36/世界の平和と自分の幸せ【R-指定?】

 ジークの提案を聞いたアザークは、正直悪い話ではないと考えていた。キウイとの主従関係も自分の意思とは関係なしに結ばれ、そして現在に至る。

 短い期間ではあるが、振り返ってみてもそんなに悪くはなかった。


 いや、ツラいことも二度と味わいたくない絶望も体験したが、彼女達と過ごしている時は、アザークにとっても掛け替えのない時間となっていた。だから少しでも勝率が上がるのなら喜んで力になりたい。


 その一方で、主人であるキウイがあんなに拒むとも思っていなくて、戸惑っているのも事実だった。この場合はどうするのが正解なのだろう?


『きっと邪竜なら、キウイ様のお気持ちが最優先と言うだろうな』


 胸に手を当てて心音に意識を傾けた。うん、その答えに間違いはない。けど俺は、皆と一緒に未来を過ごしたいんだ。


『だからゴメン。邪竜、俺はキウイさんと話してくるよ』



 塞ぎ込む主人の前まで進み、直ぐ近くの空き部屋を見ながら「ん……」と促した。

 主人を顎で使うとは何事だと罵倒されそうだが、今は細かいことはスルーして欲しい。できれば皆に聞かれずに話したかったのだ。


 作戦会議と称して騒ぐプルーや獣狼を置いて、二人で部屋に入って扉を閉めた。

 ガチャっと閉められた施錠の音を聞いて、安心したアザークは口を開いた。


「さっきは何であんなことを言ったんですか、キウイさん」


 またしても責められるような言葉を言われ、拗ねるようにキウイは唇を尖らせた。

 このままでは埒が空かないと困ったように頭を掻いたが、そんなアザークの服の裾を掴んで言葉を紡ぎ出した。


「………アザークは私のモノだ。他の者に渡したくないと思うのは、悪いことなのか?」


 思ったよりもストレートな言葉に、アザークの顔も熱くなったのが分かった。やっぱり変だ、邪竜の心臓をもらってから何かがおかしい。


「いや、プルーとか女性なら分かるけど、相手はジークですよ? 男なら別に問題ないじゃないですか?」


 しかも彼には、ハルっていう大事なハニーがいる。色白の肌に薄い金色の透明感のある髪。とても同じ人間だったとは思えないほど綺麗な人だった。

 しかもジークがとても愛してる気持ちも伝わってきて、何人たりとも入る隙間がなかった。


「それでも嫌なものは嫌だ! お前は何も知らないから言えるんだ。ジークとの契約は、何時間も血を吸い続けて行うんだ。アザーク、お前の中に流れている血が、全て入れ替わるまでな」


 入れ替わるまで、吸われ続ける?

 アザークは男に跨れ、ずっと首筋を噛まれ続ける己の姿を想像し、ハッとした。


 嫌だ、その絵面嫌だ!


 まだキウイのような美女ならともかく、男に吸われるのは……。ジークも不本意だと言っていた理由がよく分かった。


 ———とはいえ、他に方法がないのなら試すしかない。背に腹は変えられない。


「キウイさんが嫌がる気持ちは分かった。俺も嫌だけど………俺の気持ちと世界の平和を天秤に掛けたら、俺は試す価値はあると思ったんだよね」


 彼女の手を両方とも掴んで、正面から向き合った。こんな真面目に対面したことがなかったから、少し緊張する。


「どうしたら許してもらえますか? 俺はキウイさんの許可を貰いに来た」


 本当は彼女も分かっているんだ。だから彼女が納得できる理由を、従者である自分が作らなければならない。


「あ、アザーク……っ、お前は今、自分が何をしてるのか分かっているのか?」

「一応は。めちゃくちゃ恥ずかしいけど」


 たとえ全身の血をジークに入れ替えれても、アザークは自分の従者だという自信を持ってもらいたい。

 ギューっと抱きしめればいいのだろうか? それともナデナデと頭を撫でる?


「アザーク……っ、その、誓いを立てるんだ」

「誓い?」


 顔を真っ赤に染めて、目を泳がせたキウイは「私に、キスをしろ」と命じてきた。


 キス……? え、俺から?


「そうだ、アザークからたくさんキスをするんだ。私が納得するまで、誓いを立てるようにキスをしろ」


 それはなかなかのハードルだが、断るわけにはいかない。首を少し傾けて、震えながら顔を近付ける。覚悟を決めたように目を閉じて、最後はグッと力を込めては触れるようにキスをした。

 そしてしばらくそのまま重ねて、息をするために距離を取った。


 さっきよりも赤く恥じらうキウイの表情に、心臓が跳ねた。まるで初めてに戸惑う生娘のようで、わざと意地悪をしたくなるような、穢したくなるような邪な感情が込み上がる。

 彼女の抵抗を無視して、またしても唇を重ね、そして更に押し付けて、彼女の身体を強く抱き締めていた。


 二人の間に荒々しい吐息が交わる。潤んだ瞳に半開きの濡れた唇。官能的なその顔は手がつけられない程に愛しくて、全部が欲しいと堪らなくなってきた。


「んン……っ、そんな、ダメだ……」


 アザークの首に腕を回して、さらに密着しておきながら否定するキウイを一層強く抱き締めた。

 光沢のあるドレス生地越しの、引き締まったお尻を掴んで腰を押し付ける。その擬似の体勢に二人とも困惑しながらも、拒めずに抱き締めた。


「———アザーク、それはダメなんだ。ジークは清い者しか従者にできない」

「ン……けど、キスしろと命じたのはキウイさんなのに」

「そ、そうだけど、キスまでしか命じていないだろう? その、こんな官能的なことは命じておらん……!」


 必死に強がる彼女を見て、一層気持ちが籠る。好きだ、好き……可愛い。


 彼女を抱き上げ、そのままベッドまで運んでは、両手を押さえ付けて跨って、たくさんのキスを続けた。唇だけでなく、頬、額……耳に首筋、鎖骨、胸元———……


「んっ、ダメ……ダメだ、アザーク……ン!」


 どんどん露わになる彼女の肌に、たくさんのキスを落とす。エルフ特有の耳介外縁に舌を添えながら、悶える反応を眺めていた。


「なぁ、キウイさん。俺はどこまでしたら、キウイさんもモノだと信じてもらえる?」

「んン……、どういう意味だ……?」


「俺はキウイさんが満足するまで、ずっとキスを続ける。それこそ、やめろって言われても」


 そう言って、彼女の太ももに手を添え、そのまま足の付け根に口を当てた。決して人に見せることのない秘密の場所を見られ、流石のキウイの声にならない喘ぎで啼いた。


「んンン……っ! ンっ♡」


 それこそアザークは、キウイの惚れた弱みに漬け込むように、長い時間をかけて彼女を落とし切った。



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