魔王引退編:vsファフニール
「お二人とも急いでください!今2人は島の反対側で戦っています!」
私はエルヴィアさんと早瀬さんが島に戻ってきた際に居場所を伝えるためにマオウの城建設現場に残っていた。
「遅れてすみません!この島について調べるのに時間が掛かって!」
「…この気配、いつだか魔王城に攻め込んできたファフニールのものですね。マオウ様にやられてから行方を眩ましていましたが、まさかこんなところにいるとは。」
「…そのファフニールっていうのは強いんですか?」
「当時のマオウ様は問題なく対処していましたが…この気配から明らかに強くなっていますね。」
「そうなんです!この島について調べたら変な話話聞きまして!」
何でも早瀬さん曰く、遥か昔のこの島には元々人や魔物が普通に存在していたらしい。
しかし、ある時島に襲来した何かによって生き物はほぼ絶滅。
唯一生き残った者もすぐさま島を逃げ出すこととなった。
「その何かがエルヴィアさんの言っていたファフニールということですか…。」
「しかもなんだかきな臭い話もありまして…先程の話に出てきた唯一生き残った者!その者がそのドラゴンと何かしらの契約をしたと言う噂がありました!」
島の生命のほとんどを取り込んだものの、ファフニールの傷は癒やされなかった。
その為人類を1人生き残らせ、この島は人が移住出来ると言う話をさせて、移住者を生贄として寄越すよう命じた。
「実際さっきのファフニールが来たと言う話も逸話としてあるくらいで、信じている人はほとんどいないみたいです!遠い島でもあるので現在島がどのようになっているのか確認もされていないようでした!」
つまりその生き残りが自分の身を守る為に真実を伏せていたってことか。
「マオウ様にやられてすぐ来ていたのであればかなりの年月が経っています。その契約が続いているのならばかなりの数の人間が生贄として送られていそうですね。」
…人間の寿命から考えてその生き残りはとっくに亡くなっている。
だが別の人間に託して続いている可能性は捨てきれない。
「…もしかしたら今でも人が送られている可能性があるかもですね…。」
とりあえず急ぐしかない!
佐久間さん…どうかご無事で…。
島の反対側にたどり着いた。
私たちがそこで見た光景は…。
「オラァ!」
「ドラァ!」
マオウがファフニールを地面に向けて叩きつけ、佐久間さんがしたから拳で打ち返している。
…うん、ファフニールでラリーしている。
「大丈夫そうですね。」
「そうですね!私たち来る意味ありましたかね?」
「流石マオウ様とマオウ様が認めたお方。要らぬ心配だったようですね。」
確かにこの状態がずっと続くなら何とかなりそうだが…。
佐久間さん達と合流して一体どれぐらいの時間が経っただろう。
そろそろ日が明けそうな時間だ。
2人は合流してからもずっとラリーを繰り返している。
ただ変化していることが一つ。
明らかに佐久間さんが疲れてきている。
「エルヴィアさん、マオウに佐久間さんがバテてきてることを伝えてきてもらっていいですか?そもそも佐久間さんはマオウとの戦いでボロボロなんです。」
「了解しました。少々お待ちください。」
エルヴィアさんは天高く飛び上がりマオウの元へ向かった。
しばらくして今度はマオウとエルヴィアさんが空中でファフニールをボコボコにしていた。
「佐久間さん!大丈夫ですか!?」
「あーうん。クソほど疲れたけれど怪我はないよ。」
「お疲れ様です!」
「おー早瀬さんどうだった調べた結果は?」
早瀬さんはこの島の過去を改めて佐久間さんに説明した。
「生贄ねぇ…何とも胸糞悪い話だこと。」
「でも…その割にはあまり強くなさそうですね?」
「いや?あのファフニール多分かなり強いよ?現に半日ぐらい殴り続けてるけど未だにご存命だ。耐久力が異常だね。」
確かにあれだけやってまだ息があるのは流石だ。
「実際俺の攻撃はほとんど聞いていないと思う。俺はあくまで貰った新しい装備の能力の一つである衝撃波で吹き飛ばしまくってただけだからね。」
そんな話をしていたら、急にマオウ達のいる上空から急に爆発音が響く。
マオウがなんかやったのかと見上げると…空からマオウが落下してきた。
「はぁ!?」
「おい!?どうしたマオウ!?」
さっきまで完璧にハメ技決まってたのに。
なんでマオウが吹っ飛ばされてるんだ?
「チッ…。油断したか。どうやらまだ隠し技を持っていたようだ。」
マジで?
そんなものあるなら半日もラリーされてないで使えよ!
『生憎これは死ぬ寸前まで追い込まれないと使えない最終手段でな…時間がかかったことについては自分たちの非力さを呪え。』
また空から何か降りてきた。
そう思い視線を移すと…。
気絶したエルヴィアさんの頭を片手で鷲掴みにしている、人型の何かがいた。
『やはりこの姿の方が動きやすくていいな。』
そういうと片手に掴んでいたエルヴィアさんを乱雑に投げ捨てた。
咄嗟にマオウがエルヴィアさんに駆け寄る。
「エルヴィア!大丈夫か!」
マオウがエルヴィアさんに駆け寄ったところにファフニールは毒の炎を放つ。
「不味い!」
「任せてください!」
ルシルさんがすぐに結界を展開して2人を守った。
しかし毒の炎が周辺に飛び散り、毒ガスを絶え間なく発生させる。
「これじゃ結界が解除できない…。」
『ハッ!そんなに大切な雌なら首輪でもつけて城に隠していれば良いものを…。』
「キサマ…。」
分かりやすい挑発だ。
だが今の魔王はそれに乗ってしまうほど冷静さが欠けていた。
「おい!この結界を解け!あの野郎ぶっ潰してやる!」
「バカ!弱ってるエルヴィアさんに毒ガスがかかったらどうすんだ!」
マオウだけなら何とかなるかもだが今のエルヴィアさんにこの量の毒ガスは多分まずいだろう。
「俺が何とかしてやるからそこで正座してろ。」
「………まかせた。」
よし、少しは冷静になったようだ。
今だに心底キレていてファフニールを睨みつけているが。
「…早瀬さん、相手は毒を使うドラゴンだから多分早瀬さんの武器の毒も効かないと思う。だから時間稼ぎだけ頼みたい。いいかな?」
「了解です!」
「その間にルシルさんはマオウ戦の時みたいに俺に聖女パワー貸してくれ。レーヴァテインの吸収能力はこの手甲に引き継いであるから。」
「了解しました。それでは手をこちらへ。」
ルシルさんが俺の手を握る。
すると周りの空間が淡く光る。
早瀬さんじゃあれを倒すのは恐らく厳しい。
それに一撃でも攻撃を喰らうと命取りだ。
あまりゆったりとはしていられないな。
「…マオウ様?」
「エルヴィア!目が覚めたか!?」
「あぁ…私、気を失っていたのですね。」
油断していた。
撃ち落とされたマオウ様に気を取られ、その隙をファフニールに突かれてしまった。
「お手を煩わせて申し訳ございません。」
「構わん。今は少し寝ておけ。どうやらサクマが…私たちの分までやってくれるようだ。」
「………彼が奴に敵うでしょうか?」
「敵うさ。」
確かにファフニールは魔力量も跳ね上がり、何倍も強くなっている。
しかし…。
「人型になったのが運の尽きだな。あんなに殴りやすそうな見た目になったら駄目だ。」
結果的に奴はサクマの土俵に入ったのだ。
「準備できました!佐久間さん、お気をつけて!」
「しゃあ!早瀬さん!チェンジ!」
「はい!」
早瀬さんと変わり、ファフニールと向き合う。
『ふん、貴様か。生憎だが貴様の攻撃は先程から俺に聞いていないぞ。』
んなこと知っとるわ。
「いいよ。こっからは俺の独壇場だ。」
一気に距離を詰める。
俺は顔面に向けて拳を叩きつけた。
『なに!』
多分普通に避けようとしたんだろうが…生憎そう簡単にはいかないだろう。
ウルス君の世界で手に入れたメデューサの盾の宝石。
その能力は『攻撃対象を硬直させる効果』。
俺の拳を避けようとするならどうしても拳の軌道を読む必要がある。
だがその軌道を読むには拳を見なければならない。
「とりあえずその顔面が歪むまで聖女パワーぶち込んでやらぁ!」
『チッ!』
咄嗟に距離を取ろうとするファフニール。
しかし…。
「逃さねぇよ。」
ファフニールの足を思いきり踏みつける。
それによってファフニールは後ろにのけぞることができない。
『ぐっ!?』
うまく後退できず仰反ったところでさらに拳を顔面へ。
勢いよく飛ばされたファフニールは尻餅をついて倒れた。
すかさずファフニールにマウントを取る。
「あんまりいい絵面じゃないけれど、一方的にやらせてもらうぜ。」
そのまま馬乗りでファフニールに拳を何度も振り落とした。
『ん…。』
「お!マオウー。意識取り戻したみたいだぞー?」
「そうか!今行く!」
『た、確か俺はあの人間に馬乗りで…。』
思い出すだけで身震いする。
抵抗できない魔物に覆いかぶさり殴りかかる人類など聞いたこともなかった。
この人間に…え?
『な!?なんで貴様はそんなにでかくなっているのだ!?』
俺を倒した人間は見上げなければいけないほど大きくなっている。
人類は今こんな芸当もできるのか?
「…周りをよく見てみろ。お前が縮んでるんだよ。」
確かに周辺の木々や鳥も大きい。
まさか…。
「なんか殴りまくったら縮んでトカゲサイズになっちまったんだよ。お前。」
『ば、馬鹿な!攻撃を受けて弱体化するならわかるがたかだがトカゲに成り代わるなど聞いたこともないぞ!一体俺に何をした!』
「えぇ…知らん。」
「多分ですけれど…ファフニールに私の聖なる力を用いたことで完全に浄化したのかもしれませんね。」
そんなことが起こりえるのか?
「まぁとにかくその状態じゃマオウの邪魔もできないだろうし殺さないで置いたんだよ。よかったじゃん。」
『良いわけあるかぁ!』
「というわけでマオウ。こいつの処分はお前に任せる。」
「おう!任せろ!」
『クッ!殺せ!』
こんなドキドキしないくっころは初めてだ。
「まぁ今のところは復活は全然できなそうだし、復活したところでこれからは生贄を受け取れないから多分こいつはお前に逆らえないだろうな。」
「そうだな…部屋で飼うか!」
「そうですね…とっても世話のし甲斐がありそうです。」
エルヴィアさんが満面の笑みで答える。
こりゃ大分頭に来ているな。
「まぁ俺からしたらこのトカゲをどうしようが知ったこっちゃないから好きにしろよ。」
『誰がトカゲだ貴様ァ!』
ファフニールとの戦いが思ったより長引いたせいでいつの間にか五日目の昼になっていた。
現在俺は城作りの手伝いをしていた。
「まったく…昨日あんな戦いをしておいてよく動けるな。」
呆れたようにマオウが話しかけてくる。
「うるせーよ。お前もさっさと働きやがれ。」
この世界にいられるのもあと数時間だ。
あんまりゆっくりしていられない。
「…世話になったな。」
「…何だよ急に。」
「別に…何から何まで世話になったと思っただけだよ。」
…ここまでストレートに感謝してくるとは思わなかったな。
「どういたしまして。明日からは俺たちはいないんだから頑張れよ?みんなと仲良くするのよ?」
「えーいうるさい!それぐらいよくわかってる!言われんでもうまくやるわ!」
「なら良し…どうせこの世界はろくでもないからな。多分お前はこれからも面倒ごとに巻き込まれるだろうよ。そんな時に助け合える奴が少しでもいることがきっとお前の人生を良いものにするから。」
「まったく…お前は俺の親より親らしいことを言っているな。」
「そりゃ自分の子供を一族の最終兵器みたいに使うやつより俺はしっかりしているからな。感謝しろ。」
「…あぁ、本当に感謝しているよ。」
「できたー!!!」
城が完成した。
マジで苦行だった。
前も言ったけど魔王引退したのに城なんか建てるな。
「いやいやよくやってくれた。本当に助かったぞサクマ!」
「そりゃどうも…。」
マオウと会話しているとルシルさんがやってきた。
「佐久間さん、そろそろ戻らないと…。」
「お、もうそんな時間か。じゃあ帰ろうか。」
こうして俺たちはこの世界での仕事を終えた。
「というわけで上原さん。この武器を持ち運びしやすくするために上に掛け合ってくんない?」
「まったくしょうがないですね…。」
俺は事務所で上原さんに島に行ってからの出来事と新武器について報告していた。
「それはいいですけど…最近佐久間さんは私の見てないところで命がけの戦いばかりしてますね。」
「まぁ最近は上原さんに事務仕事押し付けちゃってるからねぇ…。」
「それもそうですけど…前まではもっとおとなしい感じの世界もあったじゃないですか。最近危険な世界へ飛ばされる頻度が高い気がして…。」
「言われてみればそうかも?」
そういえば最近バトルばっかしてるな。
「まったく…待っているこっちの身にもなってくださいね。」
そんな無茶な。
でも確かに最近のバトルラッシュは疲れがたまっている。
次の世界は平和だといいな…。
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