10/相部屋……?
こうして、かつての仲間と再会を果たしたアザークだったが、流石にゾンビとして生き返った旨は打ち明けられず、その日はそのまま別れることにした。
「あのマッチョは悪い奴じゃなさそうだったな」
「あぁ、サムサは良くも悪くも鈍感な奴だからな。きっとグライム師匠とセツナのことも気付いていないと思う。」
「むしろあんなにバコバコしておいて、気付かぬの問題だがな?」
バコバコ言うな! 容赦なくトラウマを抉る悪魔め。
アザーク達は予約した部屋に入って、
———じゃない。俺、ナチュラルに部屋に入ったけど、キウイと同室で寝るの?
意識し出した途端、目の前の毒舌悪魔が急に可憐な美女に見えてきた。ベッドは二つだが、同じ部屋。
「どうした、アザーク。とりあえず私は風呂に入るが、お前はどうするんだ?」
「ふふふ、風呂⁉︎」
「当たり前だ。私はお前達と違って、ずーっと、ずっとずっと歩いてきたんだからな。足が棒のようだ。あ……そうだ、アザーク。お前はマッサージは得意か?」
マッサージだと⁉︎
そりゃ、長年師匠の下で世話をしていた甲斐があり、マッサージを初めに旅の支度や装備の手入れ、宿の手配など、雑用はお手のものだ。
そして今後の主人は、キウイに変わった。
「嘘だ嘘だ。そんな強張った顔をしなくても、嫌なことはさせないから安心しろ。それよりも早く風呂に入って、ケーキパーティをするぞ?」
ニヤッと笑って立ち去るキウイを見て、アザークは動揺を隠せなかった。
冗談だと……? とてもそうは見えなかったが?
それよりも風呂って、大浴場に行ったのか? ダークエルフってことがバレたら面倒なことになるんじゃなかったのか?
すると浴室からヒョイっと顔を出したキウイが、恥ずかしそうに睨みつけてきた。
「あー……、私達は部屋で入るから、アザークはさっさと浴場に行け。それとも私達の裸体を見たいのか? 一緒に入りたいのか?」
ニヤリと笑う彼女を見て、今度はアザークが顔を赤らめた。
クソ、俺が小心者で出来ないことを知って、挑発してきたな! だがその通り、アザークにそんな度胸は微塵もなかった。
「最悪だ。これから先、ずっとこんな調子が続くのか?」
急に異性として意識してしまい、調子が狂っていた。
だが不幸中の幸いか、部屋に戻ると人型の邪竜や獣狼達が異次元空間から出ていたので、妙な意識をせずに済んだ。いや、これはこれで別な意識をしてしまうんだが……。
「お、やっと帰ってきたな! アザーク、今日はお前の歓迎会だ。思う存分食すがいい!」
テーブルいっぱいに広げられたご馳走を勧められ驚いた。まさか自分の為だったなんて思ってもいなかった。
「ニィニ、ポヨポヨ♪」
「いらっしゃい、アザークくん。ふぁー……キウイ様、アタイはもう、ベッドに寝てますねェ」
マイペースな先輩も何人かいたけど、嬉しいが勝った。ヤバい、荒んでいた心が癒やされていく。
「アザーク、ツラかったかもしれないが、これからは安心するがいい。私はお前を絶対に見捨てたりはしない。それが私なりの従属の誓いだ。だからお前も私に忠誠を誓え。ほら……、食え」
そう言ってフォークですくったクリームを差し出して、アザークの口に入れ込んだ。口内に広がる甘酸っぱい味。胸が締め付けられる……美味い。
「ついでに私の舎弟にもなるですよ! ほらほら、ケーキをドーン!」
せっかく買ったホールケーキを顔面からぶつけられ、台無しにしてしまった。その行為には流石のキウイも邪竜もブチ切れた。
「獣狼、お前って奴は! 少しは学習しろ!」
「せっかくのキウイ様のケーキを! その代償はお前のクビで償え!」
「ヤダヤダ! キウイ様、助けて下さい!」
この狭い部屋で必死に追いかけっこをしている二人を見て、微笑ましく思った。最初は勝手に甦えさせられて不満ばかりだったが、今は素直に楽しい。
「こんなふうに落ち着きのない仲間達だが、よろしく頼むぞ?」
隣に座ってきたキウイは、アザークの顔についたクリームを指でとると、そのまま舐めた。触れた指が熱を帯びていたのは、きっと勘違いだろうと思い込むことにした。
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