22/壁の向こうには……屑師匠⁉︎【胸糞表現あり】

「あの、すいません。俺のような下っ端がこんなことを言うのは身の程知らずだとは思うんですが……」


 新たな村についたアザークは、無理を承知に願い出た。

 一見、他の奴から見れば美女満載ハーレムかもしれない。だが、精神的にいっぱいいっぱいなアザークには刺激が強すぎの上、キャパオーバー……もう、限界を突破していたのだ。


「お願いします! 今日は個室でゆっくり寝かせて下さい! 男には必要な時間なんです」


 スライディング土下座、額を地に擦り付けて懇願した。

 常に異空間で強制ハーレム状態。こんな時でなければ、プライベートな時間なんて確保できない。


「ふむ、仕方ないな。今夜だけだぞ? 個室は金がかかるしな……」

「ありがとうございます!」


 思わぬ温情に、アザークは浮かれ気味に飛び跳ねた。

 一人、一人、一人! 誰もそばにいないってことが、こんなに開放的だとは思ってもいなかった。

 部屋は一番安いシングルベッドのみ。だが十分だった。アザークは手足を伸ばして深く呼吸を吐いた。


「幸せだ………」


 だが、やはり安い部屋。隣の宿泊者が帰ってきたのか、ギギィー……という扉が開く音が聞こえたかと思ったら、今度は何やら言い合いが始まった。そして次第にケンカ腰になり、最後には何故か喘ぎ声と肌のぶつかり合う音が聞こえてきた。


「アンっ、アァン!」

「オラオラオラぁー」


 ……………何で、何で俺の周りってこんなことばかりなんだ!

 ふざけるな! 真昼間から始めるなら、壁の厚い宿舎に行きやがれ!


 折角、一人の時間を満喫できると思っていたのに、すっかり台無しになってしまった。ブツクサ言いながら外に出ると、隣人の部屋の前に正座で座らされている獣人がいた。


「え?」

「ん?」


 何だ、この初めて見た気がしない既視感は。バックミュージックに聞こえるパコパコアンアンがやけにシュールだが、アザークは獣人から目を逸らすことができなかった。

 それに首につけられているソレは、まさか?


「アンタ……まさかフェンじゃ?」

「———なぜ、俺の名前を知っているんだ?」


 マジか! 思わぬ人物との遭遇に、全身の血の気が引いた。

 早く皆に知らせなければ! だがそんな時に限って、他のメンバーは洋菓子店へと繰り出していた。くっ、従者の首輪だけでも早く外さねぇと!


「待っててくれ、今すぐ解放してやる! これってどうやって外せばいいんだ?」

「無理だ、俺も何度も試したが、つけた本人しか外せないらしい」

「いや、諦めるな! くそ……っ、少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」


 幸い革製だった為、ナイフで切り裂けるかもしれない。首との隙間に入れ込み、切り刻んだ。奴隷本人には傷はつけられないが、他者なら関与が可能らしい。


 時間は掛かったもの、従者の首輪を取り外すことができたアザークは、気を失い倒れ込んだフェンを受け支えた。

 おそらくこのドアの前で、正座で待機しろとでも命令をされていたのだろう。だが効力が切れた今、本能が優先されて眠りについたという様子だった。


 ———いや、待て。この人がフェンなら、中にいるのは……?


 ドッ、ドッ、ドッ……っと、生きてきた中で、一番変な脈を打ち出した。いるのか、奴らが。中でアンアンしているのが、奴らなのか?


「あー、いい汗かいたぜ。セツナ、ビール買ってくるけど、お前は何かいるかー?」

「私は炭酸水。あと何か甘いものを買ってきて」

「あいよー」


 しまった、こんなところで遭遇しても勝ち目はない! 何よりも彼女を、フェンを隠さなければ!

 とりあえず自室に戻ったアザークは、間一髪で顔を合わせずに済んだ。それにしても、まさかこんな場所で再会するとは思ってもいなかった。


「あれぇー、なぁセツナ。あの犬コロ、いなくなってんだけど何でだろう?」

「えー、首輪をつけてたのに? やっぱアレ、紛い物だったんじゃない? 怪しい道具屋から買ったんでしょ?」

「そうだけどよー……あー、便利だったんだけどな。荷物持ちやモンスターアタッカー。ストレス発散のサンドバックにも最適だったよなー?」

「あと、獣人らしくハイウルフとヤラせたのは面白かったよね。見た目が人間ぽい分、獣姦みたいで。興奮したよ」

「次は何とさせるかね。あー、でも逃げられたら試せないか。こんなことなら俺も試せば良かったな」

「えぇー、モンスターに犯された女なんて、よく抱けるね。さすが変態」

「だから抱けなかったのかな、俺」


 ———この場に、俺しかいなくて良かった。

 きっと他の奴が聞いたら、あまりの胸糞にトラウマになっていたかもしれない。こんな卑劣な事実を、無闇に知る必要ない。これ以上、酷い目に遭う前に助けられて良かった。


 アザークは腕の中で静かに眠るフェンを抱き締め、強く誓った。


 絶対に、アイツらを許さない———!


 そして存在を知られないように静かに息を殺し、静まり返ったのを確認してから、他の宿舎に寝泊まりしていたキウイ達と合流した。


 皆も初めは目を疑い驚いていたが、フェンの帰還を泣いて喜んでいた。特にプルーとリルンの喜び方は感極まったものがあり、思わずもらい泣きしそうになった。


「よく救い出せたな? 普通、従者は主人から離れないものなんだがな」

「丁度、逢引の最中に待機を命じられていたんだよ。不幸中の幸いだ」

「あ、逢引ィ? アイツら、まだ乳繰り合っていたのか?」


 けどね、キウイさん。俺はそれよりも胸糞悪い気分でいっぱいだから。今すぐにでもアイツの顔面に拳をぶっ放してやりたい。


「今すぐ皆で殴りに行こう! これ以上、アイツらの好き勝手にはさせられねぇ!」


 こうして、やっと居場所を突き止めた師匠に奇襲を掛けることとなった。





 *****

 お読み頂き、ありがとうございます。こんな下衆師匠の奴隷落ちしたフェン、無事ではいられないだろうなと思いつつ、胸糞な表現をしてしまったことをお詫び致します……。

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