38/お前は黙って噛まれてろ【要注意/同性絡み有】

 屍のように横たわっていろと言われたアザークだが、首元のボタンを外しながら近付くジークに何の感情も抱くなという方が無理だった。


 伝記の吸血鬼のように尖った八重歯が、薄く形のいい唇の合間から覗き見える。気怠そうな目も、仕草も、一つ一つが気になって落ち着かない。


「目ェ、瞑ってろ。ったく、何で野郎相手にしねぇといけねェんだ?」


 ギシっと軋むベッドに二人。緊張で固唾を飲み込み、アザークの喉仏が大きく動いだ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ———……。


「あー……アザーク。お前の守りたい相手って、やっぱキウイなのか? それともこの前の獣人のどっちか? もしくは二人ともか?」

「え?」


 やはり少し怠そうに、でも気遣うように話しかけるジークに、思わず黙り込んでしまった。さっきまで悪態ついていた毒舌野郎とは思えない意外な声掛けだった。


「チッ、クソ……っ! 曲がりながらも従者になるんだから、お前のことを知らねぇといけねぇだろ? 言え、ちゃんと言え。このクソ野郎」


 先程キウイから受けた屈辱をぶつけるように、アザークの口元を指で挟んでタコのように尖らせた。しかも痛い、手加減なしの握力、ひたすら痛い!


「き、キウイさんです! 他の子はただの仲間で、全く何もありません!」

「あァン? それを信じろってか? クソっ! あんなかわい子ちゃんを沢山侍らせておきながらテメェって奴は!」


 この人も根っからの女の子好きか? 前屑師匠と同じ匂いがするぞ?


「まぁ、キウイもいい女だからな。あんまり他の女にうつつ抜かして、心配させんじゃねェぞ? 男なら黙って好きな女の為に尽くせ」

「は、はい!」


 ———え? 何、この時間? 説教タイムか?

 頭上に疑問符を浮かべながら考え込んでいると、アザークの襟足を掻き上げたジークの手が、ぐいっと首元を露わにし、そのまま埋めるように甘噛みしてきた。


 流れるような動きに、アザークも息をするのを忘れて見惚れてしまった。思わず力が籠る。全身に緊張が走る。肌に食い込む歯の感触を、やたらに意識してしまって首元に全神経が集中した。


「力を抜け、痛くしねェから」


 いつの間にか移動していたジークの手が、トントンと後頭部を撫で叩く。気付けば支えられるように抱きしめられて、近くなった距離に汗が滲んだ。

 いや、こんなの無理だろ? ジークから漂う甘ったるい空気に酔って、頭がクラクラし始めた。


「あー、やっぱ男の皮膚は硬ェな。アザーク、痛くねぇか? 大丈夫か?」


 いつもと違う雰囲気に、戸惑いを隠せない。

 いやいや、コイツはクソクソ連発する性悪師匠だ。変な気を起こすな。

 困惑する意識の中、必死に抗うアザークだったが、優しく語りかけるジークに間違った感情を抱きそうになる。


「今度は指先から噛んでいくからな? 出来るだけ痛くしねェつもりだけど、我慢できない時は言えよ?」


 アザークの中指を口に咥えながら、上目で覗き見る美形男子ジーク

 男には興味はない、興味はない。興味はなかったはずなのに……!


 流石は大勢の女性を従者にしてきたタラシ男。色気が半端ない。噛まれた痛みと一緒に襲う彼の絶妙な舌技にタジタジだった。強くなったかと思ったら、柔らかく包むように這わせてみたり。そうと思わせたと油断していたら、噛んだ後の傷を抉るように痛みを与えて、この背徳的な行為を意識の底に根付かせる。


 ———狂いそうだった。

 こんな行為が永遠と続くかと思ったら、別の意味で地獄だった。きっとキウイとの行為がなければ、アザークのような初な人間は簡単に堕ちていただろう。


 指の腹で摘むように撫でる仕草に、ジークらしさを見つけながら、必死に唇を噛み締めた。


「何だァ? アザーク、お前は目でも瞑って、キウイのことでも考えてろ」


 唇の合間から覗かせた舌が、悪戯に挑発する。悔しいと思いつつ、抗えない感情に身を委ねた。



 夜通しまではかからなかったが、想像以上に甘ったるい体験を味わったアザークは、完膚なきまで蕩けてしまっていた。

 無———、それ以外の言葉が見つからなかった。


「だらしがねェな、アザーク。そんなんじゃキウイを満足させられねぇぞ?」


 こんなテクニック、一朝一夕で身につくわけがない! ハルが心配する気持ちが痛いほど分かった。こんなテクニシャンを野放しにしてはいけない。

 心に決めた相手がいる上に、男である俺でさえこの始末。純潔の少女なんて、あっという間に堕ちるのが目に見える。


「おい、アザーク。早速だが明日から修行するからな? 足腰ガタガタ言わせるくらいしごいてやるから、今日はしっかり寝ろ」


 さっきまでの甘いジークはどこに行ったのだと、眼を疑いたくなる変貌っぷり。足蹴にされながらも、必死に睨みつけて反抗するアザークを見て、ジークはケラケラ笑っていた。


「ほら、後はお前の大好きなキウイに慰めてもらえ。ちゃーんと愛でてもらえよ? それがお前の強さになるんだからな?」


 ヒラヒラと手を振りながら見送る師匠に頭を下げて、アザークは部屋を出た。

 残ったジークも、広いベッドに大きく手足を伸ばして倒れ込んだ。


 ———やれるだけのことはした。これで自分とアザークの間で力の譲渡ができる。あとはアザークに聖剣の使い方を叩き込んで、エンドールにぶつけるだけだ。


「あんなクソ野郎に負けてたまるか……」


 宙に伸ばした手を強く握り締めた後、パタンと脱力するように腕を雪崩れさせ、そのまま目を瞑って眠りについた。




 ………★

 あれ、触り……触りだけのつもりがガッツリ一話……。苦手だった人はスイマセン。ジークはきっとスイッチが入ると真面目に取り組むタイプだったようです。


 この流れでいうのは恐縮ですが、よろしければ応援や★などを頂けると嬉しいです。


 また次回、6時40分に更新します。

 これからはこの時間固定で更新するようにしますので、よろしくお願いいたいます。

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