05/魔剣の存在理由

 こうしてアザーク達は聖剣エクスカリバーを取り戻しに旅に出たのだが、まだまだ疑問は残るばかり。しかし、尋ねる相手がまともでない人物キウイなので、どうしたもんかと途方に暮れていた。


「何だ、まだ聞きたいことがあるのか? 不満が顔に出ているぞ?」


 ニヤッと見透かされ、アザークは一瞬身体を強張らせた。鋭いんだよな、この人は……一見、ボンクラなのに油断ができないというか、隙を見せたら狩られそうな不穏が付き纏う。


「いや、そもそも何で、キウイさんがこのダンジョンを守ってたのかなと思って……」

「ダンジョンというよりも、エクスカリバーをだな。なぁ、アザーク。エクスカリバーのは知ってるか?」


 存在意味? それは昔、勇者と呼ばれた英雄が、魔王を倒すために作られた剣だと聞いたが?


「歴史ではそう記されているな。半分は正解だ。だが、倒すために作られたんじゃない。存在していたんだ」

「封印するために存在……?」


 何が違うんだ? 同じじゃないのか?


「だから、前と後じゃ全然意味が違うんだ! もう、これだから平和ボケした人間は困るなァ」

「うっ、悪かったな。けど魔王を倒す為に使うんだから一緒だろ?」


 だから冒険者は、こぞって名剣を求めているんだ。世界最強の剣士になりたいと、大勢の人間がダンジョンに臨み、そして散っていったのをアザークは見てきた。


「だから人間は浅はかだと言っているんだ。言っただろう? 名剣は魔王を封印するために存在していると。その封印が解ければ、再び魔王が復活するんだぞ?」


 え———? 魔王が、復活する?


 ここ数千年、魔王は姿を現していなく、所謂いわゆるお伽話の中の存在だった。よく遅くまで起きて寝ない子に「悪い子には魔王が来るわよ」と脅し文句に使われていたものだ。


「魔王は存在する。今までは私達、守護者が守っておったから封印は解かれなかったが、エクスカリバーが盗まれた今、世界は危機に脅かされ始めたのだ」


 う、嘘だろ? それが事実だとしたら、俺達冒険者がしていたことって……自分達の首を絞めていただけじゃないか!


「この世界にはエクスカリバー・レーヴァテイン・バルムンクの三剣で封印されている。あと2本の封印が解けた時、この世に再び暗黒時代が到来するだろう」


 くくくっと、他人事のように笑うキウイを見て、ゾッとした。

 他の剣も、ギルドで特殊依頼が発令されているものだ。きっと今も大勢の冒険者が、我先にと競い合っているに違いない。


「まぁ、他の剣にも私のように守護者がいるから、大丈夫だと思うんだけどな?」

「いやいや、アンタいなかったじゃないか。俺達が戦闘アタックしてる時」

「邪竜がいれば大丈夫だと思っていたんだ。この千年、盗むような輩はおらんかったからな」


 誤算だったと嘆いていたが、さほどショックは受けてないように見えた。世界の危機だというのに、何だこの緊張感のなさは……!


「まぁ、一度や二度じゃなかったからな。こんな事態も。取り返せば良いだけだ。その為に盗人のことをよく知るお前を甦らせたのだからな」


 そういう事か、自分が蘇った理由は。アザークはやっと腑に落ちたと納得した。


「さぁ、行くぞ。お前の仲間の居場所、心当たりはあるか?」

「とりあえずは依頼を受けた街、グラム街だと思う。今回の依頼で相当ダメージを受けたから、まずは鋭気を養っているはずだ」

「鋭気をねぇ。ついでに下半身の鋭気も養ったってわけだな?」


 グサっと、心のHPが大きく抉り取られた。あのネトラレ映像は堪えた。思い出した今も泣き出しそうだ。


「あのグライムという男、中々の名剣の持ち主だったなー。私も久々に見たぞ、あのレベルは」

「クソエルフ……! 見た目は可愛いのに中身はオッサンかよ!」

「なんだ、ヤキモチか? しかしアザーク、お前の宝刀も中々だったぞ? まだ未使用なら私で試してもいいんだぞ?」


 ひっ、コイツ……! いつの間に見たんだ?


「黄泉がえりの時にな。ふふふっ、鍛えれば師匠を超える日も遠くないと思うぞ?」


 下世話な笑みを浮かべるな、気持ち悪い。

 こんな下ネタばかり言うロリババァなんて、興味がないんだ。俺はセツナのような、清楚で可憐な子が———好きだった……。


 だが、好きだったあの子はもういない。いるのは淫乱エロ女だけだ。


「……まぁ、よい。とりあえず確認の為に、もう一度千里眼を使うか。アザーク、額を借りるぞ?」


 キウイが前髪を掻き上げ、そっと手のひらを当ててきた。ヒンヤリと冷たい感触が気持ち良かった。


 ………実際、地獄のような現状だけど、キウイの楽観的な性格に救われているところも事実だ。彼女には感謝しなければならないかもな。


 そう思っていた矢先、またしても丸い指の輪から見えた光景は、グライムとセツナのベッドシーンだった。


『アァー……っ、グライム、イくっ、イくぅー!』

『セツナ、俺も……っ!』


 くそー、コイツら、何度交尾すれば気が済むんだ! 


「コイツら、まだ街から離れていないな。せっかくなら私達が行くまで、突つき合っていて欲しいもんだ」


 どっちにしても最悪だ! アザークはやり場のない怒りをぶつけられずにすこぶる荒ぶった。


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