12/いざ、サンドルーム山脈へ

 そして目を覚ますと……あんなに荒れ果てていた部屋が、見事に清掃されていた。宿の人が入ったのかと思ったが、どうやら邪竜と骸骨スケルトンが片付けてくれたらしい。


「一番下っ端であるアザークが寝坊なんて、舎弟の風上にも置いておけない奴でありますだ!」


 朝からハイテンションで威張り散らしたのは獣狼だった。頼むから、叱咤するなら正しい言葉を使ってくれ。


「だってアザークは後輩だけど、年上だし……どうしたらいいのか分からないんだもんです」


 足りない頭で必死に考えたのだろう。考えすぎて余計におかしくなっているが。


「俺も獣狼にタメ語を使うから、お互いタメ語にしないか? それなら問題ないだろう?」

「うーん……、うん! 分かった!」


 ピョンピョン飛び跳ねる獣狼を見ていると、本当に年頃の女の子なんだと思わされる。そういや彼女達は、どういう経緯で従者ゾンビになったのだろう。今度、機会がある時にでも聞いてみよう。


「それじゃ、私は異空間にいるから、また呼んでね! もう死ぬことはないと思うけど、壊れすぎないように気をつけてね!」


 どういう声援だ、そりゃ……。

 支度を終えて扉を開けると、フードを深く被ったキウイが窓辺で外を眺めていた。あの方向はサンドルーム山脈か。


「遅かったな。それじゃ向かうとしよう」


 こうしてアザーク達はサンドルームへと旅立った。


 ▲ ▽ ▲ ▽


 正直、大丈夫だと言われても、心配性は生まれつきの性分だった。

 宿屋の入り口で、いつまでも一歩が踏み出せなかったアザークに、キウイも不機嫌になり出した。


「アザーク、お前はいつまでウジウジしてるつもりだ! 大丈夫だと言っただろう? 私のことを信じて、さっさと出ないか!」

「いや、そんな言われたって! 肌が焼ける感触、意外と痛いんだって!」

「仮に駄作だとしても火傷する程度だろう? 死なないから出てこい!」


 無茶ばかり言うな、コイツ! そうは言っても怖いものは怖い。そう立往生していると、背後からドンっと背中を叩く不届者がいた。


「おはよう、アザーク! 今からミッションか?」


 サムサ! お前か———ッ‼︎

 焼けてしまうと覚悟をしたが、予想を裏切り何も起きなかった。燦々さんさんと降り注ぐ太陽の下に出ても、何ともない!


「ほら見たことか! この臆病者チキンハート! 主人のことを信じないで、下僕の風上にも立てぬ奴だ」

「仕方ないだろ? 昨日の昨日なんだ! 少しは俺の心境も察して欲しいよ!」


 いや、それよりもサムサだ。アザークは口論をやめて幼馴染のところへと向かった。


「行くんだな、サンドルームへ」

「あぁ、これから俺の仲間は彼女達になるからな」


 その言葉にサムサは寂しそうな顔をした。彼の背後を見ると、冒険に出る準備がされていた。もしかしたら再びアザークとパーティを組む為に用意をしたのかと考えたら、胸が苦しくなった。


「いや、アザークのことを置いて行った俺に資格はないよ。でも約束だけ。俺は世界一の格闘家になるから、世界一の戦士を目指して、お互い頑張ろうな!」

「あぁ、頑張ろうぜ!」


 それぞれの夢を励まし合い、二人は固い握手を交わし合った。


「そういえば……アザークがいなくなってから少しの間、グライム師匠の荷物持ちをさせられていたんだけどさ。その時に気になるものを見つけたんだ」


 そう言ってサムサが取り出したのは、呪術が施された首輪だった。あまりの邪気に、キウイも顔を顰めるほどだった。


「それは……強制的に従者にする禁忌の首輪。おい、お前。これをグライムが持っていたのか?」

「え、あ、その……は、はい! そうです!」


 アザーク同様、女性に不慣れのサムサは、キウイの色気に当てられて、極度に舞い上がっていた。気持ちは分かるが情けないぞ、サムサ。


「これは本来、人間の手には余るものだ。私が持っていても良いか?」

「は、は、はい! 女王様なら相応しいかと!」


 いやいや、やっぱ勘違い継続中か? 呆れた視線で見ていたが、キウイの表情を見ていると只事ではないのが分かった。


「———アザーク。さっさとエクスカリバーを回収して、次の目的地へと急ぐとしよう。もし奴が他にも持っているとしたら、厄介なことが起きるかもしれない」


 珍しくシリアスな雰囲気に飲まれたアザークは、彼女を追いかけるように旅立った。



 ———……★

 皆様、お読み頂きありがとうございます。

 いよいよ次はミッションに臨みます。旅立ちまで時間が掛かる……。アクションシーンは苦手ですが頑張りますので、よろしければ応援や★、レビューなどをよろしくお願い致します!

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