18/プルーとの再会

「キウイ様、キウイ様! プルー様を見つけましたッッ!」


 まるで投げられたボールを見つけた飼い犬のように、獣狼は喜々と声を上げた。だがこの成果は褒めて遣わす、そう言わんばかりに獣狼の頭をクシャクシャと撫で回した。


 彼女達が身を隠していたのは、ユグドラシルから5キロは離れた避難用の洞穴だった。ビクビクと怯えたプルーを、リルンは毛を逆立てて守っていたらしい。


「プルー、一体何があったんだ?」

「き、キウイ……、私、私ィ……ッ!」


 泣き喚くだけで全く進展しない。諦めたキウイは、従者であるリルンへと質問を変えた。そしてグライムとの戦闘、フェンが隷属化され連れ出されたこと。そして命に変えてでも守らなければならなかったレーヴァテインを奪われてしまったことを理解した。


 事態は思っていたよりも深刻だ。

 まさかエクスカリバーを駆使できる人間が現れるなんて、思いもよらなかった。このままでは魔王の封印が解かれるのも時間の問題かもしれない。


「———逃げるか、皆で」

「おい、どうすりゃそんな結論が出るんだ! 最低だな、キウイさん!」

「う、うむ、申し訳ない。だがな、アザーク。私はもう何百年という年月を費やして守ってきたんだぞ? なのに何も知らない人間達のせいで苦労して、魔王の封印も解かれそうで……もう、何の為に頑張ってきたのか分からなくなってきた」


 そう言われると元の子もない。だが、それで逃げるのは、あまりに無責任のような気がする。


「人間共が勝手に封印を解いて、勝手に滅びるのだ! それで良くないか?」


 最早、誰も反論はなかった。何の恩恵もなく守るには、あまりにも長すぎる年月だった。


「だが、キウイさんよ……もし人間が滅びてしまったら、もうケーキもアイスも食えなくなるぞ?」


「なぬ……?」と困ったような反応を示してきた。そう、人類は救いようもない生き物かもしれないが、愚かなりに文明を築き上げてきたのだ。


「クッキー、チョコレート、グミ、アーモンドナッツ……」

「……くっ、卑怯な人間共め! なぜこんなに私達をことを苦しめるのだ! 許さん……、許さんぞ! 今すぐにでもフェンと聖剣の奪還を目指して追いかけるぞ!」


 これで一先ず安心か。安堵の息を吐いたアザークは、プルー達に目をやった。すっかり戦闘意欲を無くした様子だが、どうするのだろうか?


「行くだろう、プルー。レーヴァティンを奪われたのはお前の未熟さが原因だ。自らの失態は自分で挽回するのだ」


 非情にも聞こえるキウイの言葉に、プルーは歯を食いしばった。


「何よ、人のせいにばかりして! そもそもキウイがエクスカリバーを奪われなければ、人間も強くなくて、フェンとリルンだけで勝てたのに! 全部キウイが悪い! 私は悪くない! 私は……っ!」


 だが、大事な従者であるフェンが連れて行かれた事実は変わらない。彼女の置かれた立場を考えると、すぐにでも助けに向かいたい。


「行くのか? 行かないのか? 自分で決めるんだ」


 支えてくれたリルンの肩を掴み、プルーは立ち上がった。助ける……助けに行かないと。だって私は彼女達の主人なのだから。


「あんな卑怯な人間に渡せない。私に力を貸してください……!」

「うむ、良いぞ。さぁ、皆の者……行くとしよう。クズ退治だ」


 不敵な笑みを浮かべたキウイに、得体の知れない頼もしさが見えた。

 勝算は一気に傾いた。だが自分達にはもう一つ聖剣バルムンクが残っている。


「最後の守護者、ジークに連絡をとって備えるとしよう。アザーク、お前にも期待しているからな?」


 俺に? 何を期待しているというのだろう?


「今回のことで分かった。聖剣は人間が使うことで、未知なる力を発揮するのだ。おそらく人によって解放の領域は異なるかも知れないが、もしかしたらグライムよりも、お前の方が適性があるかもしれないぞ?」

「俺が聖剣で戦うってことか……?」


 だが、もし適正がなかったら? その時にはなす術がなくなるのでは?


「なぁに、守護者が3人も集まるのだぞ? 問題ない。それに、万が一私達が負けてしまっても、ネクロマンサーとして、お前らを蘇らせてやろう」

「冗談になってねぇよ……キウイさん」

「無理してでも笑え、そうでないと……私も腑が煮え繰り返って、正気が保てそうもないんだよ」


 ———全く、素直じゃないな。

 本当は今回のことで一番責任を感じているのは彼女で、そして憤りを隠せないのも彼女に違いない。


 俺も覚悟を決めよう。師匠の尻拭いは、弟子である俺の役割だよな。あの野郎を一発殴るまでは、俺も身が散り散りになっても、燃えカスになろうとも諦めない。


 こうして俺達は、想いを一つにしユグドラシルを出発した。




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