32/信者の行く末は天国か、地獄か
ボウグの話を聞いたアザークは、ひたすら絶望を覚えていた。
今なら分かる、それがおかしいということを。
だがセツナが聖教会団に所属しているときは、何も疑わなかった団体だったし、こんなにも気狂いな集団があったというのに、気付かずに生きていた自分が情けない。
「父も母も一日中働き、ほとんどのお金を寄付いたしました。僕達の汗水がエンドール様達の幸せになるなら、この上ない幸せです」
両手を合わせて語る表情には、皮肉にも希望に満ちており、自分達の選択は間違っていないと疑う余地もないように見えた。
恐ろしいのは、その教団が世界のトップクラスの最大級の宗教で、多くの人間が信じている事実だ。ボウグみたいな人間がウヨウヨしてるなんて、考えただけで目眩がする。
「世界は混沌に包まれているけれど、エンドール様が必ず救って下さいます。何も恐れるものはありません」
「———いや、お前……死にかけてたじゃん? そのエンドール様のせいで」
一緒に話していると、こっちまで気が狂いそうになる。ボウグには悪いが、次の街に入ったら彼と別れよう。
「いいのか? ボウグは両親姉達、家族を失ったばかりの少年だぞ? そんな奴を一人にして、アザークの良心は痛まないのか?」
「うっ、それを言われると……けど、今からエンドール達、聖教会団と対立するって時に、足枷になりませんか?」
「分からん、が……あんな健気な子を見捨てるなんて、私には出来ない」
とはいえ、犬や猫を拾うのとは訳が違う。
しかもエンドールを悪くいうと癇癪起こすように怒り出す奴だぞ? エンドールを倒した暁には、どうなるか想像もつかない。
「孤児院に預けるか?」
「だが、孤児院は教会だろう? またエンドールの配下に置かれてしまうぞ?」
本末転倒……家族を嬲る様に殺害された子を、これ以上残酷な環境には置かせたくない。何かいい方法があればいいんだが、思いつかない。
「いったんプルーに任せるか? とりあえずは洗脳が解けるまで、教団から引き離すのが一番だろう」
そういえば、プルー達とはいつまで共に行動するのだろう? やはりレーヴァテインを取り戻すまでは、協力し合うのだろうか?
「どうせ、プルーは怖がってばかりで役に立たないだろう? それならいてもいなくても関係なくねぇ?」
「……ちょっと待ってよ、私を差し置いて大事な話をしないで? そもそも何、その仲間外れ! いやよ、私だって戦えるもん! 最後までついて行くからね!」
いつの間にか異空間から顔を出していたプルーが、頬を膨らませ、真っ赤な顔で怒っていた。
ほら、また意味のないワガママを。せっかく危ない日常から解放されるというのに、何故自分から首を突っ込む?
「……私だって守護者だもん。キウイみたいに戦えるもん」
「プルー……その心意気はいいが、己の実力を見誤り、過ちを犯すのは違うんだぞ? きちんと引き際を見極めることも大事だ」
ぐだぐだと説得されているプルーは、縋るようにアザークを見てきた。まるで助けを求めるような目色に、決意を揺らされそうになったが、さすがに駄々を捏ねている状況ではない。遊びじゃないんだ、これは。
「でも、キウイもアザークも、邪竜のように死んじゃうかもしれないでしょ? そんな時に自分だけ安全なところにいて、後悔するのは嫌だよ」
意外だった。まさかプルーからそんな言葉が聞けるとは、誰が想像しただろうか? 一番驚きを隠せなかったのがキウイだったらしく、どうするのが最善なのか、かける言葉を探しては噛み砕く、そんなことを繰り返していた。
「大丈夫ですよ、キウイ様。きっとその悩みも全てエンドールさまが解決して下さいます。共に祈りましょう」
———鎮まる一行。
祈祷を捧げるボウグを見て、危険な香りがプンプンすると判断したプルーは、ひたすら顔を歪ませ、引き攣らせた。
「何、コイツ……頭がおかしいんじゃない?」
「だから洗脳が解けるまで、隔離をするのをプルーに手伝ってもらいたかったんだよ。分かるだろう?」
「無理! こんなのと一緒にいたら気が狂いそう! アザーク、アンタ……体よく押し付けようとしてたでしょ? 最低!」
「違う、違うんだよ! 適材適所? だってそれくらいしか役に立たねぇだろ、プルー様は!」
「またディスったー! もう怒った! こんな奴、適当にスライムと遊ばせれば良いじゃない! 同年代にポヨポヨされてれば、癒されて洗脳も解けるわよ!」
おぉ、その手があったか!
ウチの最大の癒しガール達、ここにきてやっと活躍しそうだ。
「ポヨポヨ……スララー」
「スラスラー……」
モンスター化した彼女達も可愛いし、擬人化した姿も癒される。流石のボウグも、コイツらには何も言うまい。
「さぁ、皆で祈りを捧げましょう……」
「スラー……」
———大丈夫だよな? 逆に洗脳されて、変な空間にならなきゃ良いがと心配しながら、アザークは異空間から出た。
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