33/譲る気なんて毛頭ねぇよ

「とりあえず、リーフトルクで食材とか色々仕入れる予定だけど、どうする?」

「デザート、ケーキ、パフェ、クッキー。甘いものを所望する。それだけは絶対に譲れない」


 やはりどんなことがあっても譲らないキウイ達の執念に負けたアザークは、フェンとリルンと共に調達に行くことにした。

 二人は耳と尻尾さえ隠せば目立たないので、今までもよく人里に出ては、食品や武器を購入をしたり情報収集をしたりしていたようだ。


「一人では何かと大変だろう? 俺達も手伝うから早く済ませよう」

「ボク達も食べたいのあるし、街に出るの久しぶりだねー」


 二人の美形獣人に挟まれ、行き交う通行人の視線が痛い程突き刺さった。両手に花、浮かれ野郎は爆発しろって思われがちだよなー。

 きっと俺も第三者なら、そう思う。そして俺も悪い気はしない。


『ちょっとアザーク、アンタ……! ウチの従者に変なことをしないでよ⁉︎』

『それは私のセリフだ! くっ、人の従者にちょっかいを出すなんて、油断の隙もないドロボウ猫だ! 鼻の下を伸ばすな、みっともないぞアザーク!』


 脳内ではギャーギャー騒ぐダークエルフの二人。現実ではピッタリとくっつく美人獣人姉妹。色んな意味で忙し過ぎて、頭が破裂しそうだ。


 とりあえず甘い物を与えれば、キウイ達は鎮まるだろうと、急いで洋菓子店へと立ち寄った。

 店の前まで漂う甘い香り。この魅惑的な香りは、彼女達でなくても蝶や蜜蜂のように誘われるだろう。


「よし、買い漁るぞー!」


 リルンが勢いよくドアを開けると、そこには深々とフードを被った男が、大量の洋菓子を購入したところだった。


 ショーケースの中は空っぽ。飾り棚に展示していた焼き菓子も、全部。すっからかんだ。


「なっ、何だこの状況は! え、全部? 全部ないのか⁉︎」


 あの外まで漂っていた香りは何だよ! 拍子抜けにも程がある。あれだけ期待をさせられて何もないのは酷だろう。

 店の奥から出てきて小太りの店主は、ゴマスリをしながら謝ってきた。ヘコヘコとしているが、全品売り切れに嬉しさを隠しきれないのが滲み出ている。


「エヘヘヘヘ、お客様、申し訳ございません。つい先程、全商品売り切れてしまいまして」

「全品って……、少しも残ってないのか?」

「はい、全品です。へへ、申し訳ございません」


 チラっとフードの男を見たが、悪びれた様子もなく無愛想に突っ立っていた。それだけの量……少しくらいは譲ってくれないだろうか?


「あァ? そんな義理、お前にないだろう?」


 ギロっと睨まれ、アザークはあっさりとたじろいだ。はい、ごもっとです。だか、こんな場面に遭遇するとは予想外だった為、頭を抱え込んだ。


「あの店主。この近くに他の洋菓子店はー……?」

「あるはあるけど、きっとジーク様が購入してるから、行っても無駄だと思いますよ?」


 ジーク? 聞き覚えのある名前だ。

 この紙袋を両手一杯に抱えた男が、ジークだろうか? 覗き込むように屈むと、少しだけ顔が見えた。やはりキウイのように褐色の肌に真紅の瞳、この美形はやはり守護者ジークだ。


『はァ⁉︎ ジーク? 何で奴が街にいるのよ! しかも当たり前のように街に出て!』

「何だ、お前……そんな物欲しそうな目で見ても、やらねぇぞ? これは俺の愛しいハニーの為に買ったんだからな」


 この柄の悪い美形が、ジークか。

 聖剣の守護者は、揃いも揃ってクセが強いな。けど探す手間が省けてよかった。


「だ・か・ら、ハニーのデザートは渡さねぇって言ってんだろう? 可愛い女の子を侍らすようなクズ男はさっさと消えろ。それとも俺様が直々に消し去ってやろうか?」


 ———だが、お互いの第一印象は最悪。

 さぁ、俺……どうするのが正解なんだ?


 この性根の悪そうなダークエルフを前に、アザークは途方に暮れた。

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