魔王引退編:決着

「エルヴィア、大丈夫か?」

「…はい、ご心配をお掛けして申し訳ございません。」

「気にするな…俺も今ものすごく反省しているところだ。」

チラリとサクマたちの方を見る。

「つい熱中してサクマに魔剣など持たせてしまった。命の保証をするなど言っておきながら死ぬ寸前まで戦わせてしまった。」

「…そうですね。私も止めませんでしたので同罪です。」

「どうにか立ち上がって欲しいものだが…。」

「あの聖女とやらでは駄目なのですか?」

「そうだな…場合によってはあの女に頼むこともあり得るが…せっかくならサクマに来てほしいんだよ。」

久々に心が躍る戦いだったのだ。

できればこんな不完全燃焼で終わらせたくない。

「…さて。こんなところでいつまでも話しているわけには行かないな。人類どもが周りで見ているだろう?邪魔くさい視線をいくつも感じる。」

魔王様とサクマ様が暴れた影響で恐らく偵察隊がどこかから見ているのだろう。 

「幹部の何名かに彼らへの被弾が起こらないよう警戒させます。」

「頼んだ。」

さて、それではあの聖女の結界を壊せないか試してみるか。




「ルシルさん…行けそうかな?」

「もう少しだけお待ちください…。」

結界に火球が飛んでくる。

魔王が攻撃を再開したようだ。

結界に小さな亀裂が入った。

「…このままだと結界が!」

「佐久間さん、多分これでいけると思います。」

「分かった。ありがとう。」

「絶対に!無茶はしないでくださいね!!」

ものすごい剣幕でルシルさんに詰め寄られる。

「はい…。」




「ボコスカ撃ってんじゃねぇよ。」

結界を一時解除してもらい、魔王の前まで歩いていく。

「…なんだ、もう引きこもるのはやめたのか?というか魔剣レーヴァテインはどうした。」

「うちの聖女に破壊された。弁償はしないからな。」

「構わんさ、それよりどうする?このまま続けるのか?お前と聖女が変わってもいいが?」

「あの娘はうちで1番後輩なんでね。お前みたいなばっちい奴に触らせるわけには行かないんだよ。」

剣も持たず、銃ももたず、ただ魔剣から出て来た宝石を握りファイティングポーズをとる。

「お前は魔王に対して拳で挑むのか?先程まで武器を使ってもまともなダメージを与えられていなかっただろうに。」

「いや、今はこれが最善だ。」

拳を振るう。

魔王は避ける様子がない。

そりゃただの拳から魔王が逃げるわけには行かないよな。

構わない。

避けないのならモロに喰らえ。

全力の正拳突きを魔王の腹に叩き込んだ。

瞬間拳から光が溢れる。

そして魔王は遥か遠くまで吹き飛んだ。




…何が起こった!?

ただの人類の拳だったはず。

しかし奴の拳に触れた瞬間に感じたあの光は…。

「間違いなく聖なる力だった。」

奴もあのせいと同じ力が使えたのか?

だったら今まで出し惜しみする理由がないはず…。

「…レーヴァテインの宝石か。」

あの魔剣は元々は力を吸収する宝石の力で強化する武器であり、本来は生命力を奪う物ではなかった。

それを魔物に対して使い過ぎたことで魔力を吸い込み過ぎてしまい、使用者の生命力を喰らう魔剣と化した代物だった。

「魔剣を壊し宝石のみを取り出し、聖女に力を加えさせたのか。」

中々面白いことをする。

やはりサクマ、アイツこそ俺を倒すのにふさわしい。

もうこちらも聖女の攻撃やレーヴァテインでの攻撃でボロボロだ。

「最後は全力で殴り合いと行こうか。」

俺は再びサクマの元へ飛んで行った。




魔王が帰って来た。

そして俺と同じようにファイティグポーズをとっている。

どうやら殴り合いをお望みのようだ。

都合が良い。

遠くから魔法を打たれ続けるよりも何倍も良い。

「「はぁぁぁぁ!!!」」

互いの拳が身体にめり込む。

ここからはノーガード。

どちらが先に膝をつくかの勝負だ。

だが殴り合いとなったら負けられない。

今までさぞ豪快な魔法で戦って来たであろう奴に負けてたまるかよ!




魔王様とサクマ様の殴り合いに変化が見られ始めた。

互いに互いを削り合っていた拳が、いつのまにかサクマ様には当たらなくなっている。

魔王様の拳が当たる寸前で見切って避けている。

…どんどんと追い詰められている魔王様。

とても…とても楽しそうに笑っている。

何万年もの間、魔王という立場にいた彼を見続けていたからこそ分かる。

確かに魔王という仕事が嫌で辞めたいという思いはあるだろう。

ただ彼のことだ。

1番魔王を辞めたい理由は…。

「退屈でしたものね…。」

勇者は殆ど彼の元に辿り着くことはなく、魔物同士の争いを力でねじ伏せ止める時も心底つまらなそうだった。

だが今の彼はどうだ。

あんなに楽しそうなのはまだ魔王になったばかりで野心と希望に満ちていた頃以来だ。

「彼に感謝しなければいけませんね。」

今魔王様と対等に、そして魔王様を超えて殴り合いをしているサクマ様に。





一体どれだけの時間殴り合いをしていたのだろう。

こちらの拳はいつの間にか届かなくなだて、もう俺は限界だ。

「サクマ…これが最後の1発だ。避けるも受けるも好きにしろ。」

右腕に残された魔力の全てを集める。

「喰らえ!」

俺の今の全力を叩き込む。

「オラァ!」

サクマも拳を突き出し、互いの拳と拳がぶつかった。

聖なる力と魔力が力を削りあう。

「!?」

急にサクマの拳の勢いが弱まる。

(聖女に入れてもらった力が底を尽きた!)

チャンスだ!

このまま一気に押し切る。

「まだだ!!」

「!?」

段々と力が抜けていく感覚…これは!?

「その残された力、まるまる全部俺がもらっていく!」

成る程、聖なる力が尽きたのなら今度は俺の魔力を奪おうということか。

…最後の最後で全開の魔力を込めたことが仇になったか。

「見事だ…!?」

右腕が弾き返される。

サクマはそのまま懐に潜り込んできて…俺の顎をかち上げ殴り飛ばした。




魔王様が負けた。

周りで見ていた人類の偵察隊が慌てふためき城の方へ帰っていく。

それもそのはず、自分たちの知らぬ間に魔王を討ち取った者が現れたのだ。

大ニュース…というより緊急事態だろう。

皆様のもとに駆け寄る。

「人類が恐らくサクマ様をすぐに探しにくるかと思われます。すごにここを離れるべきかと。」

「はいはい、おい魔王。事務所戻ってるから用があるなら来いよ。」

「…あぁ。必ず向かうさ。」

そう言い残し、サクマ様御一行は荒野を去っていった。

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