魔王引退編:魔王の過去

「というわけで俺も土地探し参加したいです!」

「駄目です。」

武器鍛冶を紹介してもらう為に俺も土地探しに参加しようとしたらルシルさんに一言で止められた。

「はぁ…せめて一日ぐらい身体を休めてくださいよ。」

ため息混じりに諭されてしまった。

「だ、だってぇ…。」

「だってじゃないです。それに早瀬さんにさっき聞きましたけど、もう良い場所が見つかったようですよ?」

「え?マジで?」

仕事早すぎない?

「もしかして俺いらない子?」

「はいはい、絶対そんなことないですからね。ただ今は身体を休めてくださいね。」

なんか昨日から若干ルシルさんが母親みたいになってるな。




「というわけで良い土地見つけました!」

早瀬さんが意気揚々と帰ってきた。

「魔物は恐らくいない、人間が来ることもほとんど無いような無人島です!」

なるほど無人島か。

それなら相当のことがない限りは人が流れ着くことはなさそうかな?

「その島に魔物がいたという話は聞いたことがないな。少なくとも魔王軍関係の者はいないだろう。」

「てことはお前の身分を知ってる奴も居なそうだし、スローライフにもってこいだな。」

「まぁこんな何もない上に人類の生活圏から距離もかなり離れている土地を欲しがる人もいないだろうしな。」

「では偵察の意味も含めて明日にでも行ってみましょうか。」

やったぜ。

1日休んだし明日は行っても良いよね。

ルシルさんに視線を送る。

あ、納得してない顔だ。

目を逸らしておこう。




元魔王たちは他の魔物に見つかると面倒らしい為事務所に泊まってもらった。

「というか一ついいか?」

「何だ?」

「"元魔王"って呼ぶのなんか変な感じなんだけど、お前名前何なの?」

「…名前?」

「何でそこで疑問が湧くんだよ?」

「…魔王を名乗って数万年経っているからな…正直覚えていない。」

「マジか。」

まぁ…数万年も名乗らないと忘れるものなのかな?

「エルヴィア、俺の名前なんだっけ?」

「…申し訳ございません。」

マジかよ側近も覚えてないのかよ。

「というか…お前はどういう魔物でどういう流れで魔王になったんだ?」

「….まぁお前たちなら隠さなくてもいいか。俺は元々人間と魔物…ウィッチのハーフだ。」

「あら、なんか訳ありっぽい感じ。」

「人間と魔物のハーフだとバレると人類側からも魔物側からも迫害されます。そんな存在が魔王に君臨していたとバレると速攻で反旗を翻されるでしょう。」

なるほど、この世界の魔物や人類にはバレたくないことなんだな。

考えてみれば、俺らの世界の作品でも良くある設定である。

人間からすれば脅威である魔物の血が流れている、魔物からすれば迫害する人間の血が流れている。

どちらからも差別されてしまう立場だ。

「魔王になったのはシンプルに俺が強かったから。当時は魔物同士での争いも多く、どの種族も疲弊していた。そんな中、誰かが言ったんだ。『種族ごとに代表を1人だして戦い、生き残った者に魔王として魔物を統一してもらおう』と。」

…それで勝ち残ったってことか。

「どの種族も自分たちが魔物のトップでありたいと奮起していた。そんな中ウィッチ族の代表として俺がでることになった。俺はウィッチ族の最高傑作だったからな。」

「…最高傑作?」

「どうして人間とウィッチが結ばれるようになったと思う?」

「え…なんか勝手に種族を超えた愛的なラブロマンスだと思ってたけど違うの?」

「全然違いますね。ウィッチ族は魔法に長けているものの身体能力が極めて低い種族です。ではもしも身体能力も高く魔法にも長けたウィッチが作れたらとても強力だと思いませんか?」

「あー…人体実験的な感じか?」

「その通りです。ウィッチは研究熱心な者も多いので、様々な種族との交配を得て優秀な個体を作り出そうとしていました。」

「最初はゴブリンやオーク、ウェアウルフなど力自慢な魔物との交配を試していたのですが上手く子供が作られませんでした。そしてウィッチたちは、他の魔物同士での交配で遺伝子が噛み合わなかったので今度は人間で試してみようという考えに辿り着きました。」

「で俺が生まれたってわけ。」

「なんというか…業が深いねぇ。」

「人間との交配もなかなか大変だと思いますよ?まずは優秀な人類を選別して誘拐することから始まり、何名かのウィッチと交わらせて子供ができるかを試します。その実験の中で唯一生まれたのが魔王様です。」

なんか薄い本にありそうな展開だな。

「それ以降人間とのハーフは作られなかったのか?」

「俺が生まれた後にも何度か試してはいたが新しい子は生まれなかった。そして俺が魔王になった後、ウィッチは色々な種族を誘拐しては交配するやばい種族だとバレ始め、敵対視され滅ぼされた。」

「…魔王がそんなやばい種族の出身であることに異議を唱える奴はいなかったのか?」

「いたが全員力で黙らせたよ。」

「魔物の間でも、魔王様がウィッチとなんの種族が組み合わされた者なのか良く話題に出ていましたね。人類と予測するものは1人もいませんでしたが。」

「魔物にとっては人類は等しく弱い存在だ。そんなものと交配しようなんて普通は考えないからな。」

なるほどねぇ。

「ちなみにウィッチ族内ではお前はどんな扱いだったんだ?まさか自分たちで作り出しておいて人類の血が入ってるから迫害とかいいださないよな。」

「いや普通に迫害されたし、基本的にはウィッチ族の最強の兵器として道具のように使われたな。」

マジかよウィッチ族最低だな。

そりゃ滅ぶわこんな奴ら。

「あ!思い出した!」

元魔王が急に声を上げる。

「俺そもそも名前なんて付けられてなかったわ。だって兵器だもん。」

「あぁなるほど!通りで私にも記憶が一切ないわけですね!」

2人とも名前を思い出せなかった理由が分かってスッキリしたような表情をしている。

いや我々人類的にはドン引きよ?

「だから初めて魔王と呼ばれた時はこころから嬉しかったよ。初めて呼び名を貰えたんだからな。」

元魔王は感慨深そうに目を閉じる。

「じゃあもうお前の名前マオウでいいんじゃない?1番呼ばれて嬉しいだろ。」

「引退したのにか?」

「別に誰とも関わらずスローライフするならいいだろ。それにエルヴィアさん的にも呼びやすいんじゃない?」

「そうですね…マオウ様と呼ばせていただいてもよろしいですか?」

「まぁ…みんながいいならそれでいいか。」

「さて!呼び名も決まったし明日に備えてもう休もうか。マオウは武器鍛冶の紹介忘れんなよ。」

「あぁ、任せておけ。」

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