24/エクスカリバー、回収に伺いました

「アザーク……っ、お前、生きていたのか?」

「———師匠達に会うために、地獄から蘇ってきましたー……なんてね」


 笑えない冗談を一発かまして、アザークは引きつかせながら笑みを浮かべた。

 まぁ、死んだと思っていた奴が会いに来た時の反応なんて、こんなもんか。普通はフリーズだよな。


 謝罪の一つや二つ、かまして欲しいと思っていたが、どうやら期待は薄そうだ。


「偶然でしたね。俺、隣の部屋を借りてて、聞き慣れた声が聞こえるなーって思ったら、師匠とセツナだったんで。俺もビックリしました」

「そ、そうなのか……? はは、そんなこともあるんだな」


 うん、本当にビックリだよな。俺も驚いたもんだ。そしてやっと服を着たセツナも、入り口に近付いてきた。よし、これで骸骨が侵入しやすくなる。


 テレパシーでクリアを伝え、作戦を実行した。いくら透明化が出来るとはいえ、リスクは最小限がいいだろう。


「アザーク……、本当にアザークなの?」


 わざとらしいセツナの態度に、胃液が逆流して吐き気が込み上がってきたが、必死に飲んで押し込めた。


「心配したんだよ? 生きていたなら、すぐに会いにきてくれたら良かったのに……!」


 胸元に飛び込んで、あざとく胸元を押し付けて。そんな貧相な肉を押し付けられても、美女のハーレムに慣れてしまったアザークに、効果はなかった。


「でも嬉しい、こうしてまた会えて。今まで何をしてたの?」

「え、それってセツナに関係ある?」


 突き放した言葉に「え……?」って、一丁前に傷ついた声を洩らして。しかも師匠まで「何て冷たいことを言うんだ!」って、上から目線で叱り出したし。


 俺から言わせて貰えば、お前らの方が何をしてたって話だ。まぁー、全部お見通しだけどね。嘘を吐かれるくらいなら黙ってほしいから、あえて聞かないでやった。


「もしかして怒ってる? 私達がアザークを残して逃げたから」

「えー、別に? だって全滅するよりも、誰かを犠牲にして生き延びた方がいいだろう? それが俺だっただけだし。別に怒ってねぇよ?」

「それなら何で…? こんなアザーク、いつものアザークじゃないよ!」


 いつもの俺とか言われてもー……。

 人間って、裏切られたら人格変わるんだよ、きっと。覚えておこうな? 人に優しくされたいのなら、まずは自分が優しくしてあげよう。


「なぁ、セツナ。俺さ、聞きたいことが一つあったんだけど」

「な、何々? 何でも聞いて?」

「セツナってさ、処女じゃなくても教会はクビにならないの?」


 凍りつく一帯。ヒクっと、彼女の口角が引き攣った。何で知ってるのって顔してるが、その不自然に着崩れたローブに、壁の薄い隣室。ずっと盛ってたくせに、バレないと思っていた方が笑えるんだけど。


「おい、アザーク! 黙って聞いてりゃ、さっきから何なんだよ!」

「何って、ただ単純に聞いてるだけですよ? 師匠も気になりません? あんなにズバコバしておきながら。もし教会を追い出されたら、責任取らないといけないんじゃないですか?」


 グッと言葉を詰まらせて。え、もしかしてそんなことないと思ってた? 無責任ー。まぁ、師匠は自分さえよければ、他の奴はどうなっても構わないって性分だもんな。


 でもな、本当はこんな答え、どうでもいい。コイツらがどんな末路を辿ろうと、心底どうでもいい。


「———アザーク……、お前、何か勘違いをしてねぇか?」

「は?」


 突然、開き直ったように顔を上げて、気持ち悪いな。一体、どこの部分が勘違いだと言ってるんだ?


「もしかして、さっきの俺達の声を聞いて勘違いをしたのかもしれないが、それはお前のなんだぞ?」

「………俺のせい?」

「そうだ。お前が死んだと思って、セツナは本当に落ち込んでいたんだ。だから俺が慰めてやっていてな? その時に泣き喚いたりしていたから、その声を勘違いしたんじゃないのか?」


 ほうほう、あんなにバッチリとアンアン啼いていたけど、それは泣き声だと。


 ———随分と苦しい言い訳だな。


「そうだよ、アザーク! 私は一時もあなたのことを忘れたことはなかったわ!」

「あ、そういう嘘はいらないので。薄っぺらい気遣いは謹んでお返し致します」


 それより骸骨の方はどうだろう? 順調だろうか?

 中をチラッと覗き見ると、解放したままの窓が視界に飛び込んできた。問題なさそうだな。


『もういいかな、キウイさん』

『あぁ、問題ない。一本しか見つけられなかったが、エクスカリバーは無事に回収できた。アザーク、そんな糞野郎の面なんて、思いっきり殴ってやれ!』


 任務を全うできた安心からか、自然と笑みが込み上がってきた。よし、こんな茶番、終わりにしよう。


「おい、アザーク? どうした、何かあったか?」


 前屈みになったまま動かなくなったアザークを心配したグライムは、仕切りに声を掛けていたが、それらを全部無視するかのように、思いっきり拳を振り上げた。骨が鼻骨にクリーンヒットし、見事に鮮血が舞った。汚ねぇ花火だな! いや、鼻血か。


「アザーク! あなた、師匠に向かって何をしてるの!」

「るっせーな! こんな屑野郎、もう師匠でも何でもねぇよ! ついでにお前もな、淫乱女! 一生、パコパコしてろ!」


 ここまでくると、もはや子供の悪口だ。だが俺の次の仕事は師匠達の誘導だ。上手く付いて来てくれたらいいのだが、肝心の師匠が倒れたまま起き上がってこない。強く殴りすぎたか?


「グライム、大丈夫? 今、回復するから!」

「いててて、あの野郎……! おい、アザーク、止まれ! 今すぐお前をぶっ殺してやる‼︎」


 よし、意外と元気だ。


「止まれと言われて、止まる馬鹿がどこにいるんだ、バーカ!」


 ベェー……って、挑発的に舌を出して、あえてゆっくり走り出した。

 後は任せましたよ、キウイさん。


「うむ、任された。このエクスカリバーで木っ端微塵にしてやろう」


 相変わらずの悪役面で待ち構えているであろう彼女の元へ、アザークは走り出した。


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