30/距離が近くないですか?

 太陽が昇り出し、爽快な朝がやってきたが、自分達ゾンビにとっては天敵とも言える日光に、皆は顔を顰めながら文句を垂れていた。


「ズルいー! 何でアザークだけが外に出れるの? 私も出たいー!」

「仕方ないだろう? アザークには情報収集や仕入れなど、色んなことを頼んでいるのだから」


 今日も元気な獣狼に、皆も苦笑を溢しつつ癒されていた。


「そういや、俺達ゾンビは日光ダメだけど、フェンとリルンは? 外に出れないのか?」


 移動の際、皆と同じように異空間にいたので気にしていなかったが、どうなのだろう?

 すると、キウイが咳払いをして教えてくれた。


「うむ、実は守護者である私達ダークエルフには、それぞれ力が授けられていてのぅ……私は死者を従者にすることができるゾンビマスター。プルーはモンスターを擬人化させて従者にするビーストマスターなのだ。あともう一人、ジークは人間の女の血を吸って、従者にするヴァンパイアマスターだな」


 へぇ、ってことは……似てるようでそれぞれ違うってことか?


「私も普段擬人化させているから、プルーと似てるじゃないかと思われがちだが、私の従者はモンスターの姿にも戻れる。一方、プルーの従者はモンスターに戻れない反面、潜在能力が大幅アップされているんだ。そして太陽の光も問題ない」


 イマイチ違いが分からないが、その辺は適当でも問題はないだろう。


「ただ、従者という点でハズレくじを引いたのがジークだったのぅ。アイツの能力は従者を増やすだけ。弱いからすぐ死ぬし、処女限定という縛りもあるし、不便そうだったな」

「えー、そう? ジークは嬉しそうだったけど? アイツ、可愛い女の子ばかり侍らせて、ハーレム作ってたし」


 ハーレム……。

 男としては一度は憧れるシチュエーションに、興味が湧かないかと聞かれたら、勿論ありますと即答する。


「キウイさん、教会団の件もあるし、早くジークさんの所に向かいましょう!」

「うむ、今のアザークからは邪な考えしか伝わってこないな。この腐れ野郎め! こんな可愛い女の子達に囲まれているのに、何が不満なんだ⁉︎」


 キウイに言われて、アザークは言葉を詰まらせた。確かにそうなんだけど……このハーレムは、何か違うんだよ。


 きっとジークのハーレムは、お色気ムンムン、イチャイチャウフフの夢とエロスが詰まった楽園。

 その一方、アザークはワチャワチャお菓子で溢れた幼児の集まり、パーティーかお楽しみ会をしているようなものだった。


 精神年齢の問題だろうが、これは少し残念である。


「ふむ、アザークはハーレム所望か? そんなの一人いれば十分ではないのか?」


 腕を組んできたかと思ったら、わざとらしく胸を押し付けて「どうだ?」とドヤ顔で聞いてきた。それを聞かれると何も言えなくなる。


「あれぇー、アザークとキウイ、そんなに仲良しだったっけ?」


 プルーの言葉に皆が一斉に注目した。

 え、いや、そんな言うほど仲良しか?


「距離近くない? えー、何だかイヤらしいー」

「イヤらしくなんてないぞ? アザークは私の従者だからな。仲良くするのは当たり前だろう?」

「でもでもさー、なんかズルい」


 皆の視線が痛い。

 しかも、どちらかというと「皆のキウイ様なのに、アザークだけが可愛がられてズルい。この新参者の分際で」という殺気が伝わってくる。うん、主に獣狼から。


「わかった、わかった。それじゃ、皆もナデナデギュッギュをしてやるから。ちゃんと順番に並ぶのだ!」


 キウイの呼びかけに、獣狼とスライム達はワチャワチャ並び出した。やっぱり子供の溜まり場だな、ここは。

 自分もその一員だと思うと、少し泣けてくる。


「………安心しろ、アザーク。お前は後から、思う存分ナデナデギュッギュをしてやるぞ?」


 コソッと耳打ちされた言葉に、不覚にも反応してしまった。それは反則だよ、キウイさん。


 その傍で、何故かプルーとフェンが俺の両腕にしがみついて……擦り擦りと頬擦りをして甘えてきてるんだが?

 何をされているんですか? お二人とも……。


「べ、別に私達もアザークと仲良くなりたくて抱きついてるわけじゃないんだからね!」

「まぁ、たまには便乗して、交流を深めるのもいいかなと思ってね」


 えぇー……二人は比較的大人の分類だと思っていたのに、獣狼達と同じレベル?


 全く、俺の夢のハーレム実現はは、まだまだ程遠い。

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