貞操観念逆転編:主人公の行方

団長はグラスに入った酒を飲み干し語り始めた。

「その前に一つ確認なんだが…君は…転生者というやつであってるかな?」

「そうだけど…転生者を知ってるんだ?」

「ああ、アイツもお前と同じ転生者だったから。」

なるほど、この世界では異世界転生は周知されているのか。

そして俺の服装とかから転生者だと分かったんだな。

街を歩いてて妙に視線が集まったのもそれが原因だったりするのかも?

「この街を見ていて気付いたかもしれないが…男がほとんどいないんだ。大体の男は国に引き取られて過ごすこととなり、国に申請し見合いをすることで結婚ができるようになっているんだ。」

確かに…夜だから危ない的な理由かと思ったがそれだけではなかったのか。

「そんな面倒なシステムなのは…男を管理するため?」

「そうだな…あくまでも名目上は保護の駄目だが。この世界ではほとんどの女が男を狙っている。だから不用意に外に出すと襲われてしまうため可能な限り家に籠らせる。」

生まれてすぐに国に守られ、結婚して王族から離れても家からあまり出れない。

男も閉鎖的な空間でしか過ごせないんだな。

「私たちだって人間だ。生きている限り…その…色々と溜まっていくんだ。」

ああ、性欲ですね。

「ただ男と出会うには見合いをして結婚するしかない。しかしそのために結婚するというのはどうしてもハードルが高い。結婚するとなった場合国に金を払う必要もあるんだ。」

おいおい、国さん思いっきり私腹を肥してるじゃん。

それとも変な奴と男を気軽に結婚させないためか?

あえて結婚のハードルを上げているって感じがする。

「他に私たちがそれらの行為をするとしたら…国の保護から外れた既婚者の男を狙うか…国管理の保護施設で働けばできると噂もある。なんでも男たちも多少はそれらの行為を望む意思があり、男に望まれた場合のみ可能…といった話を聞いたことがある。」

そりゃ男だって生き物である以上そういう欲求はあるよな。

「既婚者に手を出すのは勿論ご法度、保護施設にはそう簡単には入れないし働ける者も選ばれたもののみ。そんな私たちの前にアイツは現れたんだ。アイツは自身を"ヤマダ"と名乗り、私たちを受け止めてくれたんだ。」

「…受け止めたってのはつまり…。」

「ああ、想像する通りだ。」

「…この街の独身の奴等全員?」

「…もしかしたら既婚者もいたかもな。」

つまりこの街の女はほとんど竿姉妹ってことか…。

というかヤマダくんも元気いっぱいだこと。

まぁヤマダくんもいきなり異世界転生して、強い女だらけの世界に舞い降りてるわけだから苦労はしただろうけど。

「私たちはアイツのおかげで毎日幸せだった。それなのに…アイツは急に姿を消したんだ。」

「…理由とかは不明なわけ?」

「ああ、ある日忽然と街から消えた。生きているのか死んでいるのかもわからない。我々も可能な限り探したが…最終的には国から止められてしまつた。」

「うわ、国が止めたの?それ明らかに国がなんかした奴じゃん。」

「正直私もそう思うが…証拠が何も無いからな。それに国に逆らうのは…。」

そうだよなぁ…簡単には逆らえねぇよ。

「そんなところにお前が来たんだ。アイツと同じ転生者のお前がな。期待しない方がおかしいだろう。」

なるほど…。




「で、この後も少し話しながら飲んでお持ち帰りされそうになったってわけ。」

「がっつり『期待してる』って言われてるじゃ無いですか…。すぐに逃げなきゃ駄目でしょ!」

「いやせっかく有益な情報を話してくれたわけだし…話だけ聞いて後はポイは流石に酷くないかなと。」

「でも結局最後は私たちに助けられたので結果的にポイしたようなものじゃ無いですか?」

「う、うまく説得するつもりだったのに急にめっちゃ酔うんだもん…。」

「まずはご自身の身の安全を優先してください。」

それはそうである。

「とりあえず主人公は異世界転生者で恐らく誘拐されている、それに国が関わっているってことでいいですかね?」

「そうですね!」

「というか国のシステム的にその保護施設に入れられている可能性が高いのでは?」

「…それだけならいいけどね。」

「え?」

「…あくまで可能性だが…そもそもこの世にいないというのも考えられるんだ。」




「…理由を伺っても?」

「そもそもヤマダくんは国にとって都合が悪い存在だ。男を管理し性交渉を難易度が高いものとし、なおかつ女性の結婚を有料なものにすることで金も入る。そのシステムを破綻させる存在なんだよ。そんな邪魔な存在をわざわざ大切に保護しておくか?」

「確かに…むしろ邪魔なのでさっさといなくなってもらう方が助かるかも?」

「あの…もしも主人公さんが既にやられてしまっている場合は…私たちはどうなるんですかね?」

「うーん、主人公の死が確定した場合、救う対象がいないから上に報告して返してもらうことになるね。」

「私たちが呼ばれた時点では少なくとも生きているはずです。ただ…私たちがついてからすぐに殺されている可能性も捨てきれませんね。」

「…とりあえず探してみる以外選択肢はない。俺は動けないからみんなに任せるしかないけれど…頼んでいいかな?」

「任せてください!」

「むしろ絶対外に出ないでください。」

「もう何もしないでください。」

「俺のことを思っての発言だと思うけど、それ結構傷付くよ?」




「とりあえず主人公のヤマダさん?の安否を迅速に確認する必要がありますね。まだ夜も明けていませんが早速動き出しましょう。」

「ルシルさんに街の中を探してもらおうか。2人は兵団の団長に顔を覚えられてそうだし。転生してきてるってバレたら俺の所在を確かめるため何かされるかもしれないから変装してね。」

「了解です。」

「早瀬さんは保護施設に侵入してヤマダさんがいないから確認。」

「了解です!」

「上原さんは他の街とか探してみる?」

「それもありますが、個人的に野盗が気になりますね。もしかしたら誘拐について知っている可能性があるかもしれません。」

「それじゃあ上原さんはそんな感じで。今回俺は何もできないのが非常に心苦しいがよろしく頼んだ!」

ルシルさんがコソコソと近づいてくる。

「佐久間さん、上原さんが野盗のところに行くって大丈夫なんですか?」

「え?」

「正直そこまで強いイメージがなくて…少し心配というか。」

「…なんで彼女が基本事務所で留守番していると思う?」

「理由があったんですか?」

「この事務所は言うなれば俺たちの城だ。ここが落とされたら俺らは終わり。だから上には、可能な限り事務所に最強戦力を置いておくよう支持してるんだよ。」

「…つまり。」

「そう、上原さんは俺たちの中で一番強いんだ。格闘とかそういうのでは俺や早瀬さんに劣るだろうけど、それ以外で上原さんは俺らより圧倒的な強さがある。」

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