「グラム街」
08/到着、グラム街
あれから数時間歩いて、ようやくグラム街に到着した。異空間から出してもらった時には既に太陽も沈みきっており、ランプの光が街を彩り輝いていた。
「アザーク、出ろ。これからお前に行動してもらう」
「俺に?」
一目のつかない岩陰に隠れたかと思ったら、キウイは周りを窺うように、そして身を隠すように深々とローブを被り隠した。
「私はダークエルフ。あまり歓迎されないのからな。邪竜や獣狼も同じく、人間の世界に馴染みがないので不向きなんだ」
キウイの言葉に生唾を飲んだ。彼女にとってエリア外に出るということはリスクを背負うことだったのだ。この道中、無事に辿り着いたことに感謝しなければならない。
「分かった。それじゃ、エクスカリバーの依頼状況を確認しに」
「何を言ってる! まずは『でざーとけーき・ぱふぇ』だ! 何のために頑張ったと思っているんだ!」
えぇぇぇぇぇー……⁉︎
世界の平和、魔王の復活阻止。それよりも大事なモノがあるというのか⁉︎
「キウイ様、ここまアザークのいう通り……まずはエクスカリバーの所在を確認するのが一番かと」
「くっ、そうだな……だが! ギルドに向かう途中で買ってくれ! 私達は先にパーティーをしておくから!」
どれだけ楽しみにしてたんだ!
だが、容易に街を歩けないことを考えると、やっと食べられるチャンスだったと考えるべきか……。
「分かりました。買っていきますので、先にパーティーをしてて下さい」
「アザーク……っ! お前って奴は! いい子だ!」
購入するくらいの時間はあるだろう。
アザークは洋菓子店に入って、ホールケーキにタルトケーキ、焼き菓子、マフィン……ありとあらゆる菓子を片っ端から購入して、異空間のキウイに渡した。
「おおぉぉぉぉー……! これが『でざーとけーき・ぱふぇ』か。素晴らしい、甘くてとろける匂いがするぞ!」
「正しくはケーキだけど……。それじゃ、俺はギルドに向かうんで」
「ありがとう、アザーク! お前にも少し残してやるからな? この丸いのとか!」
あれだけ買ってクッキー1枚かよ。どれだけ食う気なんだ、彼女達は。
嬉しそうな声が直接脳に届く。こうして見ているとゾンビやモンスターということを忘れてしまうほど、皆、女の子だった。
さっさと終わらせて、安心させてやりたいな。
正直、どうやって奪還するのか何も考えていなかった。
強引に奪い取る? それとも説明して譲渡してもらう? 魔王の復活がかかっているなら分かってもらえる気がするが———事実と人間達の解釈が違い過ぎて、正直自信がない。
考えがまとまる前に着いてしまった。とりあえずは所在の確認が先だよな。
アザークが扉を開けて中に入りと、何やら騒がしかった。
大勢の職員と自衛警備隊が忙しく調査しているようだ。
何だ? 何が起きた? アザークは状況を伺おうと受付嬢に声をかけた。
「あれ、アナタはたしかグライムさんのところの———、無事だったんですか?」
「お久しぶりです。何とか逃げ延びることができたんですが、それよりも何が起きたんですか?」
エクスカリバーが関係してるのだろうか?
長年未達成だった
「実は、サンドルーム山脈を砦にしている盗賊団を知ってますか?」
「噂だけなら……それがどうした?」
「その盗賊団に盗まれたんです」
盗まれた……? 嫌な予感がするが、とりあえず聞こう。何を盗まれたのかを。
「エクスカリバーです……」
だよね! そうだと思った! 一筋縄に行かないと思っていたけど、こんな面倒なことになるとは思っていなかった。
「今、色んな人に依頼を出しているところでした! アザークさんも請けてもらえませんか?」
脳内に「当たり前だ! 私の剣を盗むとはいい度胸だ。木っ端微塵にしてやるぞ!」と意気込む声が騒がしかった。
元々俺には選択の余地なんてない。
「請けさせてもらいます……よろしくお願いします」
こうして俺は、ゾンビになって初の依頼を請けることになった。
『 Mission
ギルド依頼【B】盗賊団に盗まれたエクスカリバーを奪還せよ
エリア……サンドルーム山脈 』
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