「リーフトルク街」

29/大司祭エンドール

 僕は、生まれた時から人と違って、特別だった。

 澄んだ碧い瞳に愛らしくぷっくりとした唇と頬。天使のように可憐な僕が微笑めば、皆が幸せになった。


 その時から思っていた———人生って、ちょろいな。



 多くの人間がエンドール見たさに集っていた。聖教会団の神殿に群がる信者に向けて、エンドールは笑顔で手を振った。


「エンドール様ァ!」

「こっちにご慈悲を! どうかァー!」


 今日も熱狂的だね。

 まるでゴミ虫のようで気持ち悪い。


 この美しい微笑みの裏で、見下されているとも知らず、今日も信者達は元気にお金を落としていきました。僕の神殿は、今日も平和です。


 部屋に着くなり、エンドールは司祭の服を脱ぎ捨て、全裸でソファーに腰掛けた。この開放感……堪らないね。


「エンドール様、お飲み物はよろしいですか?」

「うん、気がきくね。アールグレイを適温で」


 専属のメイドは、丁重に頭を下げて立ち去った。最近世話をし始めたけど、大人しくて従順で、何よりも美しい。


 やはり女は処女がいい。


 エンドールの周りの世話をするものは、二十歳以下の処女ばかりだった。

 一度でも姦通した罪深き者は、即座に処刑している。そりゃ、もちろんだよね? 僕という敬うべき存在を蔑ろにして、他の男の快感に溺れるような奴は、死んでしまえばいい。


 セツナも見てくれも悪くなかったし、素直な犬だったんだけど、やっぱり僕から離れたらダメだね。普段からちゃんとないと。


「お待たせ致しました。アールグレイとケーキをお持ちしました」

「うん、ありがとう」


 だが口につけた瞬間、あまりの熱さに驚いて声を上げた。何だ、コレは! 僕は適温だと言ったのに、このクズメイドめ!


「この無能! 僕が猫舌なのを知っておきながら、こんな熱いものを飲ませたのか!」

「ヒィッ!」


 熱々の湯の入ったカップをメイドに投げつけ、そのまま怒涛し続けた。

 顔に熱湯を被ったにも関わらず、彼女は仕切りに謝り続け、震えながら床に額を擦り続けていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……もういい、下がれ」


 一通りの怒りを吐き出したエンドールは、そのままソファーに座って一息吐いた。これ以上の粗相をする前に、急いで立ち去ろうとしたメイドだったが、ドアを閉め切る前に目が合ってしまった。


「———そういえば、君の名前は?」

「え……? ほ、ホウカです」

「ホウカか。うん、覚えた」


 その笑顔の裏に悪魔が潜んでいることも知らず、メイドは逃げるように立ち去っていった。


 ———僕を怒らせた罰を与えなければ。手始めに彼女の両親を鞭叩きにして、姉妹達を売春小屋に売り飛ばそう。


「ねぇ、ワイズ。そこにいるんだろう? 至急、手配を頼みたいんだけど」

「———仰せのままに」


 エンドールの護衛、ワイズに指示を出してから、立ち上がって大きな鏡の前に立ち見した。


 素晴らしい。やはり僕こそ奇跡の存在。

 この彫刻のように素晴らしい筋肉。美しい佇まい……惚れ惚れする肉体美。


 だが、そんな彼に刻まれた醜い火傷の跡。あの邪竜というゾンビにヤラれた傷だ。


 あの男に邪魔された挙句、邪竜の火炎で吹き飛ばされ……流石の僕も撤退を余儀なくされた。あまりにも腹が立ったから頭をかち割ってやったけど、今頃どうしてるかなァ?

 ゾンビだから、脳みそを垂らしたまま徘徊してるのかな?


「はは、ゾンビらしくて面白いじゃないか。今度会った時には、肉片も残すことなく潰してやろう」


 だが、悪いことばかりではなかった。

 やっと手に入れた聖剣レーヴァテイン。この剣は素晴らしい。持っているだけで力が満ち溢れる。流石は世界を救うと言われている伝説の聖剣の一つだ。


 今日も試し切りをしたい。早く切りたくて仕方がない。魔物狩りに出かけるか? それとも邪教徒共で試してみるか?


 本当はあのキウイとかいう、ダークエルフを切り刻みたいのだが、今は我慢だ。


「待っててね、ダークエルフ共。僕がちゃーんと息の根を止めてあげるからね」


 エンドールは抑えきれない興奮を胸に、レーヴァテインを振り回していた。





 ******

 声を大にして言いたい………「変態だーー!」

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