17/骨折り損
「な……っ、プルー? 何処にいるんだ? 返事をしろォー!」
邪竜を召喚し、やっとの思いでユグドラシムに到着したところまでは良かったのだが、既にもぬけの殻だった。
守護者であるプルーも、その従者であるフェン、リルン、そして聖剣レーヴァテインの気配も皆無だった。
ただ、状況を見る限り激しい戦闘が繰り広げられたことだけは確かであった。そしてそこから推測さえる事態も———考えたくはなかったが、グライム達が勝利したのだろう。
「一足遅かったってことか」
「くっ、私達が偽物を掴まされなければ! あのクソ師匠! アザーク、またお主の頭の中を覗かせてくれ!」
「ヤダよ、もう元カノのネトラレなんて見たくねぇし!」
「もうしてないかもしれないぞ? 良いではないか、ここまで見たら2回も3回も変わらないだろう?」
何度でもショックだよ、見たくねぇよ!
嫌がるアザークに襲いかかるキウイ。だがその間に割って入ってきたのは意外にも邪竜だった。
忠誠心の塊である彼女が主人に逆らうなんって、何が起きたんだと目を丸くして驚いた。
「じゃ、邪竜? どうしたんだ?」
「いえ、その……アザークも嫌がっているし、無理に見ることはないかと」
まさか庇ってもらえると思っていなかったので、呆然と口を開けたまま黙り込んでしまった。
いや、アザークよりもキウイの方がショックが大きいみたいで、目には溢れんばかりの涙を張って「ごめんなさーい」と仕切りに謝っていた。
しばらくして落ち着いてきた一行は、プルー達が暮らしていたと思われるユグドラシムの洞穴で各々休んでいた。
久々に姉達に会えると喜んでいた獣狼も落ち込んで元気がないし、邪竜に逆らわれたキウイも相変わらずだし、もう手一杯だった。
「疲れたか、アザーク」
放心状態だったアザークに声をかけてきたのは邪竜だった。彼女は隣に腰を下ろすと、謝罪するように頭を下げてきた。
「な、なんで?」
「キウイ様が失礼なことをして申し訳ない。その、お前の記憶の中の女性は、アザークにとって大切な人、なんだろう?」
大切な人……。
そう確かに数日前までは大事な存在だった。だが今は違う。
「もしかして邪竜は、俺に気を遣ってキウイに逆らってくれたのか?」
元来真面目で忠誠心の強い邪竜は、逆らったというワードに言葉を詰まらせた。
そんなに気にするくらいなら放っておいて良かったのに。
そもそも世界のことを考えると、自分のプライドなんかちっぽけな問題だ。むしろ自ら額を捧げて貢献するべきだったのだろう。
「そんなことない。仲間が傷つくところを見逃すのは、私のポリシーに反するというか」
「邪竜は優しいな……。はぁー、セツナも邪竜のような健気だったから良かったのに」
今思えば、手も繋いだこともない、キスもしていない。友情の延長みたいなママゴトだった。アザーク自身もそれで満足していたし、間違っていなかったと自信を持っている。
「なぁ、アザーク。お前はその、今でもその彼女が好きなのか?」
「はァ、セツナを? いやいや、そんなわけないだろう」
聖職者とはいえ年頃だったセツナ。色恋に興味を持っていたのは仕方ないが、よりによって仲間と浮気をするなんて有り得ない。
「グライム師匠のことが好きなら、ちゃんと言えよって話だよな。そしたら俺だって祝福してやったのに。隠れて付き合っていたっていうのがどうもなぁー」
そんな女、俺から願い下げだ。
今度付き合うなら、素直で優しい一途な女性と付き合いたい。
「俺は邪竜みたいな真面目な人がいいな。綺麗だし、優しいし」
「わ、私? そ、そんな! アザーク、何を言っているんだ!」
「わかってる、わかってる。俺みたいな青二才が相手にされるとは思ってないから。願望、願望。もう陰で浮気をするような女は勘弁だなーって思っただけ」
冗談半分で言ったつもりだったが、予想以上に顔を真っ赤にして、少女のように照れた邪竜にアザークまで恥ずかしくなった。
「い、いや……あの、その、俺は」
「わ、わかってる。例え話だろう? 大体私のようなゴツくて陰気臭い龍を好きになる男なんているわけが」
「それは違う! 俺は本当に!」
確かに龍の姿に戻った邪竜は恐ろしくて身が竦み上がるが、人間の姿の彼女は年頃の少女のように可愛らしい一面を見せてくれた。
だがそれ以上、気の利いた言葉を口にすることができなかった。ただただ少しだけ触れた指先の温もりを、二人は共有して座っていた。
———★
お久しぶりです。やっと再開です。
再開初っ端から「ヒロインこっち⁉︎」と思われた方も多いでしょう……。そう、中村青は捻くれ者なのでヒロイン交代は余裕で実行されます。
とは言いつつも、ちょっと問題発生で……休んでいる間にネタ帳を紛失してしまいました。せっかく書いたプロットが分からなくなりました。
なので少しエンディング行方不明のままで執筆するかもしれません。
あと運命的な恋コンテストも執筆しますので更新スピードが落ちるかもしれませんが、最後までエタらずに執筆しようと思いますので、応援や★などよろしくお願いいたします。
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