15/偽物

「偽物って、どういうことだ⁉︎」

「どういうも何も……これはエクスカリバーではない。よくできた贋作だ」


 盗賊団がすり替えた? いや、流石に怨霊で脅してくる輩に偽物を掴ませるとは思えない。


「アザークは経験したと思うが、私はあらゆるモノの生脈を見ることができる。生き物はもちろん、草木や水、エクスカリバーのような魔力を帯びているものの流れも見ることができる。だがこれは何も見えない。つまり偽物だ」


 キウイは辺りを見渡し、深い溜息を吐いた。


「この砦にはない。こんなことならもっと早く確認をすればよかった」

「……ってことは、どう言うことなんだ?」

「ギルドが本物欲しさに嘘の依頼を出したか、もしくは———最初からすり替えられていたのか」


 ということは、グライムとセツナが偽物を提出して報告したってことか?

 あまりの屑さに反吐が出る。そんな虚偽報告、ギルドに属しているものとして許されることではない。


「アザーク兄貴、マジっすか? 偽物なんですか⁉︎」


 誠に遺憾で不本意だが、そうなる。

 疲労感がどっと押し寄せてきた。笑えない冗談だ。


「この場合、俺達はどうなるんですかねぇ? 偽物を掴まされた俺達も、ある意味被害者ですし」

「あァ? んなわけねぇだろ! お前らが盗まなきゃ、無駄骨折らずに済んだんだぞ? 皆まとめて送還だ!」


 帰りは補装された道なので、然程時間は掛からないだろう。仕方ない、旅を続けているとこんなことも日常茶飯事だ。


「———アザーク。これが日常茶飯事だと……?」


 いつもより何トーンも落ちた声に、身体の芯からゾワゾワと恐怖を覚えた。まるで全身を虫が這うような、気味の悪い感触が襲い掛かる。


「許さんぞ、私の出し抜いたと笑いよって! 絶対に許さん! 邪竜、今すぐ奴のところへ向かうぞ!」


 今すぐ⁉︎


 普段は少しチョロいが頼れるお姉さんタイプの邪竜も、キウイが絡むと単細胞になる。「お待たせしました、キウイ様!」と嬉々爛々ききらんらんと声を弾ませて承諾なんかしちゃってさ。


 流石に止めないと危ねぇだろ!


「待て、邪竜! ここは屋内、するなら広い場所で!」


 ゲートを越えよと鼻先が出た後だった。もう止められない———そう目を閉じた時には、既に砦の崩壊は始まっていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! 逃げろォ!」


 チリチリになりながらも必死に脱出を図る盗賊達。一方、捕獲を優先するか、邪竜に捕まるか迷ったアザークだが、先に背中に跨っていたキウイに手を伸ばされ、反射的に手を取った。


「アザーク、行くぞ! 目指すは世界樹だ!」


 今が陽が沈んだ時間帯で良かった。

 一気に上昇した邪竜の背から見た世界は、眩いばかりに光る満点の星空を翔け飛んだ。下を見れば街の光が小さくなって、玩具を見ているようだ。

 まるで夢のような光景に、何もかもがどうでも良く思えてくる。


「ハハハっ、私を敵に回したことを後悔させてやる! アザーク、お前も思う存分殴ってやるがいい!」


 いつの間にか自分よりも、キウイの方が怒り狂っている。そうか、いよいよご対面となるのか。


 今となっては二人のことなんて、どうでもいいんだけど、やはり会ったら憎くなるのだろうか?


「木っ端微塵に、跡形もなく消し去ってくれるわ!」


 悪役張りにセリフを決める主人に苦笑をこぼしつつ、彼女が代わりに怒ってくれているから冷静でいられるんだと感謝した。


『きっと師匠達のことだから、今も仲良くしてるんだろうな……』


 あの光景はもう見たくはないが、これからの二人の暗示を考えると、少しは同情心も芽生えてくる。




 ———だが、事態はもっと深刻だった。

 キウイ達が予想していたよりも早く世界樹ユグドラシルに到着したグライムとセツナは、聖剣レーヴァテインの守護者プルーと一戦を交えていた。

 正確にはプルーの従者である二人の獣人、フェンとリルンが決死の攻防を繰り広げていた。


「人間め! 事情も知らずに己の欲だけのために剣を欲しよって!」

「ボク達絶対、負けないんだから!」


 セツナの援護を貰いつつ一人で奮闘するグライムに対し、フェンとリルンは姉妹ならではの連携をとって優位に戦いを進めていた。


 鋭い爪と牙を駆使して追い詰めていく。流れる鮮血、削がれる体力。影から見守っていたプルーも、ヒヤヒヤしながら見ていた。


「———っ、ど、どうしよう……っ、キウイとジークに報告した方がいいのかな?」


 きっといつものように二人が撃退してくれる、そう信じつつも不安が拭い切れないプルーは始終怯えて震えていた。


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