02/ネクロマンサー、キウイ

 恐らくこの世で最も地獄に近いダンジョンの最下層で、ノリノリなステージダンサー並みにポーズをダークエルフのキウイは決めていた。


 いや、それよりも復活って?

 俺、確かに死んだはず———? だって絶命した瞬間の、邪竜に砕かれた骨の感触とか、鮮明に……



「うわぁぁぁぁー! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!」

「むっ、まだ記憶が混合してるのか? 早く目を覚ませ!」


 持っていた木製の杖で頭をガンガン殴られた。脳に直接響く、これはこれで痛い! それでも容赦なく殴打してくるから、もうわけが分からなくなる。ちょっ、少しは遠慮を……ッ!


「ふぅ、少しは落ち着いたか? まぁ、無理もない。さっきまで死んでいたのだからな。私に感謝して、全身全霊でひれ伏せればいい」


 ニシッと白い歯を見せて笑う仕草は、愛嬌があって可愛い。

 もしこれが地獄なら少しは救われる。どうせならこのオッパイも揉みほぐしたい。生きていた時は揉めなかったセツナのオッパイ……。いや、チイパイ? けどこれは大きい———……。


 ムニュっと、手のひらいっぱいに伝わる柔らかな感触。大きなマシュマロのような、極上の柔らかさと温もりが、疲労困憊した身体を癒し巡った。


「っ、この———っ! 歯を食いしばれ‼︎」


 またしても振り上げられた木製の杖凶器に、アザークは硬く目を瞑った。そういや痛い、死んだのに痛い———?


 いや、俺、死んでないのか?

 俺は、生きてる?


「俺、生きてるのか…?」

「だからさっきから言ってるだろう? 私が生き返らせたのだと。聞いて驚くな、私の肩書きジョブは世界でも数人しか居らぬ、ネクロマンサーだ」


 ネクロマンサー……だと?

 確かに希少価値の高い職種だが、それは呪われた種族ダークエルフの中でも、さらに業の深い者しかなれないからで、決して胸を張って威張れる肩書きジョブではない。


 そしてネクロマンサーによって蘇った魂もまた、呪われて地獄に落とされると———……!


「俺、ネクロマンサーに復活させられたの?」

「そうだそうだ、嬉しいだろ? 私でないと叶えられなかった悲願だぞ?」


「呪われた………呪われたじゃねーか! アンタ、何てことをしてくれたんだよ! 俺の彼女は、清く正しく生きてきた僧侶なんだ! きっと間違いなく天国に行く。そして俺も曲がりながらも真面目に生きてきて、間違いが起きなければ真っ当に天国に行く人間だったんだ! それなのにアンタのせいでッ!」


「アハハハハっ、何だお前! 天国があると信じてるのか? めでたい奴だな。あるわけないだろう? そんなシステムがあれば、人間なんてほぼほぼ地獄行きだ。天国にいけると思い込んでる偽善者め、己の業をとくと思い知ればいい……ッ!」


 くっ、それをお前が言うか……? 呪われた種族ダークエルフめ!

 お前らの先祖が多くの人間を殺戮した結果、こうして呪われたんじゃないか。己の業を思い知るのはお前だ!


「それは私には関係ない。先祖は先祖、私は私だ。まぁ、この力は便利だから有り難く使わせてもらうが、だからと言って私を蔑むのはお門違いだ。大体私が清く正しかったからこそ、お前は復活できたんだぞ? 礼は言われこそ逆恨みされるのはなァー?」


 こ、こいつ……っ!

 それが有難迷惑って言うんだ‼︎

 蘇らせてくれって誰が頼んだ? 勝手にしといて、何だコイツ!


 アザークは身体を起こし、ダンジョンを出ようと歩き出した。身体が重い……っ、これが黄泉がえりの代償か?


「おい、待て。勝手にどこへ行く?」

「どこって、仲間のところへ帰るんだよ」

「仲間? なんだ、お前の仲間は私だろう? 勝手な行動は慎んでもらおう」

「勝手なのはお前だろ? 俺は呪われてまで生き返りたくなかったっつーの。けどせっかく生き返ったなら、師匠達の所へ帰りたい」


 体よく使われた———とも捉えられがちだが、結果的にはアザークが救ったとも言える命。きっと三人とも後悔と感謝の気持ちで一杯に違いない。


「むっ、師匠達だと? ………それなら特別に見せてやろうか?」

「は? 何を言ってるんだ? 見せるって何を」


 キウイはアザークの額に手を当てると、もう片方の手で丸を描いて見せてきた。


「これがお前が一番望む者の姿だ。見えるか?」


 言われて覗き込むと、その先にあったのは最愛の彼女、セツナの姿。彼女は泣きながら大きく叫んでいた。


「セツナ……っ!」


 俺の死を嘆いて……! こんなに泣いてくれていたのか‼︎

 それだけでも囮になった甲斐があった……そう胸を撫で下ろしたその時だった。セツナの背後に師匠グライムの姿が映り込んだ。


『あァン……っ、グライム、激し……ッ! ダメ、ダメ———っ!』

『ダメじゃないだろ? いつもより淫らなくせに! 彼氏のアザークがいなくなったからって、乱れ過ぎだぞ……?』

『アン、アァ……ンっ、それは、言わないで……っ、やっとコソコソしないでエッチが出来るようになったのに……クゥ……ッ、んン!』


 んんん???


 あまりにも想定外な展開に、アザークもキウイもクエスチョンマークしか浮かばなかった。


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