できないプルーにはどうしようもないことだった。しかも人間しか従者に出来ないジークとの契約が成立した以上、尚のことだ。


「ほら、アザーク。飯を食い終わったら特訓するぞ? ちゃんと腹ごしらえはしろよ?」

「わかってます、師匠」


 し、師匠だァ? ますます気に食わないとプルーは怒り出した。

 私も何かしたい、役に立ちたい! でも何をすればいいのか分からない!


「ズルいズルい、ズルいー……」


 そんなプルーを無視して、他のメンバーは其々修行を始めた。




 ・・・・・・★

 何となくプルーを出したかっただけの閑話ですね💦

 でも実際、キウイ以上に怒ってそうな気がして……勝手にプンスコさせてみました。脇役ちゃん達が恋しいです。


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