06/そのカワイ子ちゃんの名前は邪竜

 久々に外の世界に出たアザークは、グッと背伸びをした。太陽の光が懐かしい———気持ちが………


「ダメだ、アザーク! 陽の光を浴びたら焼けるぞ!」

「なっ、焼ける?」


 影から一歩出た瞬間、陽を浴びた腕からジュぅぅぅー……と焦げる音がした。うわっ、これってまさかゾンビになったからか⁉︎


「申し訳ない、説明不足だった。お前は今、生きる屍体なんだ。所謂いわゆる禁忌の魔法を施されているので、まともに太陽の下を歩くことができないのだ」


 言うのが遅ェよ! 生き返られたわりには、制限が多くて困るな……。


「守ることは二つ、私から半径5キロ以内にいること。そして陽の光を浴びないことだ。後者は火傷程度で済むが、前者は朽ち果てるぞ?」

「………流石に他には、もうないよな?」

「多分な? いやー、流石に人間の黄泉がえりは初めてだから、分からないことばかりなんだ」


 アハハハと大声で笑っているけど、不安しかない。

 しかし太陽の光がダメなら、どうやって移動すればいいんだ?


「お前を異空間に入れる。そうすれば問題ないぞ?」

「い、異空間?」

「さっき邪竜が出入りしていた、アソコだ。ほら、今開けてやるかさっさと入れ。早くしないとエクスカリバーが逃げるだろ?」


 い、いや、だって邪竜って、あの邪竜だろ? そんなのと同じ空間だなんて嫌だ! 仮にも俺は、奴に無惨に殺されたというのに!


「男なら黙って受け入れろ。ホラホラホラー」


 そうしてアザークは開かれた異空間ゲートに突き落とされた。

 そこに広がっていたのは、真っ白な世界に数人の人間が座っていただけだった。


「あ、あれ?」


 てっきり邪竜や同等レベルのモンスターがウジャウジャしてると思っていたのに、予想外だ。

 一人は赤い髪の大人しい美女。もう一人は獣耳の活発そうな美少女。そしてもう一人は際どいところを包帯や絆創膏で隠した痴女の美女。あとは小さい同じような顔の幼女が7人。


 もしかして彼女達が、俺以外のゾンビか?

 赤い髪の美女が近付いて、握手を求めてきた。キウイも美人だったが、この人も負けじ劣らないほど美しかった。


「アザークと言ったか? 私は邪竜……先ほどは見苦しいところを見せて申し訳なかった」

「邪竜だと! 嘘、あんな恐ろしい龍が、こんな美女だったなんて!」

「美女だなんて、そんな……キウイ様に比べれば、私なんて足元にも及ばない……」

「いやいや、あなたも中々の美人だし! 綺麗すぎてびっくりしたよ!」


 こんな美人に食われたり、(残酷にだが)弄ばれていたのかと思うと、少し興奮してきた。恐怖でしかなかった過去が、一気に特別なもののように思えたから不思議である。


「そんなお世辞を言われても、私には何も出来ないぞ? これ以上、私をからかうのはヤメてくれ!」


 顔を両手で隠して、可愛い! 一見クールそうなのにチョロいのが堪らない! 邪竜……仲良くなりたい。


「へぇ、アンタが新入りなの? 私は獣狼よ。アンタは私の後輩なんだから、何でも言うことを聞くのよ? 分かった? 分かったなら3回まわってワンって鳴きなさい!」


 これまた癖が強いのが……呆れて見ていると「んん?」と焦り出した。


「新入り、まさかやり方が分からないの? こうだよ、こう! 3回まわってー……ワン!」


 先輩、アンタがしたら威厳なくなるじゃん! バカな子なのか、この子は! ちょっとおバカな子なんだろうね。可哀想に……。


 そして次が包帯を巻いた痴女。


「はぁーい、アタイは骸骨スケルトン。動くのが面倒だから、あまり声掛けないでね?」


 ちょっと動いただけで、大事な部分が見えそうだ。刺激の強い絵面に動悸が激しくてなって、頭がクラクラする。


 そして残りが7人の幼女。ぷにぷにしたホッペが可愛らしい。


「彼女達はスライムだ。簡単な言葉しか話せないが、悪い子ではないのでよろしく頼む」

「スラー♪」

「スラスラー♪」


 うん、可愛いは正義! それ以上の語彙力は必要ない!


 今まで関わりのあった女性はセツナやギルドの受付嬢くらいだったので、突然の美女ハーレムに動揺が隠せなかった。案外、ゾンビ生活も悪いことばかりではなさそうだ。


「基本的にはここでまったり待機だが、なんせ主人がキウイ様。いつこき使———呼び出されるか分からないのが玉に瑕だ」


 今、こき使われるって言ったよな? 確かに言ったよな?


「とはいえ、同じ主人に仕えるもの同士、仲良くしようじゃないか」


 こうしてアザークは、師匠達に見放されて地獄を見た後、天国のようなハーレムパーティに歓迎されたのであった。

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