魔王引退編:良い武器をくれてやる
俺と魔王の急遽始まったラスボス戦。
まぁやれるだけやるとは言ったものの…。
「身体丈夫過ぎんか。」
剣で斬りつけるが傷がついても血は一滴も出ない。
銃を撃ち込んでも一切のけぞったりしない。
(これじゃジリ貧だ…。)
今のところこちらもダメージはあまり負っていないが、一撃一撃が即死レベルだ。
しかも容赦なく魔法も撃ち込んでくる。
炎が飛んできたり雷落ちてきたり竜巻が起きたりやりたい放題である。
「中々やるじゃないか。今まで戦闘態勢の俺の前でここまで耐えてきた奴はいないぞ。」
「そりゃどーも…。こちらの攻撃は全然効いちゃいないみたいですけど。」
「それはそうだ。お前の武器はその二つしかないのか?」
「そうですね。ただの剣と少し特殊な銃です。」
「銃という武器は中々痛いが…その剣は駄目だ。そんじょそこらの魔物は倒せても俺には効かない。」
そりゃあこの剣は持ち運びが便利なただの剣だからな。
普通エクスカリバーみたいな感じの勇者の剣で倒しにいくもんだろうに。
「しょうがない…エルヴィア!アレを持ってこい!」
「はい。サクマ様、こちらを。」
エルヴィアさんが一本の剣を持ってきた。
明らかに禍々しい見た目をしている。
正直あんまり触りたくないんですが…。
恐る恐る触れてみる。
その瞬間、全身の血管が沸騰したかと思うほどの激痛が走る。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「それはいわゆる魔剣という奴でね。強力な武器であるのは間違い無いのだが、使用者の生命力を吸い取り続けててからに変える困った奴なんだ。しかも一度手にしたら死ぬまで吸い付いて離れない。」
マジで…マジでふざけんなよコイツ。
そんなものを人に差し出すとかどんな倫理観だよ。
「もちろんお前が使いこなせると見込んだ上で渡しているんだ。あと30分は戦えるだろう。」
それってつまりあと30分で俺は戦えないレベルまで生命力を吸われるって事じゃねぇかふざけんな。
「はぁ…はぁ…てめぇ。この戦いが終わったらボコボコにしてやる。」
「いや終わったらと言わず今ボコボコにして欲しいんだが…。」
うるせぇよ二回ボコすんだよ。
(意識が朦朧とする…視界がぼやける…全身に虫が這うような不快感が広がる。)
どんどん自分が狂っていくような感覚がある。
全身の不快感を払おうとするように剣を振り回す。
初めて魔王の身体から血が飛び出た。
「いい!いいぞ!その調子だ!」
魔王が巨大な火球を投げつける。
それを剣を振るってかき消した。
…渡り合ってはいる。
しかし…とてもじゃないが身体がもつ気がしない。
「くそ…くそ!」
でも今の俺には必死に剣を振ることしかできなかった。
魔剣レーヴァテインをサクマ様にお渡しして20分ほど経つ。
魔王様を倒すまであと一息といったところか。
しかし当の本人がもうまともに動けていない。
(そろそろ止めて魔剣を引き剥がすか…。)
しかし魔王様が久々に楽しそうである。
ここまで追い込まれ力を解放しているのはいつぶりだろうか。
できればもう少しだけ頑張ってほしい。
死ぬならせめて魔王様が満足するよう長く戦い続けろ。
そんなことを考えていると、遠くから何かが走り抜けてくる。
戦いが始まり人類もこの争いの影響からパニックになっているだろう。
また場違いな貴族出身の偽勇者がやってきたのだろうか。
全く邪魔くさい。
魔王様のお楽しみの邪魔をするな。
すぐに遠くの人影へ向かう。
「申し訳ありませんがただいま取り込み中ですので…。」
「どいて。」
実に楽しい!
魔王になってここまで心躍る戦いは久々だ!
サクマよ、まだ折れてくれるな!
もっと俺を楽しませてくれ!
すでにまともに立つこともできないサクマに再び襲い掛かろうとしたその時、エルヴィアがこちらまで吹き飛ばされてきた。
「エルヴィア!?どうした!」
エルヴィアが飛ばされてきた方向を見る。
そこにいたのは…。
「佐久間さん!大丈夫ですか!」
「間に合いましたね!あれ?間に合ってますよね?」
意識が朦朧とする中聴き馴染んだ声が聞こえる。
「ルシルさんと早瀬さん?なんでここに?」
「状況を説明したらルシルさんが鬼の形相で連れて行けというので!」
「お、鬼の形相なんてしてないです!」
ルシルさんが優しく俺に触れる。
…流石元聖女。
段々と身体が楽になっていく。
呼吸も落ち着いてきた。
すると魔王が近づいてくる。
随分と苛ついた様子だ。
「おい、急に割り込んできて何のつもりだ。今俺はその男と…。」
「黙れ。」
ルシルさんとは思えないほど低い声を出したかと思うと急に魔王の片目が破裂した。
「…ほう。」
「貴方が主人公だろうがなんだろうが知ったこっちゃない。誰であろうとこの人を傷つけるようなら…。」
ルシルさんの身体から淡い光が溢れ出る。
「産まれたことを後悔するまで痛めつけ、死すらも生ぬるく感じるほどの絶望を叩き込みます。」
瞬間魔王の身体が吹き飛ばされる。
「ぬぅ!?」
「早瀬さんももう少し近づいてください。簡易結界を張ります。」
「ルシルさん…そんな強かったの?」
「対魔限定です。そんなことより急いで治療しましょう。」
「それなんだけど…俺この剣を離せず生命力吸われてて。」
「これも魔ですね。フン!」
え?思いっきり俺の手から剣を引き剥がしてへし折った。
「ルシルさん強すぎないです!」
「対魔限定です。それより佐久間さん!なんでこんな危険なことしてるんですか!」
「ま、まぁ仕事だから。」
「だからってこんな危険な事しないでください!」
ルシルさんが涙を流しながら抱きついてくる。
…震えている。
どうやら心配してくれていたようだ。
「…ごめんね。少し無茶してたみたいだ。」
「本当です!無茶しすぎです!」
早瀬さんにも言われてしまった。
「上原さんは『説教するから早く帰ってきてください』とのことです。」
「ヒェ…。」
「ここからは私が戦いますから。」
「…いや、俺にやらせてほしい。」
「でも危険です!」
「それはそうなんだけどさ。流石に俺もあいつにいいようにされて頭に来てるんだ。このまま逃げ帰るのはちょっとね。」
「…何か勝機はあるんですか?私の攻撃で大分削られてはいると思いますけどそれでも強敵ですよ。」
「それは…。」
確かに魔剣がない今、有効打がない状態に逆戻りだ。
一応銃なら痛い程度のダメージが入るらしいが。
「ん?」
先程ルシルさんにへし折られた魔剣を見る。
よく見るとルシルさんのいた世界のリッチが持っていたように宝石がついていたようだ。
ルシルさんがへし折った際に一緒に割れてしまったようだが…。
何となくそれを手に取る。
「こら!それ魔ですよ!ばっちいです!」
ルシルさんに怒られた。
てか魔ってばっちいんだ。
「あら?よく見たらこれは魔の要素がないみたいです。」
ルシルさんも宝石を手にする。
「凄いですこれ!どんどん私の聖なる力を吸い込んできますね。」
え?どうゆうこと?
「それ危なくないんですか?」
早瀬さんも心配しているようだ。
「この程度で私の力は吸いきれないので大丈夫です。」
さすルシである。
「そういえば元々生命力を吸い取って力に変える魔剣だったんだ。」
元々魔力的なものが宝石に溜まっていて、割れた拍子になくなったのだろうか。
もしかして他にも色々吸い取って力に変えれるのか?
…もしかしたら…これを使えばあの魔王に一矢報いることができるかもしれない!
「ルシルさん!お願いがあるんだ。もしもこれで駄目だったら俺も大人しく君に守られることにする。だから最後のチャンスをくれ!」
「は、はい。」
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