魔王引退編:魔王終了のお知らせ

武器作成を依頼し無人島に戻った。

島に戻ると相変わらずゴブリンたちが忙しそうに家を建設中である。

「そういえばどんな家を立てるつもりなんだ?」

さっき骨組みを見た時も思ったがかなり大きい。

そう、このサイズ感はまさに…。

「設計図はこれだ。」

渡された設計図を見て…これは…。

「めっちゃ城じゃん。」

そう、このサイズ感は明らかに家とかのレベルを凌駕している。

てっきり豪邸でも立てるのかと思ったが…。

設計図越しでも分かるその禍々しい外装、おぞましい雰囲気。

「めちゃめちゃ魔王城じゃん。」

お前魔王やめたのにまたそれっぽい城建てようとしてんの?

何となくマオウに視線を移す。

「なんというかその…急に生活基準を下げるのに抵抗があってだな。」

マオウは俺の視線から逃れようとそっぽを向いた。

…まぁ確かに分からなくはないけどさぁ。

これじゃあはたから見ても引っ越ししただけに見えんか?

「魔王はまだ負けてないって他の魔物たちが勘違いして集まってきても知らんぞ。」

「流石にないだろ…ないよな?」

知らないわ。

てかあんなにゴブリン呼び出したら何処かしらで他の魔物に居場所か伝わるかもしれないのでは?

「…無人島だからって油断してるなよ?」

「まぁもしここまで来るやる気のある魔物がいるなら相手してやるさ。」

流石元魔王のマオウさん。

思考があまりにも強者。




3日目夜。

俺は事務所に戻って上原さんとルシルさんに一日の報告をしていた。

「ちなみに上原さんは今日何してたの?」

「私はルシルさんに留守番を任せて、人間側の様子を見て回ってきました。」

流石上原さん、何となく気になっていたことを調べておいてくれて助かる。

「魔王を何者かが討伐したと言う話はほとんど知らない人がいないよいな状態です。一般市民は世界の脅威が去ったことに喜びお祭り騒ぎですね。」

「そっか…。」

なんというか…それなりにマオウと親しくなった身としては複雑だ。

アイツが統治していたのはあくまで魔物のみだったが、人類にも損害が出ない良い努めていたのに。

「それと…様々な貴族達が『コイツこそが魔王を打ち倒した勇者です。』と息子や従者を城に送り出しているもと…。」

うっっっわ。

正直そういう人たち出てくるだろうなとは思ってたけど。

「何というか…人間は愚かだねぇ。」

「今城では本当に魔王を討伐した者は誰なのかを調べているようです。佐久間さんの顔を見た人もいるかもしれませんのでもう人間の生活圏に佐久間さんは入れませんね。」

確かに残り2日で見つかって変に祭り上げられたら面倒だ。

それに『魔王倒したのは俺だけど俺は別世界に帰るんで!』って言っても認めてなんかくれないだろう。

「やっぱ人類は駄目やな!魔物が一番だ!」

「その魔物達にも佐久間さんは狙われています。」

「….何で?」

人類側は分かるけど魔物側は何でだよ…。

「魔物の中には血の気が多い種族も多いらしく、魔王を倒した佐久間さんと純粋に戦いたい者や魔王よりも自身が強いという証明し新しい魔王になろうと画策する者が多く存在します。」

…そりゃ魔物側からすれば自分たちより強い人間が出てきたとなると内心穏やかじゃなくなるかもとは思ったけどさ。

「というわけで佐久間さんは暫く無人島以外には行かないようお願いしますね。」

「…はい。」




4日目。

朝早くから早瀬さんと共に無人島へ向かったのだが…。

「はっや。」

何というか…もうほとんど完成しているのでは?

「お!来たかサクマ!」

あ、マオウだ。

「なんか…もうほとんど完成してないか?」

「あぁ!昨日から寝ずに作業してるからな!」

…寝ずに作業してるからな(ゴブリンたちが)だろうな。

実際マオウはすこぶる元気でゴブリンは死んだ魚のような目をしている。

…いや、マオウだし体力がただ単にエゲツなく、一緒に作業していたのかも…?

「……マオウ今日は何時起き?」

「え?…7時くらい?」

こいつ…魔王か?

元魔王だったわ。

「…ゴブリンは全部で何匹いるんだ?」

「え?大体30匹ぐらいかな。」

「早瀬さん、エルヴィアさんに事務所まで飛ばしてもらって。ゴブリン用のドリンクとか軽食を持ってきてもらいたい。」

「了解しました!」

「あとマオウ。」

「な、何だよ…。」

「お前はもう魔王じゃない。だったらこんな理不尽な作業形態はやめろ。」

「…別にいいだろ。俺のことを慕ってくれてるんだから。それに逆らったところで俺に叶う奴なんて…。」

「そういう問題じゃない。」

コイツは魔王として頑張ってた割に敵が多いのは何故がよく分かった。

多分こういう幹部とかよりも圧倒的下の部下を雑に扱いすぎている。

身近な奴らしか大切にできていないんだ。

「確かにお前に逆らえるような奴はあのゴブリンたちの中にはいないかもしれない。でもお前から離れたがる奴なら山ほど出てくる。敵は増えなくても味方が減るんだ。それはお前にとっても望ましいことじゃないんだろ?」

「それはそうだが…。」

「それにお前はもう魔王じゃない。ただでさえ魔王軍解散でお前から離れた奴も多いのに変なことして味方を減らすなよ…。」

「………。」

しばらくすると早瀬さんが帰ってきて支給品をゴブリンたちに配布できた。

ゴブリンたちの目も死んだ魚の目から生きた魚の目ぐらいには回復した。




しばらくした後マオウに呼び出された。

「どうした急に?」

「…ひとつ気になったことがあってな。」

何だか深刻な感じだ。

「お前から見て…俺は…魔王の素質があると思うか?」

…何だ急に。

「いや…そんなの魔物側が自分たちの上の立場に何を求めてるかによるだろ。もし魔物たちが魔王に圧倒的な力を望んでいたならお前は適任だったと思うぞ。」

…魔王はどこか納得いっていない様子だ。

「お前の価値観でいい。どう思う?」

「………まぁ向いてはなかったんじゃない?お前基本的に周りの人間しか見えてないっぽいし。」

「…これでも魔物達のために働いてきたつもりなんだが。」

「そりゃそれが仕事なんだから当たり前だろ。仕事だからじゃなく自分の意思で魔物達を守りたいとか思ったことあんの?」

「………。」

「まぁお前は魔王になったからその仕事をしたんだ。その仕事をしたくて魔王になったわけじゃない。そう考えるとむしろ長年よく頑張った方だと思うぞ。」

「……………。」

あれ?無言なんだけど。

大丈夫?泣いてない?

言い過ぎちゃったか?

「そうだ…俺は元々、魔王になんかなりたくもなかった。勝手に同族館に祭り上げられ、勝手に周りが俺より弱く、勝手に俺を王にした。魔物達への想いなんてこれっぽっちもない。」

…望まない立場に担ぎ上げられ何万年も働かされた。

そのストレスから逃れる為に、ただの部下を使うのはあくまで事務的に、効率のみ考えてた対応にするという方法を無意識にしていたのだろう。。

(色んな奴らのためとか考えて生きるなんて、本来誰でもしんどいものだしな。)

下を向き黙ってしまったマオウ。

この数万年が間違いだったのでは…とか思ってるのかもな。

「…まぁ今更気にしても意味ないだろ。」

「え?」

「お前は生まれてすぐに同族たちに兵器として扱われ、その後は望んでもいない多忙な魔王にされた。やっとそれらから解放されて自分の人生が始まるんだろ?時間の無駄だそんな悩み。まぁ?また魔王になりたいなら話は別かもしれないけどな?」

「いや、それは絶対にない。」

「だろうな。だったらお前が今するべきはその後悔じゃなく、慕ってくれた奴らを大切にすることだけ。もう重圧も責務もないんだから簡単だろうが。」

そう、もう彼は魔王なんかじゃない。

ただのマオウという自由な魔物になったのだ。

「助けられたなら感謝して、嫌なことされたら怒って、好きになったら愛せばいい。俺はそれができてないから怒ったんだよ。」

「あぁ、そうだ。その通りだな!」

お!ちょっとは調子戻ってきたかな?

「なんだ…何万年も生きて全てを知ったつもりだったが、俺はまだまだ自由を知らなかったんだな。」

「そうそう、まだまだお前は自由初心者なんだよ。」

「俺はもっと自由に周りの奴らと生きていいんだ。やっと分かったぞ!ちょっと城作り手伝ってくる!建築作業とかずっとやってみたかったんだ!」

そう言ってマオウは駆け出していった。

「なんかガキみたいにはしゃぎ始めたな。」

「なんか青春ぽいかもですね!」

「うへぇ!」

ビビった。

いつのまにか隣に早瀬さんがいた。

「いつから居たの?」

「『どうした急に。』辺りからですね。」

最初からじゃねぇか。

いるならいるって言ってよドキドキしちゃう。

「…で?なんで急に現れたの?」

「例の穴について少し気がかりなことがあるので一回人間の生活圏にいってもよろしいかと!」

「まぁいいけど…何かあった?」

「なんか穴の中から声が聞こえる気がして!」

…これまた何か変なことに巻き込まれそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る