魔王引退編:反省

「ただいま戻りました。」

「ただいまです!」

「…おつかれーす。」

「佐久間さん!!!」

もの凄い勢いで上原さんに詰め寄られる。

「ちょっと様子見てくるって言ってたのにどこ行ってたんですか!?しかも何で魔王と戦ってるんですか!?しかも何でボロボロなんですか!?」

「あばばばば。」

肩を掴んで揺らさないでください。

あとボロボロなのは服だけで身体の傷はルシルさんに直してもらったから落ち着いて欲しい。

「様子見のはずが魔王にそのまま連れてかれちゃったからしょうがないんだって。」

「せめて戦う前に事務所に帰って来て情報共有とか万全な状態にしましょうよ。何早瀬さんに伝言任せて一人で暴れてるんですか。」

それは…そうですねぇ。

ぐぅの音もでない。

「どれだけ…どれだけ心配したと思ってるんですか!!」

「はい…本当に申し訳ございません。」

一応やばかったら止めるとは言われてたけどみんなはそのこと知らないしなぁ。

「とりあえず今日あったことを諸々説明するね。」




「つまりこの世界の主人公は魔王で、魔王を引退することが願いだった。そのために全力で戦って自分を負かして欲しいと頼まれたと。」

「そうそう。」

「それにしても命を削るような武器を急に渡すとかどうなってるのですか?その魔王様は倫理観がおかしいのでは?」

ルシルさんが憤慨している。

「いや…そもそも異世界と俺らの世界の倫理観が一致してる方が珍しいし、何よりアイツも魔物だからね。人間らしい倫理観を求めるのは酷ってもんだよ。」

「それは…そうかもですけど…。」

「まぁ魔王としての業務から早く解放されたくて堪らなかったんだろうね。」

「その通りだ。」

玄関の方から声がした。

「来るの早えな。」

ドアを開けるとそこには先ほどまで戦っていた魔王が立っていた。

「サクマ!改めて礼を…。」

「喰らえやオラァ!!」

「ぶべら!」

思いきり顔面を殴る。

「お前よくも変な剣を持たせやがったな。」

「す、済まない…なんかテンション上がっちゃって…。」

「テンション上がったからって魔剣を渡すな!」

魔王を満足するまで殴った後…。

「で?何しに来たの?態々事務所に来たってことはなんか用事があるんじゃないの?」

「用事というか…今回の件について謝罪と礼をするべきだろうと思って…。」

「魔王の最後の仕事として魔物達に説明とかしたんか?」

「今エルヴィアがしてる。」

「人任せかよ…そもそも礼はいらない。仕事だからな。それはそれとして謝罪は深々としろ。」

「本当に申し訳なかった。この通りだ。」

深々と頭を下げてくる。

…ここまでされて許さないのは流石に良くないか。

「よし、許す。今日はもう遅いし、次来る時は魔王を完全に引退してから来いよ。最後なんだからしっかり仕事やり切っとけ。」

「あぁ、ありがとう。」




この世界について2日目。

…まだ2日目なのか…1日目が濃すぎる。

早瀬さんはとりあえず情報収集をしに朝から事務所をでて、上原さんは昨日の出来事を報告書にまとめてくれている。

一方俺は…。

「ルシルさん、寝てるだけは暇なんだが。」

「何言ってるんですか!生命力をかなりの量吸われたんです。私の力だけじゃまだ全然完治できてないんですから今はゆっくり休んでください。」

強制的に休まされていた。

すんごい暇です。

「一応仕事に来てるわけだしずっと寝てるのはちょっと心苦しいから…。」

「それよりも私たちの知らないところで死にかけてたことを心苦しく思ってください。」

それはそうだ。

「佐久間さん、元魔王様がいらっしゃいました。」

お!どうやらしっかりと辞めてこれたらしい。

「ルシルさん、もう十分休めたから行くね?」

「…しょうがないですね。」

よし!ナイスタイミング魔王!じゃなかった元魔王。




「昨日ぶりだな。」

一階に降りると元魔王とエルヴィアさんがいた。

「お疲れ。魔王としての責務はもう終わったのか?」

「あぁ、魔王軍は完全に解散。もしも魔王が必要ならまた勝手に誰かを祭り上げろって行って逃げて来た。」

逃げてるんかい。

しっかりしなさいよ魔王。

するとエルヴィアさんが説明してくれた。

「そもそも魔王様が負けて引退することを知った途端、襲いかかってくるような奴らばかりですから。まともに話なんてできやしないんですよね。」

なるほどね。

…一応数万年の間自分たちの面倒を見てくれていた魔王にそれはどうなんだよ。

やっぱり魔物ってろくな奴がいないんだな。




「で?今日は何用で来たんだ?他に何か助けが必要なのか?」

「あぁ、俺はこのまま元魔王軍の一部メンバーを連れてひっそりとスローライフでもしようかと考えている。それで俺がこれから住むのに適した場所を一緒に探して欲しい。」

あら、意外と普通なおねがいじゃないの。

「希望としては魔物も人類もいないような場所出会って欲しいのだが…お願いできるだろうか。」

「全然いいよ。とりあえず早瀬さんと俺で…。」

「佐久間さんは安静にしてますよね?」

「はい。佐久間さんは事務所で安静にしていてもらいます。」

後ろにいるルシルさんと上原さんに声を遮られた。

「…了解。」

…少なくともこの世界ではこれ以上無茶はできなそうだ。

「…なんかしたのか?」

元魔王が話しかけてくる。

「…何割かはお前のせいだからな反省しろ。」




しばらくして早瀬さんに元魔王の要望を伝えた。

そしてエルヴィアさんと早瀬さん、上原さんは理想の土地を探しに行き、俺は元魔王と駄弁っていた。

「それにしても色々な世界を回っているとは…通りでお前のような男が出来上がるわけだ。」

「…そういや最初から疑問だったんだけど、お前は何でそんなに俺への評価が高いの?」

「一眼見れば超えて来た修羅場の量ぐらいわかる。それと…お前何か面白いものを持っているだろ?今日使っていた銃という武器や剣以外でな。」

面白いもの?

別にそんなもの特に…あ。

「もしかしてこれとか?」

ここ最近手に入れた宝石たちを見せる。

「それそれ!そんなものを持っている奴が只者じゃないだろうと察してな。」

「まぁ便利なものではある。うまくこれを武器とかにできる奴いないかなって思ってるんだけど、どうも都合の良い武器鍛治が見当たんないんだよな。」

「ふむ…。紹介してやろうか?武器鍛冶。」

「…マジで?」

「あぁ、本当に迷惑をかけてしまったからな。土地探しが終わり次第、腕利きの鍛冶屋を紹介しよう。」

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