23/師匠との再会(ついでに元カノも)

「さて、私達の大事な剣を奪った奴らへの報復だが、どこでするかのう」


 すっかり悪人面で作戦を立てるキウイさん。奴らが寝泊まりしている宿舎は村はずれの辺鄙なところにあるので、そこまで損害は出ないと思うが、出来ることなら他の人に迷惑を掛けることなく、穏便に済ませたい。

 だがそんなことを言うと「お前はまだ、そんな甘ったれたことを……」と一瞥されるに違いない。


「それじゃ、攫う? 私がチャチャっと攫おうか?」


 ニヤリと、自慢の牙と爪を見せて獣狼が名乗り出たが、それはフェンが止めた。今の奴の戦闘能力は桁外れだと。

 エクスカリバーだけでも攻撃力を上げたというのに、レーヴァテインまでも奪われた今、その数値は更に上がり、未知数になっていることが推測できる。本来ならもう一人の守護者、ジークが守護しているバルムンクを備えた状態で望みたいが、敗北した時のリスクを考えると、迂闊な行動は出来ないと断念した。


「ってことは、どうしようもないってこと? お手上げなの?」

「どうするかのぅ……」


 折角の奇襲のチャンスだと言うのに、手が出せないのが歯痒い。

 すると、珍しく骸骨スケルトンが手を挙げた。


「あのさ、アタイが盗んでこようか? どっちかの剣を」


 彼女の発言に皆は難色を示した。いや、強敵相手にとびこめないから悩んでいるのに。簡単にできれば、こんなに悩むことはない。


「あー……ほら、アタイの能力は透明化だから。そういったことに有利」


 そう言って、挙げた手を透かせて見せた。そんなチートを持っていたのか、骸骨。


「確かに骸骨のスキルを使えば、奪うのは可能かもしれない。確実に奪う為には、どうやって隙を作るかだな」


 その点に関しては、うってつけの人間がいる。

 アザークは無言で手を上げ、参加の意思を表した。


「俺が行く。そもそも俺はゾンビだし、死とかそんなの関係ないだろう? もっと俺らの特性を活かせばいいんだよ」


 ゾンビ軍団で特攻とかすれば、すれなりにダメージを与えられそうだし。だがその言葉にキウイは横に振った。


「ゾンビだからと言って、必ずしも無敵ってわけではないんだ。確かに大抵の復元はできるが、契を打ちつけている心臓を木っ端微塵に滅された時……その時は契約が切れて、消滅する。そして後は記憶を保持する脳の部分。生き返ることは出来ても、全く違う人格になってしまう」

「でもさ、逆に言えば、少しでも残っていれば復元できるんだろう? やっぱ最強だろう?」

「———お前って奴は、随分とぬるま湯で生きてきたんだな」


 ハァ……と大きく溜息を吐かれ、え? 俺ってもしかしてディスられた? 今、バカにされた?


「逆にさ、キウイさん達はどうしたら死ぬの? もう何百年も死んでないんだろう?」


 ただの興味本位の質問だったが、キウイもプルーも厳しい顔付きで、静かに視線を伏せた。


「アザーク、世の中には絶対に口にしてはならないこともあるんだ」

「え……?」

「死よりも恐ろしいことを体験したくなければ、二度と聞かないことだね」


 え、俺ってもしかして、とんでもないことを聞いた?

 同情してくれた邪竜は、ポンと肩を叩いて慰めてくれた。そして冷たい視線で「二度と口にするな、それが身の為だ」と、再度釘を刺さされてしまった。


「とはいえ……アザークの言う通り、彼に囮になってもらうのが一番だろうな。なぁ、絶対に脳と心臓を死守すると誓えるか?」


 ぜ、善処を尽くします……。


「それならアザークが奴らの部屋を訪問した時に、骸骨に聖剣を奪還してもらおう。よいな?」


 こうして俺達は、各々の役割を全うする為に移動した。


 正直、師匠達に会う気なんて毛頭なかった。あんな面、二度と拝みたくなかったし、思い出しただけで胸糞悪くなる。


 けれどプルーの従者、フェンが受けた屈辱に比べれば、全然甘ったるい仕打ちだった。自分の仲間が卑劣な目に遭った事実の方が、許し難いと気付かされた。


『大丈夫か? 私達は持ち場に着いた。骸骨が聖剣を奪還したら、村を出て森林に誘導するんだ。そこで思う存分、袋叩きにしてやるぞ』


 うわー、皆の気合いが充分だー。

 かと言う俺も、全力で殴る用意はできている。


 アザークはスゥー……と細く長く息を吸い、そのままノックをした。奴らはどんな顔をするだろう?

 忙しく鳴り続ける心臓を拳で叩き、早る殺意を必死に抑えた。


 近付く足音、気配。そして開かれた扉。開けたのは、師匠のグライムだった。


「何だ、一体……どちら様?」


 やる気のない態度で、頭をボリボリ掻きながら奴は姿を現した。流石に長年共に旅をした弟子の特徴は忘れていなかったらしく、驚いたように顔を上げてきた。


 暫しの沈黙。目開いた眼光、口元も情けなく開いて。みっともないったら、ありゃしない。


「お久しぶりです、師匠」

「あ、アザーク……? アザークなのか?」


 その発言に、中で寛いでいたセツナも脱ぎ捨てていたローブを手に取り、肌けた肌を隠し始めた。もう遅い。何もかも。


「———師匠達に会うために、地獄から蘇ってきましたー……なんてね」

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