古城「アーサー城」

35/消えたハーレム

 グラストンベリー最下層、エクスカリバーの守護者、キウイ。世界樹ユグドラシル、レーヴァテイン守護者、プルー。そして古城アーサー城、バルムンク守護者、ジーク。


 こうして三人が集ったのは、いつぶりだろうか? プルーの前任者が亡くなった時以来だから、数百年は会っていなかったことになる。


「相変わらず化け物並みの美しさだな、キウイ。プルーもまだ幼さが抜けていないが、少しは大人びた表情をするようになったじゃないか」


 褒めているのか、貶されているのか……微妙な言葉のチョイスに、二人は失笑で応えることしかできなかった。そんな微妙な空気を察したジークも、慌てて耳打ちで言い訳を告げた。


「———悪い、ハルの前だと心の底から褒められないんだ。不甲斐ない俺を許してくれ!」

「別にジークにどう思われていようが、どうでもいいから気にするな。むしろ何も言わない方がマシだな」

「キウイと同意見。その中途半端な感じが余計にムカつく」


 女性に対しては強気になりきれないジークは、反論できずに奥歯を噛み締めながら、渋々次の話題に移った。



 そもそも、なぜエンドールに奪われたのか? どうして二人が一緒に行動しているのか。

 その為にはまず、アザークの紹介が不可欠だった。キウイは彼とその師匠、元カノの話を事細かく告げた。



「———クズだな! とんだクソ野郎だ! 生きていたら俺が息の根を止めてやったのに。もしハニーを奪うようなクソ野郎が現れたら、真っ先に抹消してやる!」


 幸い、エンドールの手によってグライムは絶命したのだが、逃げたセツナはどうしているだろうか? きっと彼女のことだから、のうのうと生き延びている気がするが、できることなら二度と会いたくないと心底願った。


「私達の話は以上だが、ジーク。お前とエンドールの因縁は何だ? 先ほどは唯ならぬ事情があるように見えたが?」

「あー……そりゃ、俺がエンドールから彼女を奪ったのが発端だ。生贄にされそうになったハニーを救ったのが、俺達二人の出逢いだ」


 澄ました顔で横に座るハルの手に口付けしながら、ジークは熱く語り出した。


 そもそも美しい処女を好むエンドールは、近隣の支配下の村や町に若い娘を差し出させては弄ぶ、気狂いな変態らしい。そして美少女として生まれたハルも、その贄の中の一人だったそうだ。


「聖教会団———と言うかエンドールが処女を敬う理由は、もちろん聖母マリアが根源だが、それと同時に俺の存在も影響していた。昔の俺は節操なしに女性に手を出し、多くの従者を抱えていた。それを見ていたエンドールが、俺の真似をしやがったんだよ」

「そういや他の従者の姿が見えないな? どこにいるんだ?」


 キョロキョロと回りを見渡したが、人の姿どころか物音も気配も感じれなかった。


「あぁ、今はハニーだけが俺の従者だ。他の女の子に手を出すと、ハニーが妬いてしまうからな」

「別に妬いてない。ただ面倒だと思っただけ」


 一見クールビューティーだが、意外と可愛いところがあるのかもしれない。だがその言葉にキウイは、机を叩き、怒りを露わにした。


「何浮かれたことを言っているんだ! そもそもお前は……っ、従者の数がお前の強さの根源ではないか!」


 ただでさえエンドールの強さに手が打てずに苦しんでいると言うのに。甘ったれたことを抜かすジークに怒りを露わにした。

 だが言われた本人は、澄ました顔で怒涛の声を聞き流していた。


「俺の能力だ、そんなこと俺自身が一番分かってる。だがな、愛する人を悲しませてまで力を欲しようとは思わなかった」

「いや、今はそう言ってる場合じゃなくなったって言ってるだろう! このスカシ野郎!」


 キウイは手を伸ばし、ジークの顔を鷲掴みにしてタコのように潰して苦しめた。これは物理的な痛みよりも精神的にくる。愛するハニーの前で辱められ、相当ツラそうだ。


「くっ、放せ! そもそもキウイ、お前がエクスカリバーを盗まれなければ、何の問題もなかったんだ! 自分の失敗を棚に上げるな!」

「いーや、エンドールが聖剣を集め始めたのは絶対にジークが原因だ! お前が女を侍らせてハーレムを作っていたから、嫉妬してお前を倒そうとしたんだろう? お前がハーレムなんて作らなければ! っていうか、作らないといけない時に作らんで、お前って奴は!」


「だぁぁぁぁっ! ウルセェ! 今は内輪で揉めてる時じゃねぇだろ⁉︎」


 あまりの幼稚なやりとりに、アザークは声を上げた。話すべきは他にある。

 おそらくレーヴァテインを手に入れたエンドールは、宿敵ジークを倒す為にアーサー城を襲撃にくるだろう。


「……俺の思いついた作戦は、お前だアザーク。元々聖剣は魔王を封じる物だが、同時に選ばれた人間が持つと何倍もの力を発揮すると言われている。あながち勇者の剣ってのも、嘘じゃねぇんだ」


 前に話していた適応の話か。あくまでその適性があれば、だが。


「あとはもう一つ、方法があるっちゃーあるんだが」


 ジークは顔を顰め、心底嫌な顔をした。

 心外なんだ、この方法はと渋々口を開いた。


「キウイ、プルー。俺は穢れのない少女しか従者に出来ないと言っていたが、それは嘘だ。いや、嘘と言えば語弊となるな。そもそも俺にする気がなかったから、嘘ではないんだが」


 言葉を濁らせながらブツブツと言い訳を並べて、全く歯切れの悪い奴だとキウイは痺れを切らした。


「何だ? 一体何が言いたいんだ?」

「———俺は男も従者に出来る。だからおそらくアザークは対象だと思う」


 その言葉に一同は騒めいた。

 男嫌いなジークが、男を従者にすると……?


「だ、ダメだ! アザークは私の従者だ! そもそも元は人間だったが、今はゾンビだぞ? 魔物は対象外だろう⁉︎」

「でも人間を従者にしたのは初めてだろう? もしかしたらイケるかもしれねェだろう? ダメ元で試す価値はある。なりふり構わず戦えと言ったのはキウイだろう⁉︎」


 おいおい、当の本人を差し置いて話を進めるな。そもそもイケるとか、ダメ元とか、他人の命を蔑ろにするな!


「そもそも俺にはヤる気のない提案だ。流してもらっても全然構わねェ。けどな、それならそれ相応の対価を払えよ? エンドールとの戦いは避けられないんだからな?」


 無責任な言葉を残して、ジークはハルと共に部屋へ戻った。歯痒そうに悔しがるキウイとプルーは、黙ったまま座り込んでいた。

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